【著者コラム】17年通っても、まだ知らない瀬戸田がありました ― 『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』/国吉 純
- 国吉純
- 瀬戸田レモン
前回のコラムでは、17年間通い続けた瀬戸田で、「もう一度この島を書こう」と思うまでのお話を書きました。
今回は、その続きです。
実際に本づくりが始まってみると、17年間通ってきたはずの瀬戸田に、まだまだ知らない魅力がたくさんあることに気づかされました。
人も、景色も、歴史も。
知っているつもりだった島を、もう一度旅するような時間になったのです。
取材をして、初めて聞けた話がありました
今回の本では、多くの方に取材をさせていただきました。
何度も顔を合わせ、世間話をしてきた方ばかりです。
でも、「取材」という形で改めてお話を伺うと、それまで知らなかった思いや人生が見えてきました。
「あの時は、そんな気持ちだったんですね。」
「そんな思いで続けてこられたんですね。」
17年間通ってきたからこそ聞けた話もあれば、17年間通ってきたのに、初めて知ることもたくさんありました。
取材を重ねるほど、「もっと多くの人にこの方のことを知ってほしい」「応援したい」という気持ちが自然と大きくなっていきました。
この本には、そんな思いも込めています。
「取材」よりも大切だった時間

印象に残っている出来事があります。
取材旅行の途中、「スナック純」で島の皆さんに集まっていただきました。
最初は、いろいろなお話を聞かせていただこうと思っていたのですが、気づけば島の方同士が近況を語り合い、笑い合う時間になっていました。
さらに途中から、島ごころの社長が連れて来られた広島大学の学生さんも加わり、世代を超えて自然と輪が広がっていきました。
「あれ?今日は取材にならなかったな。」
そんなふうにも思いました。
でも、その光景を見ながら、「こんな時間は島の中でも、なかなかないのかもしれない」と感じたのです。
人が自然につながり、初めて会った人もすぐに会話の輪に入っていく。
そんな空気もまた、瀬戸田らしさなのだと思いました。
本に載せられなかった場所もあります
ありがたいことに、取材させていただいた皆さんは、本当に率直にお話ししてくださいました。
「そこまで書いても大丈夫ですか?」と思うようなお話も、「ぜひ書いてください」と快く了承してくださいました。
一方で、掲載を見送った場所もあります。
私が瀬戸田へ行くと必ず立ち寄る、大好きなお店です。
「紹介していただけるのはうれしいけれど、家族だけで営んでいるので、たくさんのお客様が来られると対応しきれなくて……。」
そんな理由で掲載をご辞退されました。
少し残念でしたが、そのお気持ちもよく分かります。
だから、この本では紹介しきれなかった場所も含めて、瀬戸田を歩きながら、自分だけのお気に入りを見つけてもらえたらうれしいです。
私自身も、新しい瀬戸田に出会いました
今回の取材では、柑橘工房でのジャムづくりや、永井英夫さんによるレモンの魅力を伝える体験にも参加しました。
同じレモンをテーマにしていても、伝え方や楽しみ方は人それぞれです。
「知っている」と思っていたことも、体験してみると新しい発見がありました。
また、瀬戸田の歴史について書こうと思ったときには、資料が思っていた以上に少なく、調べることに苦労しました。
そんな時に大きな力を貸してくださったのが、藤田玲生さんです。
一つひとつ確認しながら教えていただき、本当に助けていただきました。
本を書くというより、私自身がもう一度、この島を旅しているような気持ちでした。
書けなかったこともあります
今回の本を書く前は、長畠農園の由佳さんとの思い出を、もっとたくさん書こうと思っていました。
都会で暮らす一人の女性として。
農家の嫁として。
彼女の生き方から感じたことも、たくさんありました。
でも、お別れからまだ一年。
私の中では、まだその思いを整理しきることができませんでした。
だから今回は、書かなかったのではなく、まだ書けなかったのです。
この本は、一人ではできませんでした
今回の本づくりでは、改めて多くの方に支えていただきました。
取材に協力してくださった島の皆さん。
忙しい中でも時間をつくってくださった皆さん。
そして、「ここはもっと話を聞いてきてください」「ここはもう少し掘り下げてみましょう」と背中を押してくれた編集者さん。
一人では、きっとこの本にはなっていません。
皆さんのおかげで、一冊の形にすることができました。
だから、この本は私一人が書いたというより、瀬戸田の皆さんと一緒につくった一冊なのだと思っています。
また帰ってきたくなる島へ
旅には、いろいろな楽しみ方があります。
初めての土地を巡る旅もあれば、一つの場所に何度も通う旅もあります。
私は、この17年間で後者の楽しさを教えてもらいました。
季節が変わるたびに違う表情を見せてくれる景色。
顔を合わせるたびに「おかえり」と迎えてくれる人たち。
何もしない時間が、心をゆっくり整えてくれること。
もし、この本やこのコラムを読んで、「瀬戸田へ行ってみたいな」と思っていただけたら、とてもうれしいです。
そして、一度だけではなく、「また行こうかな」と思っていただけたら、なおうれしく思います。
きっと、そのたびに違う瀬戸田に出会えるはずです。
私が17年間、そうだったように。
著者プロフィール
国吉 純(くによし・じゅん)
園芸家・レモン研究家。上智大学文学部教育学科卒業。大学卒業後大手電機メーカーにて秘書を務め、退職後出会った園芸の世界で、暮らしの中での園芸を、講演やメディア等で紹介。園芸専門学校をはじめ、住宅関連企業、集合住宅等で「楽しく簡単に華やかに育てる」をモットー に年齢や場所に関係なく植物と触れ、育て、楽しめる植物選び、メンテナンス法などの指導にあたっている。国産レモン販売拡大のためのサポートや、高齢者施設での園芸療法活動も注目されている。
関連記事
【著者コラム】17年間通った瀬戸田で、私が見つけた島の魅力―― 『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』/国吉 純
関連記事
-
コラム
【著者コラム】17年間通った瀬戸田で、私が見つけた島の魅力―― 『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』/国吉 純
「どうして、そんなに何度も瀬戸田へ行くんですか?」これまで、何度もそう聞かれてきました。瀬戸田へ通い始めて、もう17年近くになります。年に少なくとも2〜3回、多……
2026.07.25
-
コラム
【著者コラム】本当に使える知識だけ 広島の実態に合わせた防災/勝丸恭子
前回のコラムでは、「生き残るための準備」に焦点を絞り、あふれる情報をいかに引き算していったかという私の覚悟をお伝えしました。続く今回は、本編を形作る中で繰り広げ……
2026.07.23
-
コラム
【アーカイブ特集】この夏に観たいドキュメンタリー映画10選|映像と本で知るアジアの現実
一本の映像から、一冊の本へ。夏は、少しだけ立ち止まって、新しい世界に出会いたくなる季節です。旅に出る。映画を観る。本を読む。いつもより少し長い時間をかけて、一つ……
2026.07.18
-
コラム
【編集後記】この夏、「レモンの島」の魅力を紡いだエッセイを片手に、瀬戸田へ旅したくなる!
書籍『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』は、長年、尾道市にある2つの島「生口島」と「高根島」へ通う著者だからこそ気付ける現地の魅力と、そこで育つレモン……
2026.07.16