パン屋日記 #10 大きゅうなりました
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#10 大きゅうなりました
片手で抱っこするには大きすぎる男の子を、
片手で抱っこしたお父さんが入店しました。
わたしには、
子どもの年齢の基準がよく分からないのですが、
手足がすっかり長くなっており、
おそらく7〜8歳頃だと思います。
お父さんは、右肩にのっぺりと子どもをのせたまま
購入するパンを取り集めましたが、
さすがに困って、
お会計時に『起きなさい。ほら、起きなさい』
と言って、子どもの腰をぺしぺしと叩きました。
男の子は、ずっしりと右肩にのったまま。
「大変、ですね」と声をかけると、
お父さんは、まるで親戚に言うように
『いやー、 大きゅうなりました!』
と言って笑いました。
大きゅうなりましたね、と
パン屋も一緒に笑いました。
無事に会計を済ませ、
出口の方へくるっと向き直したお父さんの背中には、
眠ってなどいない「大きゅうなった男の子」が、
パッチリと目を開けて、こちらを見ていました。
今日のパン「レーズン食パン」
レーズンで作られたパンの一種。「ぶどうパン」とは若干違いがあり、ぶどうパンはレーズンで作られたシナモン風味のパンの一種であるらしい。でも、そもそも「ぶどう」と「レーズン」て味わい方も形も違うし、ぶどうパンなんてあまり言わない気がするけど……。こうして、言葉さえも淘汰されていく。(コラム担当編集のぼやき)
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甲斐寛子[フォトライター]
愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。
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