エンタメ 2022/10/27

【インタビュー】読み返す人続出! 重版が止まらない! 横山雄二さん著書『アナウンサー辞めます』の人気の理由は……(ネタバレあり!)

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「小説家のインタビューしてみませんか?」

電話の主が言い終わるか終わらないかで「行きます! やらせてくださいっ」と即答した私。

小説の落選を続ける私にプラスになるのは間違いないし、なかなか著者に会えることもない!

「作家は横山雄二さんです」

わ!

知名度抜群のアナウンサーで、映画監督で脚本家で俳優で、そして初の小説『ふるさとは本日も晴天なり』が増刷に次ぐ増刷だった、人気作家ではないですかっ。

今回も発行から1カ月たらずで重版が決定。

今も勢いが止まらない話題の小説第二弾「アナウンサー辞めます」。

この一冊は、どうしてここまで読者の心を掴むのか。

どうしてこんなにエネルギッシュなのか、その理由が知りたい!

私は改めて「アナウンサー辞めます」を熟読し、付箋だらけになった本を持って、いざRCCへ!

 

門田(以下、記載なし)「よろしくお願いします」

横山(以下、記載なし)「こんにちは。何でも聞いてください」

あいさつが終わり、ディレクターからはおいしい水を、横山さんからはお茶もらっちゃって、「手ぶらは私だけかーい」(涙)。

気を取り直して……。

「まずはいつから、どういうきっかけで執筆し始めたのか教えてください」

「2020年夏に書き始め、385ページ、1年半かけて完成させました。前作『ふるさとは本日も晴天なり』が好評だったこともあり、角川春樹事務所の編集さんからはいつでも書いてくださいと言われていましたが、2019年秋ごろに監督をする映画『愚か者のブルース』の制作が決まったこともあってなかなか……

「1年半前というと、まさにコロナ禍と重なりますね」

「コロナ禍で行動が制限され、自由に動けなくなり、気分が沈みましたよ。そんなある日、みんな頑張っているのに、僕は精神を病みそうだと感じるときがあったんです。それでもラジオでは『おはようございます』ってテンション上げてしゃべらなければならない。辛かったですね……」

「百戦錬磨の横山さんでもそんなときがあったんですか……。しかし、ラジオからはいつも通り元気な声が聞こえてきました。どう乗り越えたんですか?」

「映画館を応援するシネマTシャツをデザインしたり、CD制作をしたりして『コロナでもクリエイティブな自分』でいたかったけれど、本音はしんどいな、形だけだなって思ったんです。それだったら、また小説を書いてみようかって気持ちになれたんです。タイミングは今なんじゃないかなと。幸い、外に飲みにも行けなくて、時間がありましたしね。前作から私を担当してくださっているハルキ文庫の編集者さんの存在も大きかったです」

「タイミングを掴むのも天才的! きっと本能なんでしょうね。作中のこともお聞きしたいのですが……いきなりネタバレですみません! プロ野球を舞台に、「21世紀枠」という、ものすごいテーマを軸に展開されますが、これは誰がどう思いついたんですか?」

「まず、野球についてですが、僕自身が野球部だったことが大きい理由です。高校野球の県大会決勝戦で負けた経験も生かして書いています。あそこで甲子園に出場していたら人生変わってたかな、なんて思いますもん。今でも仲間に会えば『お前のせいで負けた』とか(笑)、40年近く経っても話題にできるのが野球。男女問わず分かりやすいスポーツだというのも理由です」

「『お前のせいで負けた』とか言える関係っていいですね。この著書には、他にも『本音かしら』と思うところがあります。もしかして、話の軸となる21世紀枠も……」

「実は、21世紀枠を思いついたのは、『保育園落ちた日本死ね!!!』のタイトルで始まる記事がきっかけです。1人のSNSのつぶやきから、ものすごい勢いで広まりましたよね。そこで、『何か言ったら次の日、世の中が変わる可能性ってあるんじゃないか』と思ったんです。野球以外にも21世紀枠があって、チャンスが与えられたら、日本中のみんながもっと活躍できるという物語の流れは、リアリティーのある小説になるなって」

「『チャンスが与えられたらもっと活躍できる』。コロナ禍であえぐ人たちへのエールにも受け取れました。他にも、心を打つ場面が散りばめてあります」

「評価されたいとか、チャンスがあったら私にだってできるはずだとか、そんな誰もが抱いていそうなことを、『21世紀枠』に当てはめて書いたんです。いわば主人公が『21世紀枠』というエピソードを借りて、僕の内面を、世の中の多くの人の心を、代弁しているんです。読者の皆さんには、そのあたりが伝わったのかな、共感してもらえたのかな、と勝手に思っています」

「主人公の『太田』イコール横山さんなんですね。レビューを見ていると、多くの人が太田の言葉に共感したという感想が多いです」

「皆さんが共感してくださる部分は、実は僕の思いにも重なります。SNSや匿名発言が当たり前になって、少数意見がまかり通るようになった今の世の中で、太田が発する言葉って、多くの人が『言えないけれど感じていること』なんだと僕は解釈したんです」

「それは横山さん自身の言葉でもあるんですね」

「僕の価値観や美学、普段思っていることと一緒に、なるべく多くの人に届けたいと思って書きました。登場人物が、ののしったり、励まし合ったりする言葉は、読者にも書いた僕自身にも、刺さる。届く。そんな一冊になりました」

「『本音』と『共感』が表裏一体となった一冊ということですね。『あるある、そんなことがあった』という部分、『それ分かる』と思う部分が多くて、いつしか自分に置き換えて読んでいました。みんな横山マジックにかかっちゃうんでしょうね。また、さすがアナウンサーだなと感じたのは、言葉の一つひとつにエネルギー、バイタリティーを感じました」

「しゃべることを生業としているので、言葉は特に大切にしています。原稿のセリフ部分はラジオで話すのと同じスピードで書いていました。泣けるといわれるシーンは、本当に泣きながら書いたんですよ。特にラストシーンとかね」

「私も泣きました。いいシーンですよね! ラストに向かうにつれ、先を読み進めたいけれど、読み終わりたくない、そんな不思議な感覚になりました」

「僕は映画の脚本も手掛けているので、常に『登場人物のセリフが魅力的でないと面白くない』と思っています。映画では、例えば『海辺で何かを語るとムードがある』と思われ、そこで愛を語るパターンになりがちです。でも、僕は『設定だけじゃ伝わらない』と思っているんです。登場人物が唯一無二の言葉を語らないと、新しいものは生まれてきません。そこは映画の脚本も小説も同じだと考えています」

「たくさんの情報があふれ、誰もが簡単に発信できる今だからこそ唯一無二の言葉が響くのですね。本音と共感で引き付け、次に、脳内にリアリティーある映像が浮かんできたら、もう読者は横山マジック、横山ワールドにはまっていますね。アナウンサーとして、脚本家として、作家として……。コロナ禍の辛さも含め、今までの歩みが生きた一冊と言えますか?」

「最初に話した通り、コロナ禍でちょっと弱った自分を励ますと同時に、みんなが夢を持てるような話が書きたかったのは事実です。そこにいろんなエール、伝えたいメッセージを込めました。迷っている人、壁にぶつかっている人に届くといいなと思います」

『アナウンサー辞めます』の感じ方は十人十色。

しかし、誰もが間違いなく横山ワールドに引き込まれてしまう一冊でした

一度読んだら、また読みたくなるのは、自分に対して素直になれるから。

主人公の太田を通じて心に入り込む、横山さんからのエールがしっかりと届いて心に沁み入ります。

SNSでは伝わらないものが、この一冊に込められている!

ぜひ手に取ってもらいたいです。

 

アナウンサー辞めます

タイトル アナウンサー辞めます
出版社 角川春樹事務所
発売日 2022年9月15日
本編 385頁

<著者プロフィール>
横山雄二(よこやま・ゆうじ)
1967年生まれ。宮崎県出身。1989年、株式会社中国放送に入社。
アナウンサーを主軸にテレビやラジオのバラエティ番組出演から、映画監督・俳優・小説家・歌手活動・作詞・俳句など、多彩なジャンルで活躍。
主演映画『ラジオの恋』はアメリカのシネマベルデ映画祭で観客賞を受賞。
初の映画監督作品『浮気なストリッパー』では、ミニシアターの観客動員記録を塗り替え、2015年には第52回ギャラクシー賞・DJパーソナリティ賞を受賞するなど、数々の話題を提供。
著書に自伝的小説『ふるさとは本日も晴天なり』や『横山の流儀』『別冊 天才!?ヨコヤマ』『生涯不良』などがある。
2022年11月には監督として2作目となる映画『愚か者ブルース』が全国公開。


門田聖子

門田聖子[ぶるぼん企画室]

原稿屋「ぶるぼん企画室」所属。庄原文芸大賞 佳作。廣島小説大賞 優秀賞。中国短編文学賞 2席受賞作「スクリーン」はAmazon kindleにて発売中。 毎日更新のHPはこちら https://mondenseiko.net/

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