【著者コラム】17年間通った瀬戸田で、私が見つけた島の魅力―― 『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』/国吉 純
- 国吉純
- 瀬戸田レモン
「どうして、そんなに何度も瀬戸田へ行くんですか?」
これまで、何度もそう聞かれてきました。
瀬戸田へ通い始めて、もう17年近くになります。年に少なくとも2〜3回、多い年にはそれ以上。気づけば、50回以上は訪れていたと思います。
新しい景色を求めて旅をするのも好きです。でも私には、何度でも帰りたくなる場所があります。
それが、瀬戸田です。
約10年前に出版した『瀬戸田レモンに恋して』では、レモンとレモン農家さんを中心に、この島の魅力を書きました。当時は、まだ「国産レモン」が今ほど知られていなかった頃。瀬戸田レモンのおいしさや、生産者の皆さんの思いを伝えたいという気持ちで、一冊を書き上げました。
それから約10年。
私は再び、この島をテーマに本を書くことにしました。
でも今回は、レモンだけを書こうと思ったわけではありません。
17年間、この島へ通い続ける中で出会った人たち。何度見ても飽きることのない風景。そして、この島に流れる穏やかな時間。そのすべてを書き残したいと思うようになったのです。
その思いの始まりには、一人の大切な人との別れがありました
「また来たよ」と言える場所がありました

瀬戸田へ行くと、必ず立ち寄る場所があります。
長畠農園です。
私がこの島へ通うきっかけとなったレモン農家さんで、ご夫妻とは17年近くのお付き合いになります。
特に奥様とは年齢も近く、レモンの注文ではSNSを通じていつも素早く対応してくださり、本当に助けていただきました。
島へ行けば一緒に食事をし、電話やメールでは近況を話したり、女性同士ならではの何気ない愚痴をこぼし合ったり。
瀬戸田へ行く理由は、いつしかレモンだけではなくなっていました。
「あの人に会いに行こう。」
そんな気持ちで島へ向かうことが増えていたのです。
旅先に、「また来たよ」と自然に言える場所がある。
それがどれほど幸せなことなのか、当時の私は深く考えたこともありませんでした。
一年が過ぎて、ようやく見えてきた問い
その奥様が、一年前に病で突然亡くなられました。
私も大きな喪失感を味わいました。
瀬戸田へ行けば、いつものように会える。
そんな当たり前の日常が、突然なくなってしまったのです。
それから一年ほど経った頃、不思議と奥様との会話を思い返すことが増えました。
「あのとき、こんなことを話していたな。」
「あんな夢を聞かせてくれたな。」
そうして記憶をたどるうちに、一つの問いが浮かびました。
「由佳さんは、人生で本当にやりたかったことは何だったのだろう。」
その問いは、やがて自分自身にも向かいました。
「私は、この17年間で何を見てきたのだろう。」
レモンだったのか。
景色だったのか。
それとも、もっと別の何かだったのか。
答えは、まだ見つかっていませんでした。
でも、その問いは、私の中で少しずつ大きくなっていきました。
「レモンの島」から、「人の島」へ

ちょうどその頃、瀬戸田も少しずつ変わり始めていました。
コロナ禍を経て、新しく島に関わる人や店が増え、観光客や海外からの旅行者も戻ってきました。商店街には新しい風が吹き、以前とは少し違う表情も見せるようになっています。
その変化を見ながら、私は改めて考えるようになりました。
「それでも、私はなぜ瀬戸田へ帰ってくるのだろう。」
レモンがおいしいから。
景色が美しいから。
もちろん、それも理由の一つです。
でも、それだけなら17年間も通い続けることはなかったはずです。
瀬戸田へ来ると、不思議と肩の力が抜けます。
海を眺めながらぼんやり過ごす時間。
畑で季節の移ろいを感じる時間。
島の人たちと何気ない会話を交わす時間。
都会では、何かに追われるように毎日を過ごしています。でも、この島では「何もしなくてもいい」と思えるのです。
心も体も、静かに元の自分へ戻っていく。
そんな場所があることのありがたさを、17年間かけて教えてもらいました。
だから私は、何度訪れても飽きることがありません。
訪れるたびに、新しい魅力を見つけて帰ることができるのです。
「今なら書けるかもしれない」と思えた日
前作『瀬戸田レモンに恋して』は、レモンとレモン農家さんに焦点を当てた本でした。
あの頃の私には、それが伝えたい瀬戸田の姿でした。
けれど17年という時間を重ねた今、私の中で瀬戸田は「レモンの島」だけではなくなっていました。
人がいて、暮らしがあって、何度でも帰りたくなる時間がある。
その魅力を、一冊にまとめたい。
そう思い、再び筆を取ることを決めました。
とはいえ、その時点では、どんな本になるのか、自分でもまだ分かっていませんでした。
17年間通い続けた島だからこそ、書きたいことがあり過ぎたのです。
レモンだけではない。
人だけでもない。
そのすべてを、どう一冊にまとめればいいのか。
実は、そこからが本当のスタートでした。
文・国吉 純
<後編へ続く>
著者プロフィール
国吉 純(くによし・じゅん)
園芸家・レモン研究家。上智大学文学部教育学科卒業。大学卒業後大手電機メーカーにて秘書を務め、退職後出会った園芸の世界で、暮らしの中での園芸を、講演やメディア等で紹介。園芸専門学校をはじめ、住宅関連企業、集合住宅等で「楽しく簡単に華やかに育てる」をモットー に年齢や場所に関係なく植物と触れ、育て、楽しめる植物選び、メンテナンス法などの指導にあたっている。国産レモン販売拡大のためのサポートや、高齢者施設での園芸療法活動も注目されている。
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レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く
著者: 国吉純
定価: 1,980円(本体1,800円+税10%)
判型: B6判
ISBN: 978-4862508744
発売日: 2026年7月24日
この記事は2026年7月30日の情報です。
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