【インタビュー】「生き方を探るきっかけとなれば」 映画『鹿の王 ユナと約束の旅』安藤雅司監督
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全国で公開中の映画『⿅の王 ユナと約束の旅』。
本作は、「精霊の守り⼈」や「獣の奏者」シリーズなど、数々の⼈気作を⼿がける上橋菜穂⼦のベストセラー⼩説「⿅の王」を原作としたアニメ映画で、広島県府中市出⾝・安藤雅司監督が⼿がけます。
初監督作品でありながら、キャラクターデザイン、作画監督などアニメ制作における⾻⼦の部分も務められた安藤監督にお話を聞かせてもらいました!
映画化に苦労
困難を極めつつ
作り上げた一作
——監督として作品を手掛けるにあたり、原作を読まれたと思うのですが、その感想と作品が持つ魅力がどこにあると感じられたかを教えていただけないでしょうか?
複雑であること、多様性を持っていることではないでしょうか。
原作自体、多岐のジャンルにわたって言及している情報量の豊富な作品だと思いました。
科学としての医療を扱う一方で、ファンタジックで超自然的な現象を起こす。
そこに、民族間の争いや政治劇などが複雑に絡まりあうからこそ、豊かであると思える原作。
その上で、ヴァンやユナ、ホッサルといった揺るぎないキャラクターたちがいることが大きな魅力だと感じました。
ただ、映画化はとても難しい作品でした。
原作は、まさにヴァンとホッサルの軸があり、この二つの登場人物が混じり合うことや、そこで交わされる会話に面白みと物語の醍醐味があり、その交わりが、多岐にわたって物語の世界に広がっていくので、情報が合わさっていくことにも大きな魅力があると思うんです。
それを2時間弱の映画の中に収めることは難しいので、覚悟の上で何ができるのか、困難を極めつつ作り上げた一作です。
——原作は⾮常に⻑く壮⼤で、多様な⽣き⽅が複雑に絡まりあう⼀作でした。監督としては原作のどこを主軸において作品を作ろうとされたんでしょうか?
おっしゃる通り、非常に長く複雑で、原作を読み困惑したというのが正直なところだったのですが、上橋先生が「鹿の王」のあとがきに、ヴァンがユナと出会うことによって、物語が動き出したということを書かれていて、その言葉にとても助けられました。
ヴァンとユナという血は繋がっていないけれど、親子のように深い関係性を持った二人で始まる物語なら、その二人の物語がどこに帰結していくのか描くことを軸に置こうと思ったんです。
そこを起点に、複雑な物語の環境を絡ませていくと、一本の映画としてのストーリーラインが見えてくるかなと思い、作り上げていきましたね。
アニメーターの経験を生かし
新しい⽬線を
培うことができた作品
——初監督作品ということでファンの⽅は待望の本作だったかと思うのですが、安藤監督が⼿掛けるなら、こだわりたいと決めていた部分はありますか?
これだ、というものを決めていなかったです。
ただ、僕が学⽣の頃とかに刺激を受けた作品は多々あるので、その当時、⾃分に影響を与えてくれた作品で表現されていた⼒強さみたいなものを⽣み出すことができれば、という理想を持って取り組んだところはありました。
——どのような作品に影響を受けたのでしょうか?
昔、慣れ親しんだ作品群の中に出崎統さんの『宝島』というアニメのキャラクターに、シルバー船⻑という⾻太でどっしりと⼒強く構えたキャラクターがいたんです。
シルバー船⻑は、⼀つの⽗親像であり頼りがいのあるキャラクター像として、はっきりと存在感があったんです。
ヴァンにも、そういったものをどこか彷彿とさせられないかと取り組んだところはあります。
——過去に親しんだ作品から⼤きく影響を受けられていたんですね。では、アニメーターとしての経験はどういった部分で⽣きてきたかと感じられました?
むしろ、自分が今回監督として作品を作るにあたって、頼るべきものがアニメーターとして培った経験しかなかったですね。
長い間、アニメーターをやっているので、作品に対しての関わり方や距離感は醸成されてきているなと感じていいました。
本作でもその感覚頼りに取り組みましたが、監督としては新たに更に広く作品全体を観る目線を培う必要がありました。
息苦しい社会環境だからこそ
⽣き⽅を探るきっかけとなれば
うれしい
——映像化にあたり、各キャラクターのデザインはどんな⾵にイメージを膨らませて形づくりましたか?
映画ではある程度整理はしたものの、物語の複雑さが原作の⼀つの魅⼒であることも含め、多様な価値観が混じり合い、ぶつかり合う部分を残さなければ「⿅の王」という感触にはならないという判断は念頭にありました。
だからこそ、先ほどの話で出たシルバー船⻑のように、どんと中⼼にある存在として意識したときに、ユナという⼩さな存在が寄り添えるにふさわしく、並んだときに端的に映るビジュアルを意識しました。
ほかのキャラクターたちについても、その部分を意識して形づくっていきました。
——メインキャラクターを演じられた⽅々のお芝居の声をお聞きしてどうだったか教えてください。
堤真一さんは、ヴァンというキャラクターをイメージしていたときに、まさにこういう声がほしいと思っていたので、ブースで第⼀声を聞いた時に震えました。
彼の声の魅⼒の⼀つだと思うんですけど、憂いが少しあるんですよね。
それがヴァンに深みを与えてくれました。
⽵内涼真さんも、試⾏錯誤されながら素敵なホッサル像を作り上げてくれました。
完成披露試写でお会いした時にフランクで気さくで優しく接してくださって、アフレコの時はきっと緊張していたんだろうな、なんて考えました。
杏さんも、本当に素敵でしたね。
サエという役は冷たい部分を持っているから、少し低めに声を出してもらっていましたが、地声がすごく澄んだいい声をされていました。
みなさんは声がとても良く、謙虚で誠実に役柄に溶け込んでくれましたので、その⼈間性も現れていて素晴らしかったです。
——医療、感染症、絆が⼤きなテーマになっている本作ですが、観客のみなさんにはどんなメッセージを届けたいですか?
僕たちは今、新型コロナウイルス感染症という感染症が広がっていて、どうやって共に生きていこうかってことにとても戸惑いながら、未だに模索している最中です。
それは、人と共にと、病と共に生きるという側面もあると思っています。
そんな世界で自分たちが選択することとはなんなんのか。
そういうことを見る側の人たちにも考えながら見てもらい、照らし合わせた時にどうやって生き方を探っていこうかって考えてほしいところはすごくありますね。
——大きな作品を仕上げたばかりではありますが、監督ご自身として、これからはどんな作品を作っていきたいですか?
今回、監督を務めさせていただいて、作品全体を見ることの大切さを強く感じました。
今後、アニメーターとして作品に関わる場合にも、作品全体を見た上での自分の描くべきものを探っていく姿勢を培えたので、そこを生かしながら関わっていきたいです。
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』は、全国東宝系ほか映画館で上映中。
〈STORY〉
かつて東乎瑠(ツオル)帝国から恐れられていた戦士団"独角"の頭・ヴァン(堤真一)は戦いに敗れてすべてを失い、囚われの身となっていた。
ある日、山犬の襲撃を受けるも混乱に乗じて脱獄に成功するが、その最中、自分と同じように家族を亡くした少女ユナと出会い、共に過ごすことでヴァンは徐々に生きる目的を取り戻していく。
一方、謎の病〈黒狼熱(ミッツァル)〉がツオル帝国で猛威を振るいつつある中、ツオルの支配下にあるアカファ王国では、ウイルスを体内に宿す山犬たちを利用して水面下で反乱が計画されていた。
抗体を持つことで陰謀に巻き込まれるヴァンとユナだったが、ついにはユナが山犬たちに連れ去られてしまう。ヴァンはユナを追う途中で、ミッツァルの治療法を探す天才医師ホッサル(竹内涼真)と、それを阻止したいアカファ王国によって送り込まれた跡追い狩人のサエ(杏)と出会い、彼らはそれぞれに思惑を抱えながら共にユナを助ける旅に出る。
果たしてヴァンはユナを助け出すことができるのか?
〈監督〉
安藤雅司 宮地昌幸
〈キャラクターデザイン・作画監督〉
安藤雅司
〈声の出演〉
堤 真一 竹内涼真 杏
〈制作スタジオ〉
Production I.G
〈公式HP〉
芝紗也加[株式会社ザメディアジョン メディア関連事業部クリエイティブサポート]
高知県出身。冊子やリーフレット、パンフレット、広告などを企画。マリーナホップ発刊の情報誌『Aletra』、お好み焼アカデミーによる『お好み焼シンポジウム』プロジェクトなどを運営。映画、読書が趣味。最近は刺繍に目覚めたり、絵本講師になるため勉強中。
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