パン屋日記 #5「おしごとでたいへんなことはなんですか」
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#5「おしごとでたいへんなことはなんですか」
子どもたちが社会科見学にやってきました。
「パンをつくるときにたいせつなことはなんですか」
作り手に対する質問だったので、
ジャムおじさんのところへ聞きに行くと
「忍耐」
と、一言で返されました。
ジャムおじさん、子どもに嘘をついてくれません。
「根気強くがんばることです」
と、返事をしておきました。
「パンは1日になんこつくりますか」
「どんなきかいでパンをつくりますか」
「にんきのパンはなんですか」
最後の質問はこうでした。
「おしごとでたいへんなことはなんですか」
作り手の出勤時間は深夜3時です。
窯の前は死ぬほど暑いですし、
パン作りというのは、
想像をはるかに超えた肉体労働です。
労働時間も長いです。
ジャムおじさんは、天井を見つめました。
ジャムお兄さんも、「うーん……」と考え込んでいます。
出てきた答えはこうでした。
「別にない」
(えっ)
(えっ)って、なりました。
(ないの?)って、なりました。
「ぼくたちはパンを作ることが好きなので、
大変なことはありません」と返事をしておきました。
ほんのちょっとだけ、
パン屋のことが好きになった夏の午後でした。
今日のパン「バターロール」
生地にバターをたっぷり入れて焼いた小形のロールパン。パンのドウを巻いて焼いたもの.バター、マーガリンなどが比較的多く使われる。
<過去のコラム「パン屋日記」は下記へ>
関連記事
-
コラム
この夏、本で広島を知る。広島本大賞2冠作家・清水浩司さんが綴る「広島本大賞」歴代30冊レビュー
一冊の小説から歴史を知ることもあれば、ノンフィクションから土地の記憶に触れることもあります。コミックや絵本が、その街の空気を教えてくれることもあります。この夏、……
2026.08.11
-
コラム
【今日もえんぴつを片手に。】<第5回>校閲者と編集者 伝えるべきことは何なのか?
「観光」ジャンルの先輩「ひとの役に立ちたいですか?」打ち合わせの帰り道。唐突に投げかけられた質問に戸惑い、結局先輩の真意は確かめられませんでした。今回のコラムで……
2026.08.07
-
コラム
【著者コラム】17年通っても、まだ知らない瀬戸田がありました ― 『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』/国吉 純
前回のコラムでは、17年間通い続けた瀬戸田で、「もう一度この島を書こう」と思うまでのお話を書きました。今回は、その続きです。実際に本づくりが始まってみると、17……
2026.07.30
-
コラム
【著者コラム】17年間通った瀬戸田で、私が見つけた島の魅力―― 『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』/国吉 純
「どうして、そんなに何度も瀬戸田へ行くんですか?」これまで、何度もそう聞かれてきました。瀬戸田へ通い始めて、もう17年近くになります。年に少なくとも2〜3回、多……
2026.07.25