パン屋日記 #15 クマ崎さんのお留守番(2)青のチェック
- パン屋日記

町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#15 クマ崎さんのお留守番(2)青のチェック
「ちょっと、パンツ買うてきてくれ」
お留守番も中盤に差しかかってきた頃、
クマ崎さんが、とんでもないことを言い出しました。
クマ崎さんは、洗濯の仕方が分かりません。
奥さまにあらかじめ、
パンツ10枚、靴下10枚、ランニングシャツ10枚を
準備してもらっていました。
ところがここへきて、
パンツが1枚足りないことに気づいたのです。
「最近は、コンビニで売っとるらしいじゃないか」
(知ってるなら自分で行きゃあいいのに)とも思いましたが、
気軽にコンビニを利用できる69歳なら、
コーヒーが飲めなくて体調が悪くなることもないのでしょう。
「柄は、なんでもええけん」
あきらめて、買いに行くことにしました。
迷うこともなかろうと思って行った、コンビニエンスストア。
20代女子は、ここで思いがけず難しい決断を迫られます。
紳士 ボクサーブリーフ M
紳士 トランクス M
(69歳って、どっちを履くんだ……?)
店員さんに聞くわけにもいかず、
「60代 トランクス」で検索。
ボクサーブリーフと言うのは
30代より若い世代の男性に人気の下着で、
高い年齢層の人には、トランクスを履く人が多いようです。
(何やってるんだろう、わたし)
この一年で一番の、「何やってるんだろう感」でした。
パン屋も、なかなか大変です。
翌々日。
『甲斐。昨日はおらんかったやないか』と、
7時45分に来たクマ崎さんに言われました。
「昨日は、遅番だったんです」
『ほうか。見せちゃろうと思ったのに、パンツ』
「クマ崎さん。」
わたしは、
ひとことひとこと、重みをのせて言いました。
「わたし、見せてもらわなくても、
知ってるので大丈夫です。青のチェック。」
『ほうか。ハッハッハ』
クマ崎さんは、
お留守番が始まって以来久しぶりに大きな声で笑い、
元気よくお仕事へと向かわれたのでした。
今日のパン「ベーコンエピ」
エピはフランス語で「麦の穂」という意味で、その名の通り麦の穂のような形をしているパン。これ、大好きです。特にカリッカリのやつが好きです。(コラム担当編集のぼやき)
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甲斐寛子[フォトライター]
愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。
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