
パン屋日記 #26 おかげさまのシェフ
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#26 おかげさまのシェフ
パン屋には今年、
立派なコックさんが入社しました。
それはそれは立派なレストランの、
総料理長だった人です。
シェフが来てからのパン屋は
本当に、別のお店になったかのように
メニューが変わりました。
お惣菜の「揚げたてトンカツ」は、
「豚フィレ肉のミラノ風カツレツ」になりました。
日替わりメニューの
「エビフライランチ」は、
「カワハギと有頭エビのロースト
白味噌仕立てのビスクソース」
になりました。
カワハギはいるし、頭は付いてるし
脚やら、ひげやら、
ファッサファサです。
コックさんたちはいつも、
だいこんの葉っぱを捨てずに
取っておいてくれます。
坂下先生がいっとき、
だいこん葉のスープに
はまっていたためです。
シェフもだいこん葉を取っておいてくれたので
お礼を言うと、
「油炒めにしてもおいしいよ」
と、シェフが言いました。
「ゴマと、ごま油で炒めるの」
へえ、おいしそう
とわたしが言うと
「あとね、醤油とかつおぶし。
だいこん葉を塩もみにして、
ぎゅーっとしぼって
浅漬けみたいになったやつに、
醤油とかつおぶしを混ぜて
ごはんにのせて食べるの」
おいしいよ、と、
おいしそうな顔で
シェフが言いました。
パン屋は、今日が仕事納め。
ひと足先にタイムカードを切る
シェフと出くわしました。
かわいそうに
ここにきて風邪をひいたシェフが
ぺこりと会釈をし、
「今年はお世話になりました。
おかげさまでなんとかやれました」
と言いました。
年末の力を借りて、
わたしもずっと
言いたかったことを言ってみます。
「こんなしょぼいパン屋に入ってくれてありがとう。
来年もよろしくお願いします」
「いえいえ、僕は」
シェフが言いました。
「僕は、昔からここのパンが好きだったので」
では、ケホケホと
シェフは帰っていきました。
じわじわとくる
うれしみと誇らしさを抱えて、
わたしもタイムカードを切りました。
今年も一年、ありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いたします。
今日のパン「たくさんのパン」
第一回から始めてみた「今日のパン」コーナー。26回も続きました。甲斐さんのステキなコラム後だけに、「今日のパン」は、いちばんいらない記事なんじゃないかと思いながらも、ここまで続けられました。ネタが尽きそうなので、ここらへんで「今日のパン」は終了かな。2020年は、、、考えてみます! 甲斐さんのコラム「パン屋日記」は2020年も続きますので、来年もご愛読よろしくお願い致します!(担当編集のぼやき)
<コラム「パン屋日記」バックナンバーは下記へ>
関連記事
-
ライフスタイル コラム
【6月、梅雨のメンタルケア】気持ちが軽くなる本5選|雨の日の読書で暮らしを整える
梅雨入りし、雨の日が続くと、なんだか気分もどんよりしがちです。朝からスッキリしなかったり、いつもなら気にならないことが妙に引っかかったり。大きな悩みがあるわけで……
2026.06.20
-
コラム
修士号を持つ現役ダンサーの執念 「誰も言語化できなかった本」
12月。 「アップダウンって、知ってますか?」 ——著者から出版の相談を受けたとき、最初に投げかけられたのがその言葉だった。聞けば、ダンサーなら誰もが通過する「……
2026.06.17
-
コラム
【今日もえんぴつを片手に。】<第3回>2年目校閲者が「気になる」こと
目につく文字がすべて気になる小説を読んでいたら誤植を見つけて、もう私はその後の内容なんて頭に入らなくなってしまいました。世界には文字が溢れています。本を読まなく……
2026.06.05
-
観光・旅・グルメ コラム
取材NGの宿で誓ったこと 秘湯・中村旅館のページに込めた「私の使命」
「たとえ断られても、ここだけは諦められない」今回の『温鉄』において、私たちがどうしても外せなかった場所があります。それは、三江線の代替バスに揺られて辿り着く、……
2026.05.22