パン屋日記 #18 シェフの仕事
- パン屋日記

町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#18 シェフの仕事
パン屋に併設の小さなカフェレストランに、
「一流シェフ」が入社しました。
古参のコックさんたちを一足飛びに追い越し、
とつぜん料理長として現れた一流シェフ。
おいしいごはんと普通のごはんは、いったい何が違うのでしょうか。
入社するなりシェフが一番に変えたのは、カレーの福神漬けです。
(えっ、そこ? )
と、誰もが思いました。
一般的な食堂でよく使われている真っ赤な福神漬けを、
無添加・無着色の茶色いものに変えたいと言い出しました。
次の日は、厨房から、
ダンダンダンダン! ダンダンダンダン!
と、荒ぶった音が聞こえてきました。
中をのぞくと、
シェフが大きなかたまりのお肉から、
包丁一本で、ミートソース用のミンチを作っているところでした。
続いてシェフが着手したのは、ハンバーグ改革です。
ハンバーグを一人で、
ぺっぺぺっぺ、ぺっぺぺっぺ仕込み
自社のセントラルキッチンから仕入れるのをやめました。
つなぎだらけの、カマボコみたいに柔らかかったハンバーグが
ちょっとかたくてちゃんと肉っぽい、
おいしいハンバーグになりました。
「自店で作ると25円も安いんだよ!」と言って、
それはそれはうれしそうに、
ぺっぺぺっぺと仕込んでいました。
レストランで使う材料は、
仲卸業者さんからまとめて買っています。
これまで、産地には特にこだわらず、
価格の方を重視し、ほとんどが冷凍での仕入れでした。
ある日コックさんが、
業者さんに電話で注文をかける際、
「ええと、岡山の……なんでしたっけ!」と、言いました。
オーダー品を調理中のシェフは、
鍋を振りながら叫びました。
『よしだ牧場ー!!』
このパン屋の歴代のコックさんの中で、
牧場指定でチーズを発注する人を、わたしは初めて見ました。
シェフのおすすめは、よしだ牧場さんのようです。
今日のシェフは、
社長に電話で、なにかを訴えています。
よくよく聞いてみると要するに、
「加工乳を使うのはいやだ! 生乳がいい!」という内容で、
来週のランチも楽しみだなあ、と思ったのでした。
今日のパン「ホテルブレッド」
ホテルブレッドは名前の通りホテルで出てくるような生クリームやバターを効かせた高級思考の食パン。形は普通の食パンと一緒だけど、味わいがチョイと違うわけね。パンは不思議だ。(担当編集のぼやき)
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甲斐寛子[フォトライター]
愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。
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