コラム 2020/04/20

パン屋日記 #38 おしえてシェフ

タグ:
  • パン屋日記

町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。

人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。

#38 おしえてシェフ

「ランチにのっているフリットはなあに?」

と尋ねると、

 

「あれは、クレソンです」

とシェフが答えました。

 

「クレソンかあ、かいわれ大根かと思った」

とわたしが言うと、

 

「ふふふふふ」と、シェフが笑ってくれました。

 

パン屋に併設のカフェには、

かつて立派なレストランの総料理長をしていた

やさしくって物知りなシェフがいます。

 

若いスタッフがとんちんかんなことを聞いても、

ばかにせず教えてくれるところが大好きです。

 

シェフが入社して間もない頃

わたしはシェフに、

「ねえ、フランス料理って、どうして高いの」

と聞いたことがあります。

 

シェフの専門がフレンチだったのと、

この人ならきっと

「君、失礼だぞ」と怒り出すことなく

わたしの純粋な疑問に、

純粋に答えてくれると思ったからです。

 

シェフは言いました。

 

「仕込みに手間と時間がかかるのと、

内装やテーブルセットの準備、

あとは良い材料を使うからです。

『はしり』をなんかを使うと、

さらに高くなります」

 

「はしりって、旬のもののこと?」

 

「旬、の一歩手前」

 

そう言って、シェフはやさしく笑いました。

 

今日は

ずっしりとした温かいおにぎりと

シェフのおかずを持って、

パン屋の裏手にある川へお散歩に行きました。

 

各種一切れずつ添えられている付け合わせの野菜は、

それぞれ異なる方法で調理されており

かぼちゃはローストされ、

茄子とパプリカは油に通し

件(くだん)のクレソンは、

しゃくしゃくのフリットにしてあります。

 

まずクレソンのフリットを一口食べ

そのおいしさを確かめて小さくため息をついてからは、

メインの鶏もも肉をすっかり食べ終わるまで

宝物のようにクレソンをとっておいたのでした。

今日の食パンアレンジ ♯12

FLAG!vol.04「&パン」での企画で、実際に編集が30品目の食パンアレンジを試食してグラフ化した企画。意外とね、おいしいアレンジあるんです! そうでないものも、ありましたが……。興味ある方は、ぜひお試しあれ!(担当編集のぼやき)

<バックナンバー>

パン屋日記 #37 社長と木村さん

パン屋日記 #36 なぜ主人公は入学式に遅刻するのか

パン屋日記 #35 最後のふなっしー

パン屋日記 #34 贈る心と返す心

パン屋日記 #33 坂下先生のコーヒー

 

パン屋日記 #32 用務員の木村さんと侍の花

 


甲斐寛子

甲斐寛子[フォトライター]

愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。

甲斐寛子の記事一覧

関連記事

トップに戻る