【映画】全編広島ロケ「あみ子がここで生きているというのがパッと絵になって思い描かれました」 広島出身・芥川賞作家 今村夏子のデビュー作『こちらあみ子』完成披露上映会&舞台挨拶

7月5日(火)に映画『こちらあみ子』の完成披露上映会と舞台挨拶が八丁座にて行われ、大沢一菜さん(写真中央)、奥村天晴さん、大関悠士さん、橘高亨牧さん、森井勇佑監督(写真右)が登壇しました。
『むらさきのスカートの女』で第161回芥川賞を受賞した今村夏子さんが、2010年に発表した原作『こちらあみ子』は、本作を含む単行本で第24回三島由紀夫賞を受賞しています。
そんな、今村夏子さんのデビュー作を、初監督作品として手がけた森井監督は、ロケ地を広島にした理由やキャスティング、映画にかける思いを話しました。
また主人公・あみ子役を務めた大沢さんをはじめ、あみ子のお兄ちゃん役・奥村さん、憧れの同級生・のり君役・大関さん、坊主頭のあみこの同級生役・橘高さんたちは、撮影現場の雰囲気そのままの和気藹々とした様子で、制作当時のことを振り返りました。
自分の中のあみ子を見つけてくれたらうれしいです(森井監督)
森井監督は広島をロケ地にした理由について「呉の離れた地に広小坪という街を見つけた時、あみ子がここで生きているというのがパッと絵になって思い描かれました。街のやわらかさ、少し不思議な感じに惹かれましたね。本作は全編、広島ロケだったので観客の皆様にとってもなじみのある風景もあったかもしれません」と話しました。
主人公を務めた大沢さんは「最初に会った時から一目惚れです」とオーディション会場で出会った時のことを思い起こしながら「もう、この子だ絶対。芝居を見る以前に、佇まいでこの子を撮りたいなと思いました」と語り、第一印象と自然なふるまいで大沢さんにあみ子を演じてほしいと思ったことが伺えました。
大沢さんは撮影当時を振り返り「みんな演技未経験でしたから、安心でしたね」と、素直な感想に会場が笑顔になる包まれる場面も。また、監督の演技指導については「台本をもとに感情を出すのは難しかったです。でも、監督が最初に、あみ子を演じなくていいんだよ、と言ってくれて。自然に演じてみました。でも実際に映画館で観ると、自分じゃないような気がします」と胸の内を明かしました。
「あみ子を演じなくていいんだよ」という言葉の意図について、監督は「あみ子という役を大沢さんの中で想定して、それに近づけている作業はしてほしくなかったです。彼女は、キャスティングの時点であみ子だと見込んだ女の子。それはあみ子だけに限らず、子どもたちには、作り込まない自然な演技をしてほしいと思っていました。橘高くんは、シーンの演出について、もっとこうしたいと提案をくれたりもして、うれしかったです」と話し、役者一人一人に作為のない演技を求めていたことが伺えました。
子どもたちがメインのキャスティングということもあり、俳優が撮影当時を振り返り「現場が楽しかった」という感想に対して、監督は「意図的ではなく、自然とそうなっていきましたね。僕も全力で子どもたちと関わっていたので。映画の撮影現場は辛いとか苦しいというイメージがありましたが、『こちらあみ子』の制作は一貫して楽しい現場でしたね」と、笑みを浮かべて話す姿に撮影時の楽しさが伺える場面も。
最後、森井監督は「『こちらあみ子』は、僕がとても大事に作ってきた映画です。僕はあみ子という女の子に、出会った時からずっと共鳴しながらこの映画を作ってきました。ご覧いただいた皆様の心の中にも、自分の中のあみ子を見つけてくれたらうれしいです」と、呼びかけました。
映画『こちらあみ子』は、7月8日(金)より全国順次公開。広島では八丁座、バルト11、呉ポポロシアター、T・ジョイ東広島、エーガル8シネマズ、福山駅前シネマモード、シネマ尾道にて鑑賞ができます。ロケ地として登場する広島の風景にも注目です。
〈あらすじ〉
芥川賞受賞作家・今村夏子のデビュー作を映画化
感情と感性を刺激する映像と共に描く
無垢で、時に残酷な少女のまなざし
あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに登下校してくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」―――。奇妙で滑稽で、でもどこか愛おしい人間たちのありようが生き生きと描かれていく。
ひとり残された家の廊下で。みんな帰ってしまった教室で。オバケと行進した帰り道で。いつも会話は一方通行で、得体の知れないさびしさを抱えながらもまっすぐに生きるあみ子の姿は、常識や固定概念に縛られ、生きづらさを感じている現代の私たちにとって、かつて自分が見ていたはずの世界を呼び覚ます。観た人それぞれがあみ子に共鳴し、いつの間にかあみ子と同化している感覚を味わえる映画がここに誕生した。
〈『こちらあみ子』公式HP〉
https://kochira-amiko.com/
〈出演〉
大沢一菜 井浦 新 尾野真千子
奥村天晴 大関 悠士 橘高 亨牧
〈配給〉
アークエンタテインメント
〈原作〉
『こちらあみ子』(ちくま文庫刊)
あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校してくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示した、第26回、太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の異才のデビュー作。書き下ろし短編「チズさん」を収録。解説は穂村弘、町田康。

芝紗也加[株式会社ザメディアジョン メディア関連事業部クリエイティブサポート]
高知県出身。冊子やリーフレット、パンフレット、広告などを企画。マリーナホップ発刊の情報誌『Aletra』、お好み焼アカデミーによる『お好み焼シンポジウム』プロジェクトなどを運営。映画、読書が趣味。最近は刺繍に目覚めたり、絵本講師になるため勉強中。
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