パン屋日記 #21 年下の先輩
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#21 年下の先輩】
「坂下さん」という、大好きな年下の先輩がいます。
3つ年下の、同僚の女の子なのですが、
最大の敬意を込めて「坂下先生」と呼んでいます。
坂下先生は、とてもお美しい。
目はパッチリと大きく、髪はかぐや姫のように黒くてまっすぐです。
坂下先生は若くして、この店で一番キャリアの長い社員です。
わたしが大きなミスをして落ち込んでいると、
『甲斐さん、大丈夫です。過去、何度もあります!』
と言って励ましてくださいます。
自らの対応の不備に落ち込んでいると、
どうかお気になさらぬように、と声をかけてくださいます。
自分でも気にしないようにしてはいるのですが、
何度も頭の中によみがえってきて、
どうしても気分が落ち込んでしまいます。
『甲斐さん、そういうときは』坂下先生が言いました。
『今日、めっちゃ気にして、明日からは気にしないことです』
坂下先生は、いつも正しい。
そしてシンプルでいらっしゃいます。
なにより、とてもお優しい。
長年頼りにしていた店長が退職してから、
わたしはすっかり、店の「怒り役」になっていました。
うまくいかない時もあります。
「坂下先生、すみません。
選手交代、持ち場を変わっていただけませんか。」
『どうしました?』
「わたしのことが怖すぎて、アルバイトの山田さんが泣いています」
坂下先生は肩にポンと手を置き、
と、先にわたしに言いました。
坂下先生は、優しい年下の先輩です。
叱った方の心も痛んでいることを、知っておられるのです。
今日のパン「カスタードクリームパン」
パン店ならほぼ間違いなく作られているパン。パンにカスタードクリームを入れようと考案した人がすごい! 今や家庭でも作れるカスタードクリームパンレシピは、どこのキュレーションサイトでも掲載していて、日々進化中。少しやわらかいしっとり派と、トロットロ派に好みが分かれる。(担当編集のぼやき)
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甲斐寛子[フォトライター]
愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。
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