パン屋日記 #11 用務員の木村さんに学ぶ~新人の育て方
- パン屋日記
町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。
人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
#11 用務員の木村さんに学ぶ~新人の育て方
新人は、どうして育たないのでしょうか。
パンの学校を出た期待のホープ・バタ子さんが入社したのは、
もう去年の春のことです。
ところがバタ子さん、
いつまでたっても、仕事ができるようになりません。
バタ子さんには、パンを焼く才能が無いのではないか?
みんながそう思ってイライラしたり、
あきらめモードになったりしている、今日この頃。
あっさりと答えを出したのは、
用務員の木村さんでした。
「ああ、あれはねえ」
木村さんは言いました。
「指示の出し方と、指示の受け方の相性が悪いんよ」
指示の出し方と、指示の受け方の相性?
ジャムおじさんは、
「相手に自分で考えてほしい」
「意味や気持ちを察してほしい」
というタイプの人です。
いつも最後まで説明せず、
ヒントとなる単語だけを投げてよこします。
一方バタ子さんは、
「なにもかも確認する」タイプの女の子です。
1のやり方から2のやり方を想像できないというよりは、
1のやり方を説明された後に1.1のことをやるときにも、
必ず人に確認するようなタイプです。
木村さんはパン屋の中でただ一人、
ジャムおじさんが悪いとも、
バタ子さんが無能だとも言わず、
「指示の出し方と受け方の相性が悪い」と言ったのでした。
「あとはあの子、もういっぱいいっぱいで」
木村さんはさらに続けました。
「つま先立ちで、前のめりになって仕事をしとるでしょう。
つま先立ちではね、遠くまで歩かれんのんですよ。
仕事いうんは、地に足をつけてやらんと。
そのためには、安心させないと。
パンづくりには
手が離せん作業も多いじゃろうが、
手が離せないなりに、時計を見て『大丈夫か』と。
『わしは手が離せんけど、あれはもうやったんか』と、
声をかけ続けてやらないと」
ほいじゃあね、と言って、
用務員の木村さんは
今日も電球を取り替え、新聞を麻ひもで結び
パンの配達へと出かけるのでした。
今日のパン「シナモンロール」
北アメリカや北欧、中欧で浸透しているペストリーの一種。イースト入りのパン生地を大きめの長方形に伸ばし、表面にバターを薄く塗り、シナモン、砂糖をまんべんなくふりかけ、ロール状に巻いている。シナモンの香りが「良い香り」と決めてつけて嗅がせようとする諸君。人には苦手な香りがあることを、覚えていてほしい。(コラム担当編集のぼやき)
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甲斐寛子[フォトライター]
愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。
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