コラム 2020/04/24

パン屋日記 #39 ささやかで強烈なメッセージ

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町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。

人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。

#39 ささやかで強烈なメッセージ

料理をつくることは

シェフの「仕事」ですが、

 

その圧倒的な経験と実力をもって

良い意味で遊んでいるふしがあります。

 

シェフは、お料理に

ダジャレを隠すことがあります。

 

「これはね、鶏肉のローストに卵を添えたから、おやこ。

こっちはね、合鴨のローストに白葱のジュレだから、カモネギ。鴨がネギしょってる。ふふふ。」

 

シェフは一人で「ふふふ、ふふふ」と、

いつまでも小さく笑っていました。

 

 

シェフがお料理を通して伝えるのは、

もちろんダジャレだけではありません。

 

お皿の上では、

早々に咲き始めた桜に負けないスピードで

春キャベツがふくらみ、菜の花が咲き

新玉葱と出会ったタコと桜えびが、

きゃっきゃきゃっきゃと踊り出します。

 

 

来週のランチは、

「豚肩ロースカツレツ ミラノ風」です。

 

めずらしく、季節感がありません。

 

「ミラノ風って、どんな味?」と尋ねると

 

『来週のはパン粉に、粉チーズと、

タイムが入っています』とシェフ。

 

「タイムってなあに?ハーブ?」

 

シェフはまた、「ふふふ」の顔で

こう答えました。

 

『免疫力が上がって、

心が癒されるハーブです。』

 

家に帰って、調べてみると

「タイム」にはうがい薬に使われるほどの

強い抗菌・殺菌作用があり

どん底にいるような気分をやわらげ、

呼吸器系の不調に効くのだそうです。

 

メッセージが、強烈。

 

しかしながら、

メニュー名に「タイム」という言葉は入っていないので

きっと誰にも気づかれることのないまま、

また翌週のランチへと

バトンが渡ってゆくのでしょう。

 

耳をすませばいつも、

ひとつひとつのお料理が

聞こえるか聞こえないかくらいの声で

わたしたちに語りかけているのでした。

 

今日の食パンアレンジ ♯14

FLAG!vol.04「&パン」での企画で、実際に編集が30品目の食パンアレンジを試食してグラフ化した企画。意外とね、おいしいアレンジあるんです! そうでないものも、ありましたが……。興味ある方は、ぜひお試しあれ!(担当編集のぼやき)

<バックナンバー>

パン屋日記 #36 なぜ主人公は入学式に遅刻するのか

パン屋日記 #35 最後のふなっしー

パン屋日記 #34 贈る心と返す心

パン屋日記 #33 坂下先生のコーヒー

 

パン屋日記 #32 用務員の木村さんと侍の花

 

パン屋日記 #37 社長と木村さん


甲斐寛子

甲斐寛子[フォトライター]

愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。

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