
瀬戸内海で今、何が起きているのか――新聞協会賞『里海の今』が伝える海の異変
穏やかな波、多島美の風景、豊かな漁場。そして全国に誇るカキ養殖文化――。
瀬戸内海は、古くから広島の暮らしと産業を支えてきた。
しかし今、その海で静かに異変が進んでいる。
中国新聞社の写真企画『里海の今』は、そんな瀬戸内海の現在地を見つめ続けてきた連載だ。
2023年11月、瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸内法)制定50年を機にスタート。
水中写真やドローン、360度カメラなどを駆使し、人と自然が共存する“里海”の姿を記録してきた。
そして2025年度には、日本新聞協会賞の写真・映像企画部門を受賞。
瀬戸内海の生態を多角的に捉え、「自然と人間が共生する重要性を伝えた」と評価された。
水中写真が映し出した「豊かな海」

▲ゆらゆらと泳ぐエビクラゲの近くでは小さいカワハギの仲間が見え隠れする(大竹市の安芸白石灯標沖)
本書には、1年半以上に及ぶ取材成果が凝縮されている。
早朝の海に浮かぶカキいかだ。
海中で揺れるアマモ場。
群れをなす魚たち。
干潟を埋め尽くすカニたち――。
普段、私たちが目にすることのない海中の風景からは、瀬戸内海が今なお多様な命を育んでいることが伝わってくる。
特に印象的なのが、スナメリやカブトガニ、カンムリウミスズメなど、瀬戸内海に生きる貴重な生物たちの姿だ。
絶滅危惧種や、生態系の頂点に立つ生き物たちを追った写真には、この海が持つ豊かさと可能性が映し出されている。
「きれいな海」が「豊かな海」とは限らない

▲色とりどりの網が海面に並ぶ育苗の作業。網の間を船が通り、洗浄が進む(福山市内海町田島沖、ドローンから)
一方で、『里海の今』は美しい風景だけを切り取った写真集ではない。
近年、瀬戸内海では高水温や海洋プラスチックごみ、栄養塩類不足による「貧栄養化」など、さまざまな問題が深刻化している。
かつて瀬戸内海では赤潮や水質汚濁が大きな課題となり、「海をきれいにする」取り組みが進められてきた。
しかし現在は、窒素やリンなどの栄養が不足し、植物プランクトンや海藻が育ちにくくなっている。
つまり、透明度が高い「きれいな海」が、必ずしも「豊かな海」ではないということだ。
『里海の今』は、その複雑な現実を丁寧に映し出している。
海を取り戻すための挑戦
本書では、海の異変だけでなく、再生への取り組みにもレンズを向けている。
海底の栄養豊富な水を海面近くまでくみ上げる装置の開発。
海底耕運によるノリの色落ち対策。
海洋ごみの回収。
資源を守るための漁業の工夫――。
行政や研究機関、漁業関係者らが連携しながら、「人と自然が共存できる海」を模索している。
そこから見えてくるのは、単なる環境問題ではなく、“暮らしの問題”としての瀬戸内海だ。
瀬戸内海の未来を問いかける一冊
『里海の今』は、単なる環境写真集ではない。
変わりゆく海の姿を見つめながら、「この海を未来へどう残していくのか」を問いかける一冊だ。
瀬戸内海とともに暮らしてきた広島の人にとって、この変化は決して遠い話ではない。
美しい写真に引き込まれながら、読み終えたあとには、きっと“海の見え方”が少し変わっている。
書籍情報

『里海の今』
定価:1,980円(本体1,800円+税10%)
判型:カラーA4判/本文76頁
発売日:2026年4月30日
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