コラム
公開:2026/08/11

この夏、本で広島を知る。広島本大賞2冠作家・清水浩司さんが綴る「広島本大賞」歴代30冊レビュー

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一冊の小説から歴史を知ることもあれば、ノンフィクションから土地の記憶に触れることもあります。コミックや絵本が、その街の空気を教えてくれることもあります。

この夏、本を通して広島を知ってみませんか。

『くらくら西条』が第15回広島本大賞を受賞した記念として制作された特別な銀帯。
その裏面には、広島本大賞を2度受賞した作家・清水浩司さんが、歴代受賞作30冊について一冊ずつ綴ったレビューが印刷されています。

 

一冊の受賞から生まれた、もうひとつの読書ガイド。

小説、ノンフィクション、コミック、絵本――30冊を通して見えてくるのは、「広島」という土地のさまざまな表情です。

 

 

<第1回(2011年度)>

『扉守―潮ノ道の旅人』

著者:光原百合
出版社:文藝春秋

著者は尾道生まれの尾道育ち。尾道のような「潮ノ道(シオノミチ)」を舞台にした幻想的な短編7篇。尾道は、生者と死者、不思議が当たり前に共存する街。そんな土地の空気が自然に作品へ溶け込んでいる。尾道という場所によく似合う一冊。

『ハブテトル ハブテトラン』

著者:中島京子
出版社:ポプラ社

「はぶてる」は備後弁だったのか。「ヒョロケトッタ」「くらわすぞ」など、思わず声に出して読みたくなる中国地方の言葉がたくさん登場する。「広島って外から見るとこう見えるのか」と気づかされる、ほのぼのとした一冊。ゲタを飛ばす「ゲタリンピック」など、広島らしい風景も満載で、「うちの県はめちゃくちゃ面白いじゃないか!」と思わせてくれる。

 

 

<第2回(2012年度)>

『聖の青春』

著者:大崎善生
出版社:講談社
部門:ノンフィクション部門

29歳の若さで逝去した棋士・村山聖の生涯を描いたノンフィクション。「広島が生んだ天才」と言いたくなるほど、彼の生きざまには広島の気風と重なるものがある。生への執着、激しい劣等感、ライバルへの対抗心──。その過剰なまでにまっすぐな姿は、多くの読者の胸を打つ。

 

 

<第3回(2013年度)>

『すべてがちょっとずつ優しい世界』

著者:西島大介
出版社:講談社
部門:コミック部門

広島現代美術館のキャラクターも手掛けた漫画家・西島大介。本作は絵本のようなタッチで、くらやみ村で暮らすパパとぼうや、村長などが描かれる。かわいらしい絵柄とは対照的に、作品全体には静謐で終末的な空気が漂い、読後も長く心に残る哲学的な寓話となっている。

 

 

<第4回(2014年度)>

『工場』

著者:小山田浩子
出版社:新潮社
部門:小説部門

『穴』で芥川賞を受賞した広島在住作家による作品。不条理小説と呼ぶべきか、工場の日常を書いているだけのようで、物語は少しずつ奇妙に歪んでいく。小山田作品ならではのねじれた世界観が魅力。広島には工場が多いという土地柄もあり、そのリアリティが作品に深みを与えている。

『キリマンじゃろ』

著者:南方延宣
出版社:広島市安佐動物公園
部門:その他部門

著者は安佐動物公園の飼育員。園内で配布していた動物解説マンガを書籍化した一冊。タイトルの意味は「キリンのマンガじゃろ?」。その名の通り、ゆるいユーモアと独特の味わいに満ちている。安佐動物公園の売店でしか入手できなかった、まさに“広島ならでは”の貴重な一冊。

 

 

<第5回(2015年度)>

『八月の青い蝶』

著者:周防 柳
出版社:集英社
部門:小説部門

「わしはずっと八月を、くり返してきたんじゃ」

2010年8月と1945年8月を行き来しながら描かれる長編小説。被爆者である父をモデルに執筆されたというだけあって、戦時中の描写には圧倒的なリアリティがある。フィクションだからこそ伝えられる戦争体験があり、読者を物語の世界へ深く引き込んでいく。

『優勝請負人 ― スポーツアナウンサーが伝えたい9つの覚悟』

著者:坂上俊次
出版社:本分社
部門:その他部門

実況も執筆もこなす、メディア界の二刀流・RCC坂上アナウンサーによる一冊。本書で最初に登場するのは青山学院大学陸上部・原晋監督。当時の箱根駅伝最高順位は5位だったが、その後の快進撃を思うと感慨深い。2年後には続編『優勝請負人2』も刊行され、時代の流れとともに読み返したくなる作品である。

 

 

<第6回(2016年度)>

『エンジェルボール』

著者:飛騨俊吾
出版社:双葉社
部門:小説部門

41歳のトラック運転手が交通事故をきっかけに魔球を投げる能力を手に入れ、カープを日本一にするという夢をかなえるため球団の門を叩く。「そんなんアホな!」と思わず笑ってしまう設定だが、広島人なら抗えない物語。〝赤いあぶさん〟の大活躍が描かれる全4巻のエンターテインメント作品。

『新久千映のまんぷく広島』

著者:新久千映・川上佳代
出版社:KADOKAWA
部門:ノンフィクション部門

広島のおいしい店を紹介するコミックエッセイ。広島の名店を訪れると、新久さんのサイン色紙を見かけることも多い。「いっちゃん」「みっちゃん」「中ちゃん」「あきちゃん」「ロペス」「利根屋」「呉のいせ屋」など、地元で愛される店が次々と登場する。料理の描写も魅力的で、思わず「ぷしゅー」と一杯やりたくなる一冊。

 

 

<第7回(2017年度)>

『夜行』

著者:森見登美彦
出版社:小学館
部門:小説部門

直木賞候補にもなった連作怪談集。奥飛騨、津軽、天竜峡、鞍馬と、日本各地を舞台に物語が展開する。その最後の一夜が尾道である。ロープウェー、高台の一軒家、夜行列車──尾道の風景が物語に溶け込み、土地を知っているからこそ映像が鮮明に浮かぶ。作品世界への没入感は格別だ。

『徳は孤ならず―日本サッカーの育将 今西和男』

著者:木村元彦
出版社:小学館(文庫本)
部門:ノンフィクション部門

サンフレッチェ広島の礎を築いた今西和男氏の足跡を描く一冊。被爆者でもあった今西氏は、「育成のサンフレ」と呼ばれるクラブ文化を築き、選手だけでなく数多くの指導者も育て上げた。文庫版には、森保一監督ら愛弟子との鼎談も収録。新スタジアムが誕生した今、あらためて読み返したい一冊である。

 

 

<第8回(2018年度)>

『崩れる脳を抱きしめて』

著者:知念実希人
出版社:実業之日本社
部門:小説部門

人気作家・知念実希人のデビューは「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」。本作の主人公も広島在住である。前半は切ないラブストーリーとして物語が進むが、後半は一転して大どんでん返しのミステリーへと姿を変える。タイトルそのものが巧妙な伏線となっている点も見事。

『カウンターの向こうの8月6日―広島 バースワロウテイル「語り部の会」の4000日』

著者:冨恵洋次郎
出版社:光文社
部門:ノンフィクション部門

流川でバー「スワロウテイル」を営みながら、毎月6日に「被爆体験者の証言の会」を開き続けた冨恵洋次郎氏。その活動を記録した一冊である。本書の刊行直前、著者は肺がんを患い、37歳という若さで逝去した。「最後まで見届けられるかどうかわからない」という極限の状況で綴られた本書は、被爆伝承を次世代へつなぐ大切なバトンとなっている。

『ちゃんと食べとる?』

著者:中本忠子・食べて語ろう会
出版社:小鳥書房
部門:ノンフィクション部門

基町アパートで40年以上にわたり、子どもたちへ食事を提供し続けてきた中本忠子さん。「子ども食堂」という言葉が広まる以前から活動を続けてきた、その歩みが詰まっている。本書には、ばっちゃんの言葉と、オムライス、親子丼、豚汁、ソース焼きそばなど、心温まるレシピも収録。愛情あふれる造本も魅力の一冊。

 

 

<第9回(2019年度)>

『愛と勇気を、分けてくれないか』

著者:清水浩司
出版社:小学館
部門:小説部門

まだ市民球場があり、紙屋町にはダイイチ、ドン・キホーテは「ウィズワンダーランド」だった1980年代末の広島が舞台。恋と友情が交錯する青春三角関係を描く物語であり、その結末は2004年、奥田民生による市民球場コンサートで答え合わせが行われる。タイトルは奥田民生の楽曲の一節から着想を得ている。

『原爆―広島を復興させた人びと』

著者:石井光太
出版社:集英社
部門:ノンフィクション部門

原爆投下後、広島はどのようにして復興を遂げ、「ヒロシマ」として世界に知られる都市になったのか。広島平和記念資料館初代館長・長岡省吾、平和記念公園を設計した丹下健三、「原爆市長」と呼ばれた浜井信三など、多くの人物の足跡を丁寧に描く。外部の視点だからこそ見えてくる広島の姿があり、街を客観的に見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊。

 

 

<第10回(2020年度)>

『流星コーリング』

著者:河邉徹
出版社:KADOKAWA
部門:小説部門

人気バンド・WEAVERのドラマー、河邉徹による青春ジュブナイル。舞台は廿日市中央高校天文部で、宮島の風景がたびたび登場する。作中で描かれる「人工流星計画」は、実際に広島で進められていたプロジェクトがモチーフ。同名の音楽アルバムも制作され、音楽と小説が響き合う作品となっている。

『ぼけますから、よろしくお願いします。』

著者:信友直子
出版社:新潮社
部門:ノンフィクション部門

呉市出身のテレビディレクター・信友直子によるノンフィクション。大きな反響を呼んだ同名ドキュメンタリー映画の書籍版である。85歳で認知症を患った母と、93歳の父による老老介護の日々を見つめた記録は、多くの読者の共感を集めた。広島のおじいちゃん、おばあちゃんの飾らない姿がそこにあり、そのリアリティが胸を打つ。

『ヒロシマ 消えたかぞく』

著者:指田和
出版社:ポプラ社
部門:特別賞

カメラが趣味だった鈴木六郎さんが撮り続けた家族写真をもとに構成された写真絵本。犬との散歩、ピクニック、海水浴――どこにでもある家族の日常が写し出される。しかし、その穏やかな時間は原爆によって突然失われてしまう。事実を静かに積み重ねる構成だからこそ、読む者の心を深く揺さぶる一冊である。

 

 

<第11回(2021年度)>

『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』

著者:庭田杏珠・渡邉英徳
出版社:光文社
部門:ノンフィクション部門

モノクロ写真をAI技術でカラー化し、戦前・戦中の風景を現代によみがえらせた一冊。色彩が加わることで、過去の出来事が「歴史」ではなく、自分たちと地続きの現実として立ち現れる。その変化は驚くほど大きく、「過去」が「今」へとつながる感覚を覚える。庭田杏珠さんは現在も広島テレビの記者として「記憶の解凍」プロジェクトに取り組み、2025年には映画化も実現した。

 

 

<第12回(2022年度)>

『駆ける少年騎馬遊撃隊』

著者:稲田幸久
出版社:角川春樹事務所
部門:小説部門

中国地方の趨勢を決定づけた「月山富田城の戦い」を舞台に描く歴史小説。毛利氏と尼子氏の激戦に巻き込まれた天涯孤独の少年・小六と、愛馬・風花の運命が胸を打つ。騎馬隊に加わり戦場へ向かう少年の成長を描く物語は、ページをめくる手が止まらない。

『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』

著者:堀川惠子
出版社:講談社
部門:ノンフィクション部門

広島テレビ記者を経て、現在はノンフィクション作家として活躍する堀川惠子さんの代表作の一つ。『教誨師』『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』『透析を止めた日』など数々の話題作を手がけてきた。本書では「宇品」という港町を切り口に、軍都・広島の歴史を丹念に解き明かしていく。この一冊を読むことで、広島という街の見え方が大きく変わる。まさに傑作である。

 

 

<第13回(2023年度)>

『ある行旅死亡人の物語』

著者:武田惇志・伊藤亜衣
出版社:毎日新聞出版
部門:ノンフィクション部門

「今年の広島本大賞はこの一冊だ」と感じさせるほど強い印象を残した作品。身元不明のまま亡くなった一人の高齢女性。その人生の足跡をたどる新聞記者たちの取材は、やがて広島へとつながっていく。一人の「行旅死亡人」の背後にあった人生を丹念に掘り起こす、優れたノンフィクションである。

『男子校の生態』

著者:コンテくん
出版社:KADOKAWA
部門:コミック部門

舞台は修道高校。文化祭の女装コンテストで異様な盛り上がりを見せたり、使う予定もないのに備品を買い込んだり――。男子校ならではの「こじらせた青春」を、ゆるくユーモラスなタッチで描いたコミックエッセイ。くだらなさも含めて愛おしい、男子校文化の魅力が詰まった一冊。

 

 

<第14回(2024年度)>

『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』

著者:田中卓志
出版社:新潮社
部門:文芸部門

「ジャンガジャンガ」のギャグで知られるアンガールズ・田中卓志さん。近年は広島大学卒の知性派としても注目されている。本書を読むと、その飾らない人柄とユーモアのセンスが伝わってくる。文章も巧みで、常識的な視点と独特の笑いが心地よく共存するエッセイ集。「文章もうまいでがんす!」と思わずうなずく一冊。

『土と人と種をつなぐ広島』

著者:花井綾美
出版社:ザメディアジョン
部門:ノンフィクション部門

京野菜は有名だが、広島にも魅力的な伝統野菜が数多くある。川内菜、広島菜、祇園パセリ、安芸津じゃがいも、東広島青なす――。著者はテレビでも活躍する野菜ソムリエ。生産者へのインタビューやおすすめレシピを雑誌のような誌面で紹介し、「食も本も地産地消」を提案する一冊。

 

 

<第15回(2025年度)>

『13月のカレンダー』

著者:宇佐美まこと
出版社:集英社
部門:小説部門

ホラーや幻想小説で知られる宇佐美まことさんによる、王道の家族小説。主人公は祖母のルーツをたどる中で、原爆投下直後の広島へと導かれていく。世代を超えて受け継がれる戦争の記憶を静かに描き、被爆80年という節目にふさわしい一冊となっている。

『くらくら西条』

著者:清水浩司
出版社:ザメディアジョン
部門:ノンフィクション部門

コンセプトは「本としての楽しさ」と「持っていたくなるプロダクト感」。私財28万円を投じて仮フランス装を採用し、細部まで本づくりにこだわった一冊である。今回の受賞により、受賞記念の銀帯を巻くことができたことは大きな喜び。ただし、この帯の裏面にある「歴代受賞作30冊レビュー」に気づいてもらえないこともあり、それもまた少し悔しく、愛おしい思い出となっている。

『もののけdiary』

著者:京極夏彦・石黒亜矢子
出版社:岩崎書店
部門:特別賞

妖怪文学の第一人者・京極夏彦さんと、画家・石黒亜矢子さんがタッグを組み、『稲生物怪録』を絵本として再構成した作品。『稲生物怪録』は、実は広島県三次市を舞台にした妖怪譚である。三次市には「三次もののけミュージアム」もあり、本書は地域文化への入り口としても楽しめる。片観音開きの装丁を取り入れた遊び心あふれる造本も見どころの一つ。

 

いかがでしたか?

歴代30冊を読み進めると、広島という土地の奥行きや豊かさが少しずつ見えてきます。

この夏、本との出会いが、新しい広島との出会いになりますように。

 

そして、清水浩司さん著書『くらくら西条』は、広島県内書店およびAmazonなどのネットショップでも好評発売中です。

読む本を迷われた方は、まずは『くらくら西条』から読んでみてください。

「くらくら西条」は、日本三大酒処といわれる伏見(京都)、灘(兵庫)と並ぶ西条(広島)を舞台に、自称文豪が酒蔵を訪ね歩く“酒蔵”放浪記です。
まちを歩き回り、蔵元たちと語り、呑み、思考することを繰り返す――。
時代の波に流されていく酒都の風景をくらくらする頭で描いた、お散歩紀行文集となっています。

 

著者プロフィール

清水浩司(しみず・こうじ)

1971年生まれ。広島県出身。自称・文豪。本業である作家・ライター・編集者としての活動の他、テレビコメンテーターやラジオパーソナリティなど多彩な分野で才能を発揮。2019 年、青春長編小説『愛と勇気を、分けてくれないか』(小学館)で第9回広島本大賞・小説部門を受賞。2025年『くらくら西条』(ザメディアジョン)で、第15回広島本大賞ノンフィクション部門受賞。現在noteでスペインのサンティアゴ巡礼旅の記録「ぼんやりした巡礼PRO」連載中(毎週月曜7時アップ)

<「ぼんやりした巡礼PRO」>
https://note.com/shimizukoji01

<X>
https://x.com/ShimizuKoji

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この記事は2026年8月11日の情報です。

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