パン屋日記 #30 見えないおじぎ
- パン屋日記

町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#30 見えないおじぎ
後輩のこうめちゃんが、
カフェラテを作るための機械を
すりすりとなでています。
「えっ、何?ラテマシンなでてるの?」
と尋ねると、
「はいー、最近この子、調子悪くて。」
と、こうめちゃんが言いました。
マンガで読んだんですけど、
OLが主人公のお話で
会社のコピー機の調子が悪くて、
「このポンコツ!」って
みんながコピー機を罵るんです。
そしたらそのコピー機、
もっと調子が悪くなって。
そんなときに別の人が、
コピー機をなでながら
「よしよし、おまえはいい子だよ。
いつもありがとう」って言うと、
コピー機が直るんです!
こうめちゃんはそう言って、
いつまでもいつまでも
ラテマシンをさすったり、
ぽんぽんしたりしていました。
根拠が頼りないわりに
その魔法はよく効いたようで、
ラテマシンは再び
元気よく豆を挽き、
ミルクをあたため、
ふわふわに泡立てるのでした。
あるとき、電話対応中のこうめちゃんが
「はいっ。かしこまりました!
ありがとうございます」
と言って、
電話機に、深々と頭を下げていました。
また次の電話のときには、
お客さまのお話を
うんうん、うんうんと
ものすごくうなずきながら
聞いています。
「こうめちゃん、
電話なのにめっちゃおじぎするね」
と声をかけると、
本に書いてあったんです、と
こうめちゃんは言いました。
「電話口でもおじぎをすると、
目には見えないけど、
気持ちはちゃんと相手に伝わるんだそうです。
だから、うなずいたりおじぎをしたりしています。
(なるほど。)
その
深い深いおじぎは、
お客さまの目には見えないのだけど
きっと、
言葉がおじぎをしたり
声がおじぎをしたりして、
ちゃんと気持ちは伝わるのでしょう。
わたしも、
相手に見えないところでも
頭を下げられる人になろうと
後輩から多くを学ぶ
パン屋なのでした。
今日の食パンアレンジ ♯04
FLAG!vol.04「&パン」での企画で、実際に編集が30品目の食パンアレンジを試食してグラフ化した企画。意外とね、おいしいアレンジあるんです! そうでないものも、ありましたが……。興味ある方は、ぜひお試しあれ!(担当編集のぼやき)
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甲斐寛子[フォトライター]
愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。
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