パン屋日記 #20 用務員の木村さんに学ぶ【この世界の全てのもの(2)】
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#20 用務員の木村さんに学ぶ【この世界の全てのもの(2)】
排水溝から自転車のカギを救出してくれた、用務員の木村さん。
翌日もう一度お礼を言いに行くと、
最高の笑顔で、あるものを渡してくれました。
「これ、カギにつけとったげよ」
ロッカーのカギにつけるようなネームプレートに、
マッキーの細い方で「甲斐」と書いてあります。
(だ、ださい……! )
なんでしょう、この、
「おばあちゃんのチョッキ」によく似た印象の、ダサいあたたかさ。
誰のものか分かるだけでなく、
カギを排水溝の上で落としても格子に引っかかりやすいという
抜群の機能性も備えているそうです。
カギを救出してくださったことについて、
あらためて木村さんに感謝と感動を伝えました。
「テコの原理なんて小学校で習いましたけど、
実際に使う人は初めて見ました。いい経験になりました」
『そりゃ良かった。経験は、いいぞお』
木村さんは言いました。
『経験の良いところはねえ、伝わっていくことなんですよ。
甲斐さんが何十年後に、誰かが困っていた時
ああ、そういえばあの時
木村さんがああやってしよったなあって思い出して、
その経験を使うことができる。
そこにもう、わしはおらんけど、
それを見た誰かがまた、次の人に伝えることができる。
それが経験のいいところですよ』
木村さんは、74歳。
「そこにもうわしはおらんけど、」という言葉が、
妙に心に響きました。
わたしがいつか、
木村さんの知恵を使って誰かを、
もしくは自分自身を助けられた時は、
ぜったい木村さんに会いに行きたいなあと思いました。
そしてもう一度、
「いやあ、あの時はホントにびっくりしました。
自転車のカギ、拾ってくれてありがとうございました」
と、言いたい。
そして、「甲斐さん、お姉さんになったねえ」なんて言われたいです。
『ちなみに、次に落とした時はね』
木村さんは、いたずらっ子のような笑顔で続けました。
『そのキーホルダーの金属の輪っかを、磁石で釣り上げるからね!』
そう言って、磁石と麻ひもで新しく作った、
「わたしが排水溝にカギを落とした時に拾うための釣りざお」を
見せてくれたのでした。
今日のパン「ハンバーガー」
マクドナルドって、すごいなと思うことがたくさんある。該当国の国内通貨価値を知る上での経済指標として利用される事もあり、これはビッグマック指数と呼ばれるらしい。(担当編集のぼやき)
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甲斐寛子[フォトライター]
愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。
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