【著者コラム】本当に使える知識だけ 広島の実態に合わせた防災/勝丸恭子
- 勝丸恭子
- 広島
- 防災
前回のコラムでは、「生き残るための準備」に焦点を絞り、あふれる情報をいかに引き算していったかという私の覚悟をお伝えしました。
続く今回は、本編を形作る中で繰り広げられた「制作の裏舞台」についてお話しします。
「防災を後回しにする」
編集者さんとのやり取り
本書の中で、結果として「実践してもらいたいページNo.1」になった項目があります。
「ハザードマップの見方」のページです。
私としては、最も大切で難しいこの部分をわかりやすく書いたつもりで、編集者さんに原稿を送りました。
ネットで簡単にハザードマップを見られるよう、親切心からQRコードも掲載しておいたのです。
しかし、編集者さんから返ってきたのは「これだとハードルが高いです」という率率な意見でした。
「QRコードを読み込むことすら、くじけそう。そこからさらに自分で調べていくのは無理ではないか……」と。
ハッとしました。私は予報士・防災士の目線に偏って、読む人の本当の心理を見失いかけていたのです。
そこから「3分で!」「ワンタッチで!」できる方法はないかと必死で考え直し、たどり着いたのが『広島県防災WEB』を紹介する今のレイアウトでした。
広島県にも掲載協力をいただき、これ以上ないほど実用的なページにブラッシュアップできました。
「私は防災を大事だと思っているけど後回しにするタイプです」と本音でぶつかってくれた編集者さんだったからこそ、この本の「圧倒的なわかりやすさ」が完成したのだと確信しています。
救助隊員が漏らした
「大丈夫だから」という嘘の苦しさ
本書に掲載したインタビュー記事では、なかなか報道されることのない、想像を絶するリアルな現場の声を伺うことができました。
西日本豪雨のさなか、救出に向かった消防局の方のお話です。
報道陣もたどりつけない現場で、浸水した街の電柱にしがみつきながら救助を待つ人たちの姿。
「目の前にいるのに、濁流に阻まれて助けに行くことができない。救助のプロである私たちが、言いたくないのに『大丈夫だから、そこにいて』と安心させる言葉をかけることしかできなかった。あの時の苦しさは忘れられません」
そう語る消防局の方の言葉、そして翌日にその方の無事を確かめて涙したというお話に、取材の部屋にいた私たちスタッフ全員が、静かに考え込んでしまいました。
また、その消防局長のお母さまでさえも避難してくれず、実際に危険な目にあったという実に生々しいエピソードも飛び出しました。
「どれだけ危険を伝えても、それでもまた、人は避難しなくなる」。
その言葉の重みが、私の胸に深く突き刺さっています。
「防災は、そんなに
特別なことじゃない」
この本を書き終えて、私自身が一番実感しているのは「防災って、そんなに特別なことはしなくていいんだよね」ということです。
もちろん、自分がまとめる立場になって初めて、行政の防災文書があれほど難しく情報量が多くなる理由(漏れや誤解があってはならないという責任)が痛いほどわかり、「今まで難しいと思っていてごめんなさい」という気持ちにもなりました。
でも、とっかかりさえ乗り越えれば、日常の暮らしに「+1」するだけでできることがほとんどなのです。
その難しい言葉の壁や、あふれる情報の整理を、この本で徹底的にやわらかくほぐしました。(本当はもっと広島弁で伝えたかったのですが、他県の方に通じなかったり、あの有名なアニメのキャラクターの真似だと思われてもいけんので、少し抑えめにしています!)
津波の標識ひとつをとっても、広島県内の実態に即した、本当にいざという時に「使える知識」だけを厳選して詰め込んでいます。
もしもう一章書けるなら、普段から空に興味を持ってもらうための「空の楽しさ」を伝える章を書きたいですし、いつか「読み物」としての防災本にも挑戦したい。
私の防災への挑戦は、まだまだここからです。
防災は、決して難しくありません。
「やってみようや! ひろしま防災!」
この本をきっかけに、あなたの、そして大切な人のための最初の一歩を踏み出してみませんか。
文:勝丸恭子
著者プロフィール

勝丸恭子
かつまる・きょうこ
広島県出身。横浜国立大学を卒業後、広島の民放に就職し報道記者や中継ディレクターを務める。退職後に気象予報士の資格を取得し、2010年から15年間に渡ってNHK広島放送局気象キャスターとしてテレビ出演。カープとお好み焼きが大好き!という地元愛と、分かりやすく楽しい気象コーナーで人気を集めた。2019年には夢だったカープの始球式が実現!講演活動は広島県内をはじめ中国地方各地で多数。リピートの御依頼も多い。
<関連記事>
やってみようや ひろしま防災
著者: 勝丸恭子
定価: 1,650円(本体1,500円+税10%)
判型: B6
ISBN: 978-4-86250-878-2
発売日: 2026年6月30日
この記事は2026年7月23日の情報です。
関連記事
-
コラム
【今日もえんぴつを片手に。】<第6回>2年目校閲者は、流行り言葉をどう扱うのか?
流行り言葉、使ってますか?前回、前々回と、ザメディアジョンの各ジャンルごとの編集者の先輩方との関わり、それぞれの校閲を通して学んだことをまとめてきました。まだ出……
2026.09.04
-
コラム
この夏、本で広島を知る。広島本大賞2冠作家・清水浩司さんが綴る「広島本大賞」歴代30冊レビュー
一冊の小説から歴史を知ることもあれば、ノンフィクションから土地の記憶に触れることもあります。コミックや絵本が、その街の空気を教えてくれることもあります。この夏、……
2026.08.11
-
コラム
【今日もえんぴつを片手に。】<第5回>校閲者と編集者 伝えるべきことは何なのか?
「観光」ジャンルの先輩「ひとの役に立ちたいですか?」打ち合わせの帰り道。唐突に投げかけられた質問に戸惑い、結局先輩の真意は確かめられませんでした。今回のコラムで……
2026.08.07
-
コラム
【著者コラム】17年通っても、まだ知らない瀬戸田がありました ― 『レモンの島 今日もあの味と笑顔に会いに行く』/国吉 純
前回のコラムでは、17年間通い続けた瀬戸田で、「もう一度この島を書こう」と思うまでのお話を書きました。今回は、その続きです。実際に本づくりが始まってみると、17……
2026.07.30