コラム 2020/04/13

パン屋日記 #37 社長と木村さん

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町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。

人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。

#37 社長と木村さん

パン屋には、

お客さま用の無料駐車場が

20台分あります。

 

社長が、うち4台分のスペースを

月極駐車場として貸し出してしまいました。

 

賃料収入に味をしめたのか

今度は、

お客さま駐車場をさらに3台分をつぶして

近隣にお住まいの方に、

月極の駐輪スペースとして

貸し出すようになりました。

 

わたしは、それがとても嫌でした。

 

(そんなせこい儲け方せずに、

駐車場が満車になるようなパンの売り方を

考えたらいいのに)と思いました。

 

 

ある日出勤すると、

まだ朝も早いのに、用務員の木村さんが

地べたで何かを、トンカンしています。

 

「木村さん、おはよー。何作ってるのー?」

 

『おはようさん。ここをねえ、

社長が駐輪場にしたでしょう』

 

木村さんは言いました。

 

『排水路の格子にね、

自転車のスタンドが

がくっと落ちるじゃろう思て、

ここだけふさぎに来たんよ。』

 

空きがちなお客さま駐車場を貸し出して、

収入にしようとする社長。

 

それに反対するわたし。

 

決まったことにはつべこべ言わず、

安全に、快適にご利用いただけるよう

格子にフタをする、用務員の木村さん。

 

木村さんの仕事は、ブレません。

 

この会社で一番、

「自分は何のために仕事をしているのか」

という目的意識を

口にせずとも、

はっきりと持っている人だと思います。

 

 

夜、閉店作業をしていると、

「かいさん!かいさあああん」と、

裏で社長が呼んでいます。

 

何事かと思って

駐車場へ出てみると、

「これね、塗りたてだから

帰りに踏まないように、気をつけてね!」

 

と言って

地面の駐車場番号を指さしました。

 

スーツのまま、地べたしゃがんで

かすれて見えにくくなった駐車場番号に

白いペンキを、

ぺたぺた塗り直しています。

 

左手にペンキ缶

右手にハケを持って

去年、

パン屋に飛び込んだクマゼミを

素手で捕まえた時と同じくらい

楽しそうでした。

 

わたしは、

朝から地べたでトンカンしていた

用務員の木村さんを

心から尊敬していますし、

同じく楽しそうに

数字をなぞっている社長のことを

どうしても憎めずにいるのでした。

 

今日の食パンアレンジ ♯11

FLAG!vol.04「&パン」での企画で、実際に編集が30品目の食パンアレンジを試食してグラフ化した企画。意外とね、おいしいアレンジあるんです! そうでないものも、ありましたが……。興味ある方は、ぜひお試しあれ!(担当編集のぼやき)

 

 

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甲斐寛子

甲斐寛子[フォトライター]

愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。

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