コラム 2019/09/02

パン屋日記 #9 まぶしいのはあなた

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町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。

人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。

#9 まぶしいのはあなた

チャラチャラしたおじいちゃんが大好きです。
使う言葉が、とにかく明るいのです。

そのお客さまは、いつも窓際のお席に座られます。
お年は、なんとなく70代前半くらい。

「まぶしくないですか。カーテンお下げしましょうか」
とお声がけすると、

「いやあ、まぶしいのはあなただけ!ありがとう!」
と言って、新聞を読まれます。

「いやあ、あなた、笑顔がいいねえ!」
と言う日もあれば、

「あなた最近、横顔がきれいになったんじゃない?」
と言う日もあります。

珍しくジャケットを着て来店された際、

「今日は、いつもと雰囲気が違いますね。お似合いです」
とお声がけすると、

お客さまはピカッと笑って
ジャケットの襟元をキュッと整え、

「あなたに会うために、オシャレしてきましたよ!」
と言ってくださるのでした。

そのお客様を店外で初めてお見かけしたのは、
大学病院の待合室でした。

わたしは、大学病院というのは
風邪を引いて来るところではない、と知っていますし、

そのお客さまが順番を待たれていた「脳神経内科」には、
難しい病気が多いことも知っていました。

声をかけずにそおっと病院を後にし、
そう、またいつも通りの、
「パン屋さんの世界」が始まります。

お客さまは、やはり本日も
さんさんと明るい窓際のお席に座られ、

「いやあ、あなた、ほくろの位置がいいねー!」
と言って、ピカッと笑うのでした。

今日のパン「プレッツェル」

ドイツ発祥の、独特の結び目が特徴の焼き菓子。見た目が可愛すぎてなかなか手に取る勇気が出ないけど、たくさんパンを買う日は、どさくさにまぎれさせて購入します。(コラム担当編集)

 

<コラム「パン屋日記」バックナンバーは下記へ>

パン屋日記 #8 用務員の木村さん

パン屋日記 #7 8月のイヤリング

 

パン屋日記 #6 パン屋と動物たちの仁義なき闘い

パン屋日記 #5「おしごとでたいへんなことはなんですか」

パン屋日記 #4 瓶ラムネが開かない

パン屋日記 #3 あるパン屋での攻防

パン屋日記 #2 飛べないカラスのパン屋さん

パン屋日記 #1 お客様という神様


甲斐寛子

甲斐寛子[フォトライター]

愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。

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