ライフスタイル 2020/10/09

【独占インタビュー】書籍『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』発刊から約1年。激変した世界で、松田哲也は今何を思う?

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2019年6月に発刊の書籍『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』(発刊:ザメディアジョン/著者:松田哲也)は、「原爆投下」という未曾有の惨事から100年後の未来への提言とそのシンボルとしてのおりづるタワー誕生秘話が記されている。同書は版を重ね、地方発刊の書籍としては大健闘といえる1万部の発行を記録した。

その著者である広島マツダ代表取締役会長兼CEO・松田哲也氏。

著書の内容もさることながら、彼のカリスマ性や、彼が発する情熱のメッセージに魅了され、本書を手に取った人も多いだろう。

広島経済界に燦然と輝くカリスマ。
磐石なグループ企業のリーダーにあって、
誰よりも自由と確信を愛する異端児とも形容できる彼は
「われわれはどうあるべきか」と、絶えず人々にメッセージを発し続ける。

ところが、彼は姿を消した。

いやSNS上で顔を見かけることもあるし、
コロナ禍での可能な限りの人との交流はしているようだ。

正確には、語ることをやめた。

大衆を魅了する選りすぐられた「言葉」を詰め込んだ
彼の魂の叫びを聞くことがなくなった。

2020年。
昨今の「おりづる」の狂熱から激変した世界で
彼は何を思い、何を感じているのか。
口を閉ざすその理由とは。その胸中とは――。
(聞き手:山本速 『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ企画』)

2020年は被爆から75周年を迎える節目の年
「この日に何もせず、黙ってコロナに負けて過ごすのか?」

――「姿を消した」と企画のコンセプトに書かせていただいてました。
広島のトップリーダーの一人である松田哲也さんが、このコロナ禍で何をされているのかが、編集担当者として気になり、お声がけしました。
僕と同様に感じている広島の経済団体、ビジネスマンも多いじゃないかなと思います。

ありがとうございます。ただね、姿を消した感覚は全くなくて(笑)。
確かに振り返ると、Facebookの投稿は激減しているから、そう思われても仕方なかったかもしれません。
それには明確な理由があって、まず「忙しい」ということが一つ。
コロナ禍で出張移動などの長距離移動が極端に少なくなり、出張移動がない中でSNSを利用して自分を見つめる時間がなかった。
あと実は、広島で慌ただしく動いていたんです。

 

――そうだったんですか。Facebookの投稿をさかのぼると、
5/10に「未来の話をしようよ」、6/14に「Japanese Beauty Beer Garen」、
8/5に「8/6の灯ろう流し」のお話をされています。
特に5/10の投稿には、松田さんの「思い」が感じとれますね。

そう、5月に「コロナ禍で、過去の写真や本のリレーもいいけれど、私は未来の話がしたい」という旨の投稿をしたんです。
当時は、コロナの感染拡大を防ぐため「STAY HOME」がうたわれ、自治体が開催するイベントが軒並み中止になり、「このままでいいの?」と疑問を抱いていました。
とにかく、夏から秋にかけてもう一度日本を盛り上げていきたい。
その先頭に立つのが広島になろうというのが投稿の趣旨なんです。

 

――とても奮い立たされる投稿でした。

実は、この投稿にすごく反響があって、自治体や関係者で何かできないかと水面下で動いていたんです。
ただ、実際には数多のハードルがあって、自身のエネルギー不足と行動する難しさを感じました。
「ひろしま はなのわ 2020」の名の下に、広島県と産学間が一体となれると確信したんですが、
会場の手配や協力者を集めるという点で、広島県や行政を巻き込むことができなかった。
僕らだけでやるにしても、発信力がどうしても弱くなってしまう。

さぁどうしようかと悩んでいたときに、「オンラインで灯ろう流しをしないか」というアイデアが生まれてきたんです。

今年は、8/6の式典は縮小、灯ろう流しは中止でした。
2020年というと、被爆から75周年を迎える節目の年。
「75年は草木も生えない」と言われていた、その75年目と2020年がクロスする年。
この日に何もせず「黙ってコロナに負けて過ごすのか?」
それだったら、この日に集中して、動いていけばいいのではないかと動き始めたんです。
準備期間はたった1ヶ月間。
圧倒的に時間がない中、市民球場跡地の原状回復工事を8/6まで待ってもらったり、各経済団体のトップに自分で直接掛け合って、思いを伝えました。

 

――期間も短いですし、ほぼ、松田哲也さんが一人で駆け抜けたと言っても過言ではないです。

苦難も多かったです。
オンライン灯ろう流しなら、スマートフォン1台で広島をはじめ世界中に発信できるし、
世界中からも思いが伝わる双方向のコミュニケーションによって、良い効果が生まれると思っていました。
でも、中には企画自体ももちろん、資金集めとか、思いや考えの違いで、ジョイントできない人たちもいて、全員の総意を得る難しさを痛感しました。
だから、6月の終わりから1ヶ月間は本当に大変でしたよ。
その甲斐もあり、企画が大成功に終わったことは嬉しく感じています。

絶対に、人類はコロナに勝つし、克服できる
なんとなく勝つことがわかっている戦い

――今、タイムリーな話題ですけど、9/28からのおりづるタワー営業時間縮小にはどのような意図がありますか?

コロナ禍でも、夏休みやGoToキャンペーンの集客を期待し、おりづるタワーで様々な企画に取り組みました。
ところが、閑散期レベルで集客人数が伸びなかったんです。
そして、これからの時期は、さらに来場者が減る期間に入るので赤字になってしまう。
それなら、土・日曜、祝日のみにサービスを集中したほうがいいのでは? と考えた次第です。
今は、おりづるタワーを生まれ変わらせるための充電期間として、各自企画を考えることにさせてもらいました。
ただ、この期間でも観光客が戻ってくる兆しがあるならばすぐでも撤回し、営業時間は戻します。

 

――柔軟ですね。苦渋の決断だけど、前向きにとらえていらっしゃるんですね。

開館から、4年。
カフェのメニューやお土産の売り上げも、安定してきていた最中でのことだったので、
本当のサービスがどういうものなのか、お客様に対するホスピタリティや商品について、もう一度立ち止まって考えたい。
(通常業務に戻る)2021年4月以降は、アフターコロナと合わせて、新しいおりづるタワーを期待していてほしいです。

 

――松田哲也さんとしてはどのような活動をされますか?

私は広島を元気付けるため、広島に新しい活性化を生み出すために行動します。
そういう役割が、私やおりづるタワーにあると思っているので。
コロナ禍で事業を縮小している人たちが多いからこそ、新しく動きだすチャンスにしようと思っているので、様々な業界に攻めていきたいですね。
皆さんが動けていない分、人間としても事業としても大きくなっていくチャンスだと思います。

絶対に、人類はコロナに勝つし、克服できる。
人々のライフスタイルは変わったとか、もう元には戻らないと言う人がいますけど、やっぱり僕は外にご飯食べに行きたいし、旅行に行きたいし、仲間と話したい。
リモート飲み会は楽しくないし、リモート会議は魂が伝わらない。
会って話したり、見たり聞いたりしたいと感じる人間の根本的な願いは無くならないと思うから、積極的に打って出たいなと考えています。

 

――コロナ禍で、広島経済への打撃が計り知れない中、広島に生きる経営者やビジネスマンは何をすべきか、どういう行動をとるべきか、ご意見をお伺いしたいです。

その人の年齢や業種によって全然違ってくるでしょう。
経営陣は、社内の体制やキャッシュアウト、後継者について考えたりでしょうか。
若いビジネスマンたちはチャンスだと思います。
ここで何もしなかったら、何にもならない。
世の中が大きく変わる時期に、こんなに落ち着いて考えられるときってなかなかないでしょう。
だから新しい道を見つけたり、当たりをつけておくのが大事です。
若い人たちは、頭も柔らかくアイデアもたくさんあるから、世間の波に流されてしまわず、広島らしくコロナ禍らしく、Zoomを使った新しいビジネスを発明したり、若い世代だからこそ「すごいな」と思うものが一つでもあると、世の中を変えられるかもしれません。

著書を出したことは間違いなく人生のクライマックス
周りの人に「認めてもらった」と肌で感じた

――書籍『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』ですが、昨年の発刊以降のご自身の変化や、届いたお声などを教えていただけますか?

間違いなく人生のクライマックス、自分の人生のけじめや区切りとなりました。
反響も大きかったし、読んだ人たちから感想をもらえたことがとても嬉しかったです。
何よりも作家になり、著書を出すことで社会的地位がすごく上がった。
認めてもらえているということが、はっきりと伝わって、本の力の偉大さを感じましたね。

いくらWEBで記事を配信しても、著作物を出した実績には圧倒的にかなわない。
同時に自分も、人々の模範やリーダーとして率先しないといけない責任があります。
本を出してからは、その責任を感じながら1年間を過ごしてきました。
だから、コロナに負けている場合じゃなかったんです。

 

――著書があることによって、かなり講演が増えたとおっしゃっていましたよね。

はい。
ただ、今はもうほとんど断っているんですけどね。
それだけ影響力があります。
本を出すのはおすすめですよ。
どんな人でも歩んできた人生があるし、一つでも二つでも、参考になるような言葉とか生き方があれば、それだけで人に良い影響を与えられます。
形になり後世に残っていくので、自分でお金を出してでも作るべきかなと思います。

 

――次回作を期待されている方もいるのでは? 個人的には、松田さんの生き方や働き方、ライフスタイルとかを全面に押し出すような企画を立てられれば面白いんじゃないかと。

ビジネス書はせっかくだから作りたいですね。人とは異なった、変わった働き方をしてますから。

 

――そこは多分、本当に広島で唯一無二な働き方をされて、テーマを定めて、掘り下げると面白そうです。

2045年に生きる人たちの世界を作ることが
今の時代を担っている僕らの役目だ

――本書は2045年、原爆投下から100年後の景色を夢想して作りました。昨年からガラリと情勢が変わってしまいましたが、松田さんのビジョンは変わっていませんか?

オンライン灯ろう流しをやった今年は、被爆から75年。
8/6の平和記念式典縮小や(昨年までの形の)灯ろう流し中止を受けて、
「この節目に何もしないのか、これが広島のあり方なのか」と強く感じていたのですが、
もし本を書いていなかったら、きっと自分の仕事にもがき、そんなことも考えずに過ごしたんじゃないですかね。
でも、本を書き、被爆100年後の広島の生き方や心のあり方、街の景色について夢想してしまった。
だからこそ、100年後に向けたゴールのための通過点として、75年目の2020年にやらないといけないことが見えてきたんです。

なので、昨年から思いは全然変わっていないです。
日本のゴール、そしてスタートは2045年だと思います。
20年後の2045年に、私たちの生きる街がどのような街になっているのか、どのような世界になっているのか、理想の姿をしているのか。
それは、今の時代を作っている僕らの世代の責任のような感じはします。
被爆75年を迎え、意を新たにする気持ちです。

 

――ありがとうございます。相変わらず、お忙しくされているのと、何も変わっていらっしゃらない「思いの強さ」に感動させていただきました。

 

■紹介した書籍■

2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ/松田哲也

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この景色をみせることこそ私の使命なんだ―。創設者がはじめてつづる、おりづるタワー誕生までの軌跡、そこにあった情熱と信念。


著者PROFILE■

松田 哲也(まつだ・てつや)


1969年、広島市東区生まれ。広島城北中・高等学校で学び、関西大学法学部卒業。株式会社神戸マツダモーターズ(現・株式会社神戸マツダ)勤務を経て、1995年に広島マツダ入社。2006年、6代目社長に就任。西日本最大級のショールームを備えた宇品本店、国内最大級の展示台数を誇る石内山田店など積極的な店舗展開を行い、経営を大きく進展させる。2010年、広島平和記念公園に隣接する広島東京海上日動ビルを取得し、改装の末、2016年「おりづるタワー」としてオープン。屋上を展望台として開放し、1階にカフェや物産店を併設するなど広島の新たな観光名所を創り上げる。2015年、就任10年を区切りに社長を退任。現在は広島マツダ会長兼CEOを務める一方で、スマートフォンアプリの制作、アパレル事業、葬儀事業など多くのビジネスを手掛ける。2009年に一般社団法人広島青年会議所(広島JC)理事長、2013年に広島商工会議所青年部(広島YEG)会長を歴任するなど地域経済の振興と社会貢献にも情熱を燃やす(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

編集■

山本速(やまもと・すみや)

株式会社ザメディアジョン所属メディアマーケティング事業部営業本部長。『知識ゼロでも安心して始められる! Zoom営業の教科書』、広島マツダ会長の著書『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』などを企画・編集。その他、経営者によるビジネス書などを企画するほか、自費出版のサポートを行っている。

 

撮影・編集協力/芝紗也加

 

 


山本速

山本速[ 株式会社ザメディアジョン所属メディアマーケティング事業部営業本部長]

『知識ゼロでも安心して始められる! Zoom営業の教科書』、広島マツダ会長の著書『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』などを企画・編集。その他、経営者によるビジネス書などを企画するほか、自費出版のサポートを行っている。新刊・ランクイン本ばかりに目が行きがち。

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