パン屋日記 #25 いってらっしゃい、気をつけて
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#25 いってらっしゃい、気をつけて
常連のお客さまの中に、
タクシーの運転手さんがいらっしゃいます。
その方は毎日
大きな紙袋2つ分ものパンを買って帰る、
謎の運転手さん。
少なくとも5年以上、
毎日買いにこられています。
最初に「いい人だな」と思ったのは、
ある学生アルバイトが、
パン屋を卒業する日のこと。
「わたし、看護の学校に進学するので
今日が最後なんです」
とアルバイトが言うと、
お客さまはていねいに別れを惜しんだ後、
「頑張れよ、またな!」
と言って
帰っていかれました。
「今日が最後だって、言ってるのに」と
アルバイトの女の子は、
くしゃくしゃに笑っていました。
お客さまはたまに、
ケーキを買ってきて
差し入れてくださいます。
いつも通り来店なさったある日、
「あなた、昨日おらんかったじゃない。
聞いたら、もう帰りました、ゆうて」
と言われました。
「あら、すみません。どうされましたか」
「ケーキ買うてきとったんよ」
「ケーキ!」
そう、届かなかったとしても
「あなたにあげたくて
ケーキを持ってきたんだよ」って
伝えたくなっちゃう気持ち、
分かります。
結局渡したかったのは、
「モノ」という箱に詰めた
「気持ち」の方なのです。
今日もいつも通り、
お客さまがお見えになられました。
お客さまは長年の
タクシー運転手の経験を活かして、
広島の経済状況や
忘年会のトレンド、
野球の日にお客さんを
3往復運ぶための裏技や、
「当たり屋に当たられた時の
適切な対処の仕方」などを
教えてくださいます。
(いつ使えばいいのか。)
退店されるときはいつも
「ありがとう!」 と言って
手を上げていかれるので、
背中に向かって
「ハーイ、今日も気をつけて!」
とお声がけをします。
お客さまが、
くるっと振り返りました。
「ほーよ、
事故だけは気をつけんと。
僕はね、
毎日ここで『気をつけて』って
言ってもらうためにここに来よんよ。
ここで気を引き締めてから、街に出るの。
夕方が一番、危ないからね。
ありがとう!」
そのように言って、
出ていかれました。
特別な日も、そうでない日も
「今日も気をつけて」と
飽きもせず言い続けることが、
まちのパン屋さんの
大事なお仕事だったりするのです。
今日のパン「タコス風サンド」
タコスではない。トルティーヤの皮を食パンで代用したタコス風サンド。これが意外とおもしろい。タコスとは違い食感がカリフワでボリューミー。……そろそろ、ネタが尽きてきたんです。(担当編集のぼやき)
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