コラム 2019/08/05

パン屋日記 #5「おしごとでたいへんなことはなんですか」

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町のパン屋さんで働くフワフワの日々……を想像してパン屋で働き始めた筆者が、味わい深い同僚やとんでもないお客さまとくり広げる必ずしもフワフワではない日々の記録です。

人のやさしさや仕事の本質、心に残る一言から、「かんべんしてくれよ」と思うようなできごとまで。自分や自分の身近な人のことを思い出して、ニヤッとしたりじんわりしたりしていただけたら、これ以上の幸せはありません。

#5「おしごとでたいへんなことはなんですか」

子どもたちが社会科見学にやってきました。

「パンをつくるときにたいせつなことはなんですか」

作り手に対する質問だったので、
ジャムおじさんのところへ聞きに行くと

「忍耐」
と、一言で返されました。

ジャムおじさん、子どもに嘘をついてくれません。

「根気強くがんばることです」
と、返事をしておきました。

「パンは1日になんこつくりますか」
「どんなきかいでパンをつくりますか」
「にんきのパンはなんですか」

最後の質問はこうでした。

「おしごとでたいへんなことはなんですか」

作り手の出勤時間は深夜3時です。
窯の前は死ぬほど暑いですし、
パン作りというのは、
想像をはるかに超えた肉体労働です。
労働時間も長いです。

ジャムおじさんは、天井を見つめました。
ジャムお兄さんも、「うーん……」と考え込んでいます。

出てきた答えはこうでした。

「別にない」

(えっ)

(えっ)って、なりました。

(ないの?)って、なりました。

「ぼくたちはパンを作ることが好きなので、
大変なことはありません」と返事をしておきました。

ほんのちょっとだけ、
パン屋のことが好きになった夏の午後でした。

 

今日のパン「バターロール」

生地にバターをたっぷり入れて焼いた小形のロールパン。パンのドウを巻いて焼いたもの.バター、マーガリンなどが比較的多く使われる。

<過去のコラム「パン屋日記」は下記へ>

パン屋日記 #4 瓶ラムネが開かない

パン屋日記 #3 あるパン屋での攻防

パン屋日記 #2 飛べないカラスのパン屋さん

パン屋日記 #1 お客様という神様


甲斐寛子

甲斐寛子[フォトライター]

愛媛県出身。大学進学を機に広島へ。卒業後いったんは地元で就職するも、あまりに広島が好きすぎて再移住。好きな食べ物は焼き立てのパン。現在はパン屋さんで働きつつ、地域情報や企業インタビューを書くフォトライターとして活動中。

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