
パン屋日記 #16 クマ崎さんのお留守番(3)梨をむくパン屋
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#16 クマ崎さんのお留守番(3)梨をむくパン屋
ご家族が旅行で不在のため、
初めてのお留守番に挑戦中のクマ崎さん(69)は、
パン屋の常連仲間のウサ木さんに、梨をもらいました。
「いいなあ、いいなあ」とうらやましがると
『ウサ木さんには、言うなよ』と言って、
わたしとパートさんにも、おすそわけをくれました。
その翌日。
「クマ崎さん、ゆび、どうしたんですか?」
ばんそうこうが貼られたひとさし指。
かわいそうに、痛くて曲がらないのか、
お財布を開ける時も、ひとさし指がピンと伸びたままです。
『梨をむこうとしたんじゃ』
クマ崎さんが、うつむいて言いました。
『夜中に梨が食べとうなって、むこうとしたら、
手がすべって切ってしもうた。
血がようけようけ出て、どうしょうかと思た』
69歳の「どうしょうかと思た」は、
ずしん、と心に響きました。
手を切ってびっくりしたクマ崎さんは、
指を輪ゴムでぐるぐる巻きにし、
心臓よりうんと高いところへ手を上げて、
(どうしょうか、どうしょうか)と思いながら
血が止まるのを待っていたそうです。
「あら、まあ」
と、パートさんが言いました。
「梨をもらった時に、うちへ持って帰ってむいて、
切って、タッパーに入れて、持ってきてあげればよかったね。」
わたしは、そうですね、と言いつつも
心の中では、(そこまで、する?)とも思いました。
町のパン屋さんの立ち位置とは、いったい何なのか。
「結局、梨は食べられたんですか?」
『いや、血がようけついて、食えんかった。』
これからは、
ひとりの人も、年をとった人も、
今よりさらに、多くなっていくでしょう。
「そうだなあ、たしかに、
家族でも、家族じゃなくても
梨くらいむいてあげればいいし、
パンツくらい買ってきてあげればいいよなあ」
と思ってしまった、ウサ木さんの梨事件でした。
今日のパン「目玉焼きのせトースト」
目玉焼きについて「半熟派」か「固め派」と意見が分かれることが多いですが、年齢を重ねるうちに、半熟よりも固い目玉焼きが好きになっています。なぜだか分かりませんが……。(コラム担当編集のぼやき)
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