
【今日もえんぴつを片手に。】<第1回>校閲の世界は、思った以上に複雑で、答えのないものでした。
- 校閲
- 校閲者
「校閲」と聞いて、
あなたはどんなことを思い浮かべますか?
石原さとみが演じていたおしゃれで快活な女性を思い浮かべる人もいれば、松田龍平が演じた一日中辞書と向き合う変人を思い浮かべる人もいるかもしれません。
はたまた、薄暗い部屋で、一日中原稿と向き合う作業を想像するかもしれません。
万が一校閲者が屋外に出て取材をしているイメージが浮かんだ人がいたら、あなたは石原さとみのあのドラマの影響を強く受けているかもしれません。
私は、石原さとみや松田龍平らが演じたのはどちらも校閲者として正解で、薄暗い部屋も、明るい屋外も、校閲者がいる場所として正解だと思います。
申し遅れましたが、私は昨年4月に広島県の出版社に新卒で入社し、本日4月1日で社会人2年目を迎えた、校閲者の卵です。
丸1年間校閲という仕事に向き合って感じたことは、校閲という世界に答えはない、ということです。
たとえ同じ文章を読んだとしても、校閲者の数だけ指摘がある。
誰の目から見ても明らかな間違い、と思える表現があっても、そう感じているのは自分だけで、ほかの校閲者はその間違いを正解だと判断するかもしれません。
書いていてこんがらがるような、複雑な世界です。
正直、まだまだひよこにもなっていない私には、校閲という世界の一端に触れたに過ぎません。
このコラムの連載も、読んでくれたあなたに校閲の魅力を知ってほしい、伝えたいという目的に加えて、私自身が校閲という世界を知りたいという目的も持っています。
毎日文章に、言葉に向き合い自分なりに考えた校閲という世界の魅力を、言語化して、発信していくことで、きっと私はこの世界の輪郭がつかめると思うのです。
前置きが長くなりましたが、コラム初回は、私が校閲者を目指したきっかけについてお話ししたいと思います。
私は小説が好きです。言葉が好きです。何なら文字が好きです。
言葉はコミュニケーションの手段として欠かせない上に、使い方次第で相手を喜ばせることも傷つけることもできます。
たった一つの助詞の違いで、全く違う意味を持つ言葉の奥深さは、どれだけ突き詰めても飽きることはありません。
文字だって、その成り立ちを追いかけるとどこまでも歴史をさかのぼれます。
この文字はこういう経緯で生まれたのかと知ることで、目の前の文字の羅列が奥行きを持ち始めます。
私は物心がついた時には小説に囲まれて過ごしていました。私の母と祖母はかなりの読書家で、ありがたいことに実家にも祖母の家にも小説があふれるほどにあり、私が小説好きになることは必然だったように思います。
厨二病をアニメや漫画ではなく小説でこじらせた私は、中学3年間読書感想文を恩田陸さんの作品で書きました。
『三月は深き紅の淵を』をオマージュ(笑)して、4章立ての感想文を提出してくる生徒を、当時の担任はどう見ていたのでしょうか。
祖母宅にあるだけの本を読み、市の図書館にも通いつめ、読めるだけの作品を読む生活の中で、ふと、「私、この本を誰よりも最初に読みたい」という思いが芽生えました。
そのためには出版社に就職しなければならないだろうな、と何となく将来の自分の姿を想像していた私は、気づけば大学生になり、就職活動という壁にぶつかります。
就活を始めた私は、自分の無知に打ちのめされました。
これまで好きだから、という理由だけであこがれていた世界は、学歴に厳しく、新卒採用の枠はごくわずか。
就職支援センターの人に、「あなたは出版社に就職して何がやりたいのか?」と尋ねられても、具体的なビジョンが何も出てこないのです。
「私は出版社に入社して何がやりたいのか」
世の中にはもちろん小説だけでなく、実用書・漫画・雑誌など様々な出版物があり、業界研究を始めた私にはそのどれもが魅力的に思えました。
自分はこれまで小説という世界だけに囚われていたけれど、もっと広く出版物について知りたい。そう考え始めた私の目に留まったのが、校閲という仕事です。
校閲者という人たちは、「最初の読者」と呼ばれているらしい。編集者と著者が作り上げた原稿を、新たな目線で読み、誤脱字を見つけ、疑問を提示する仕事らしい。
私、校閲者になれば、すべての出版物を一番最初に読めるのではないか。
そんな魅力的な仕事がこの世にあるのか。
そう考えた私は、完全に興味本位で校閲の参考書を手に取りました。
そのテキストの楽しいことといったら! 原稿の誤字を見つけて赤ペンで書き入れ、表現がおかしいと感じるところに「? 」を付けて疑問を入れる。
元々、小説を読んでいる中で誤字を見つけたり、自分の好みでない表現を見つけたりすると、何となくそれが心に引っかかるタイプでした。
もしかしたら、これを職業にできる道があるのかもしれない。
私、社会人になってもずっとこれをやっていたい。そう感じました。
しかし、校閲の勉強を始めたからといって就職活動は何もうまくいかず、校閲部があるような大手の出版社は軒並みエントリーシートで落選。
とりあえず校閲ができなくても、出版社にだけは入らないと、という焦りでエントリーする会社の条件を広げに広げた結果、この新卒売り手市場と言われる現在に、エントリーした会社の数は70社を超えました。
今の会社で校閲担当として拾ってもらえたのは、本当に運がよかったと思っています。
当時選考では校閲者どころか制作担当さえも募集しておらず、私が受けたのは営業の選考でした。
「この会社は第一志望ではありません」と言ったあの時の失礼な選考学生は、なぜか今その会社で校閲を担当できています。
あの時直感で志した校閲の世界は、思った以上に複雑で、答えのないものでした。
そして、校閲という世界に、新たな出版物に触れる度に、あの時の自分の直感を誇らしく思います。
今回は私が校閲者を目指したきっかけについてお話ししました。
私が校閲という仕事に感じている魅力を、これから更新するコラムで、少しでも発信していければと思います。
そして、あなたが少しでも校閲という世界に興味を持ち、あなたの世界の端っこに、校閲という世界が少し入り込めればいいなと思います。
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