【インタビュー】広島㐧一劇場への想いが詰まった映画『彼女は夢で踊る』7・15公開 主演・加藤雅也「踊り子が脱ぐ姿にも、ちゃんと意味はある」
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広島市出身で映画『ラジオの恋』『シネマの天使』『鯉のはなシアター』といった地元を題材にした作品のメガホンを取っている時川英之監督。7月15日から広島で先行上映される最新作『彼女は夢で踊る』では、広島に実在するストリップ劇場を舞台にして、切ないラブストーリーを描いています。
その時川監督と、主演を務めた加藤雅也さん、ヒロイン役の岡村いずみさんに「広島発信で、全国大ヒットをする映画を作りたい」そんな強い熱意がこもった映画の見どころや作品への想いを、公開を前に語っていただきました。
ラジオを題材にした映画が紡いだ物語の始まり
加藤雅也(以下、加藤) 「もともとは、2013年から僕がFM横浜で始めたラジオ番組『BAN BAN BAN!』のゲストに時川英之監督を呼んだのが始まりです。ラジオパーソナリティをやるからには、ちゃんと結果を残したい! そう思った僕の頭の中に“ラジオ”というキーワードが浮かんで、色々と探っている中で、ちょうど番組を始めて1年ぐらい経った2014年頃かな。時川監督が撮った映画『ラジオの恋』(2014年公開)に巡り合って、カリスマDJ横山雄二(RCC中国放送アナウンサー)の存在を知った。そこからラジオ番組のプロデューサーに作品について尋ねて、詳しく調べてもらう中で、時川監督にメールを送ったら返信が届いて、偶然にも、東京に居ることが分かった。それですぐに、ラジオ番組のゲストに呼んだんです」
ーー偶然にも、映画『シネマの天使』(2015年)のプロモーションのために東京に来ていた時川監督は、直ぐに動き、加藤さんのラジオ番組にゲスト出演します。
時川英之監督(以下、時川監督) 「ラジオ出演後も、結構長い時間、1時間半ぐらいかな。二人で話をしました。それで一緒に何かをやりましょうとなったんです」
それから時は流れ、2016年。加藤雅也さんは、出演した映画『棒の哀しみ』の公開舞台挨拶に合わせて、広島(横川シネマ)を訪れます。そこで、二人はRCC中国放送アナウンサーの横山雄二さんが放った言葉に触発されて、映画を撮ることを決めたと言います。
時川監督 「加藤さんが舞台挨拶で横川シネマを訪れた際、横山雄二アナウンサーが舞台挨拶の司会を務めてくれて、終了後に三人で飲んだんです。その中で、加藤さんが『広島で三人で一緒にやろう! 何する?』って話をした時に、横山さんから『広島で40年近い歴史を持つストリップ劇場【㐧一劇場】が閉館する』その話を聞いて、じゃあ、それを題材にしてやろう、と盛り上がったんです」
限られた時間の中で徹底した役作りを
2016年12月に出会った時川、加藤、そして横山の三人。3人が生んだ映画への熱い気持ちは、静まることなく、むしろ日を追うごとに燃え上がり、わずか3カ月後の2017年3月には、撮影を始めていたという。
加藤 「㐧一劇場が、2月末で閉館することが決まっていて、3月の半ばには取り壊すと聞いていたから、撮れるとしたら3月頭のわずかな期間しかない。全部は撮れなくても、半分でも撮れるなら撮っておけば、あとは何とかなるから。そう決めたら、動くのも早かったです」
ーー時川監督は、同劇場の福尾禎隆社長や現役のストリッパーらから何度も話を聞いて、脚本を書き上げ、さらにはキャスティングにも追われた。その中でも一番大変だったのが、ヒロイン役を見つけること。ダンスを踊れて、スタイルも良く、しかも脱がなきゃいけない。その難しい条件の中、オーディションを経て、見事に役を射とめたのは、第59回ブルーリボン賞新人賞を受賞した経験を持つ岡村いずみ。
岡村いずみ(以下、岡村) 「オーディション前に簡単な台本をいただいて、パラパラと読んで、私自身ストリッパー役の経験が無かったけど、こんな機会が無いとストリッパーを演じることは出来ないし、オーディションだけどぜひやりたいと伝えて、受けに行きました。しかも、選ばれた、と連絡をいただいたときには、別の舞台の稽古が入っていたんです。直ぐに撮影もスタートしたから、準備期間は実質1週間近くでした。時間が無くて大変だなぁ、舞台もあるけど……と正直思ったけど。まぁやるしかないか! そう腹を括ったら、早かったですね。私自身、作品の大小に関係なく、面白いと思ったらやりたい方だし、作品の中で脱ぐとか、脱がないとかは関係ない。よく、人からは簡単に脱げるんですか、と言われるけど、作品が面白いなら大丈夫です」
ーーオーディションから決定まで数日……。さらに、1週間後には(台本の)本読みも始まった中で、岡村は、スタッフとともに浅草・ロック座を訪れてストリップを鑑賞し、今回の作品にも出演した現役のストリッパー・矢沢ようこにストリッパーとしての心構えを教わる。また、館長を演じる加藤雅也も、㐧一劇場の社長から話を聞いて役柄を作っていった。
加藤 「ストリップの歴史は本で調べ、それを踏まえて劇場のことや、実際のストリップの世界について話を聞きました。形だけを演じるだけではやっぱりダメで、ちゃんと理論を知っていないとダメだと思うんです。踊り子が脱ぐ姿にも、ちゃんと意味はあるはず。その意味をちゃんと理解していないといけないんじゃないか。演じる中で、アドリブでも出せるように、社長からは色んなエピソードも教えてもらいました。今回の役回りは、滅多に回ってくるものじゃない。でも、よく考えたら僕の心の中では、一度は演じてみたい役柄だったと思うんですよね。だから、演じるならちゃんと演じたいと言う気持ちが生まれていたんです」
主役とヒロインを演じきるための熱意が、作品を仕上げる際のモチベーションに
ーースタッフ、役者それぞれが、短期間の中で最大限の力を発揮して驚くほどのスピードで作品は完成。その中で、時川監督は加藤雅也さん、岡村いずみさんの二人がいたからこそ、無事に作品が完成したと感じている。
時川監督 「作品は、実際にここの館長から聞いた話、踊り子さんから聞いた話を、改めて組立て直して、フィクションにしています。主演を務めた加藤さん自身も、実際に館長から話を聞いて、自分なりに分析したものを演じてくれています。時代遅れの文化の中で取り残された男が、その中で抗おうとする。その姿を、加藤さんが映し出してくれている。ヒロインの岡村さんは、ストリッパーを演じてくれた訳ですが、真剣に踊っているストリッパーの世界を、自分はどう演じようか。彼女たちの生き様をどう映し出そうか。岡村さんなりに考えて、演じて、踊ってくれた。ストリッパーの世界には、当然、表と裏もある。日なたもあれば、影となる部分もある。もちろん、悲哀もあるし……。そんな世界観が岡村さんなりの演技と踊りで、スクリーンに全面に出ています。僕は、そこに触発されたし、二人が一緒に居てくれたからこそ、この作品が出来たと思っています」
広島から全国ヒット作品を!
ーー「広島で一緒にやろう!」その言葉を合言葉に始まった、時川英之監督による最新作『彼女は夢で踊る』の撮影。実際の撮影は、㐧一劇場だけにとどまらず、流川、薬研堀の通りや店舗を使って行われたそうだ。
加藤 「映画の至るところに散りばめられているのは、広島の人が普段日常歩いている通りや、その姿。さらには、お店の数々。だからこそ、リアリティがあるんです。撮影に参加してくれたほかの人たちも、みんなリアルな芝居をしてくれる。バーのマスターが本当のマスターになっている。僕ら俳優が役を演じるときは、練習して、演じている。それを作るのに時間をかけるけど、地方で撮ると、作るんじゃなくて、普段通りの姿を映し出せばいい。そこにリアリティが生まれるんです。東京で撮っても、広島の街は作れるけど、空気感は生まれない。地方で映画を撮ると制作コストはかかるけど、そのコストに見合うだけの価値は絶対にあるはずです」
ーー加藤さん自身、昔から地方で映画を撮りたくて、しかも広島もその場所のひとつだったと言う。そんな加藤さんの想いもこもった今回の作品。最後に、この作品を通して伝えたい事を、三人それぞれに聞いてみた。
加藤 「この作品には、色気のある広島の街があるし、みんなに知られていない場所【㐧一劇場】が薬研堀にあったという、その歴史を広島の人にも改めて知ってもらいたいと思います。そうすれば、自分たちが住んでいる街が、もっと誇れるようになるのではないでしょうか」
岡村 「時川監督も言ってましたけど、女性に観てもらいたい映画です。“ストリップ”という言葉だけだと、男性のイメージがあると思います。私自身も、今回の役をもらうまではストリップを見た事なく、何となく近寄りがたいイメージがありました。でも、この作品で役をもらって、実際にストリップを観ると、全然そんなことはない。男性だけじゃなくて、女性にこそ見てもらいたい美しさがそこにはある。女性に生まれて良かったと思える日本の文化(エンターテイメント)を感じてもらえると思います。作品そのものは純粋なラブストーリーにもなっていますから。絶対に女性に観てもらいたい映画です」
時川監督 「僕も横山さんに(㐧一劇場の話を)聞いて、初めてきた時はいやらしいイメージがあったけど、実際に観てみると、踊り子のダンスが織りなすファンタジーな世界観に引き込まれた。いやらしくは感じなかった。そこに改めて感動し、さらに引き込まれた。そこを営む人、踊るダンサー。そこには色んな情事もあったはず。それに思いはせながら感じて欲しいですね」
ーー映画の中のワンシーンとしても映し出される、ダンサーの控室から舞台へと続く階段の壁につけられた、無数のキスマーク。その数だけ、情事があったはずで、この『彼女は夢で踊る』で描かれたのは、その中のたった一つに過ぎない。ただそれだけでも、観る人に感動を与える作品に仕上がっている。
映画『彼女は夢で踊る』は、7月15日から横川シネマ、7月26日より福山シネマモードで上映。2020年には東京、そのほかの地域で全国順次公開予定。
7月15日(月・祝)『横川シネマ』にて舞台挨拶予定
7月15日(月祝)10:40~上映後 加藤雅也・矢沢ようこ・横山雄二・時川英之監督が舞台挨拶を行います。
当劇場受付にて前売り券を販売しております。
(横川シネマ Googleマップはこちら)
詳しくはスタッフまで。
<STORY>
広島の老舗ストリップ劇場に閉館が迫っていた。社長の木下は過去の華やかな時代を思い出す。最後のステージを飾るストリッパーたちが劇場にやってくる。この舞台で幕を引く有名ストリッパーや、謎めいた若い踊り子。閉館への日々に、木下は忘れていた遠き日の恋を思い出す。そして、最後の舞台の幕が上がる。観客たちはステージの裸の向こうに何かを見つめている。木下は劇場の終演に、胸の奥に隠していたダンサーとの秘密を思い出す。ステージの上に幻は眩しく輝き、木下は遠い昔の美しい夢を見る。
<キャスト>
加藤雅也 犬飼貴丈 岡村いずみ 横山雄二 矢沢ようこ
監督・脚本・編集 時川英之
新庄谷 隆[エディター&ライター]
竹原市出身、広島市在住。大学在学中からタウン情報誌でアルバイト。そのまま就職し、2006年に独立。企業家から、旅行関係、スポーツ、音楽など幅広いジャンルの人々へのインタビューをこなす。音楽と広島カープ、そして広島をこよなく愛する自称「書き物家」。
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