【広島のパイセンから学ぶ!#02】「真の強さ」とは何かを学ぶ!
- 広島のパイセン
- 本
- 横川
会社では、中堅ぐらいになり、後輩もそれなりに増えた現在37歳の僕が、人生の初心に帰り、先輩からなにか学べないかな、と思い立って、一回り以上年上の先輩に、話を聞きにいくコラム。
筋を持つには強くないと。
強いっていうのは正しく優しくできること。
社会人になって友人はできない、できにくいとずっと思っていました。なにかしら利害関係が発生してしまうし、大人の気遣いが逆に距離を縮めにくくなってしまうんじゃないかと。仕事関係なく知り合った場合の関係もなぜだか距離が縮まらないと何度か思うことがあったりもしてまして。
結局、責任感からか仕事での関係を優先してしまうと、会う回数が増えないからなかなか距離が縮まらないものなのか、と。
ボクは20代のときに仕事をしていて、いつもそういったもんもんとした思いを持っていたように思います。
ただ、ひょんなことから付き合いの始まった印刷会社のDさんは、僕よりも年上でしっかり者だと思っていたら、実は同級生で、実は誕生日が一日違いで、向こうもボクを年上だと思っていたという。
お互いがへりくだり合っていて、そこから仲良くさせていただいています。それから、お互いが男3人兄弟の次男ということもあり、「そこ気が付きますよねー」っていう部分も一緒で、楽というか、ずっと違う場所で戦ってきた戦友であった気分がしました。
そんなDさんの実家は、お母さんが下町の居酒屋をやってて、そこにもちょくちょく連れて行ってもらってました。で、彼のお父さんである先輩も、晩ごはんを食べるためか、ボクらが飲んでるとふらっと現れては挨拶をする感じでした。
ただ、そのオーラに毎回ビビッてました。なんという先輩感。高校1年の頃に感じてた3年生たち先輩との距離感に似ている。これぞ「ザ・先輩」だ。
ということで、Dさんに改めて紹介いただき、実家の居酒屋で一席。待ってる間も、落ち着きません……。
先輩がちょっとためを作るために、ゆっくり来てるのかな。
数分後、ふらっと現れた先輩は、Dさんからインタビューの説明を受けているからか、ちょっとはにかんで登場。
「なんにも話すことないけどなー(照)」と言いながら、カウンターに一言ビールを頼んで、席に着く。笑顔がDさんにそっくりですね。
挨拶や礼儀とか、そのほか大切な部分を子に伝えるのは、
学校でもないし、職場でもない。親だと思うんよね
――ご子息Dさんの話だと、堂面先輩は「鬼のように厳しかった」そうですが。
「自分らとしては、当たり前のことを伝えてきたつもりです。例えば、『人には挨拶をしろ』『親にしてもらうんじゃなく、自分のことは自分でしろ』とか、当然のことを小さい頃からやらせていましたね。家の手伝いもそうだし。できんでも、やらせないとできない。挨拶や礼儀とか、そのほか大切な部分を子に伝えるのは、学校でもないし、職場でもない。親だと思うんよね。そういう面で、自分らが教えてきたことは、絶対にマイナスではなかったと思う。子どもが苦労するのは、“意味のある苦労”でないと。社会に出て挨拶ができないことから怒られていく……そんなスタートじゃ、絶対にダメだと思う。世の中の荒波に乗って行けるための準備というか。それは学校の先生が教えてくれる部分もあるとは思うけれど、親が一番じゃないですか」
――息子さんたちからすると大変だった面もあるかもしれないですが、そういう基本を小さいときから叩き込んでくれる方がいるっていうのは貴重ですよね。
「それが僕らからすると『親の責任だ』と思う。『子に厳しくしなさい』とは言わないけれど、自分が『大事』だと思うことは絶対に子どもには言い続けていかないと。社会に出るまでは、事あるごとに、道理から外れそうなときは軌道修正してあげるのが大切だと思うんですよ。だけど、社会人になってからは、口出しはしません。
それは、自分なんかよりもっと厳しかった僕の親父もそうでした。だから自分は早く働いて自立したかった。手に職を付けたくて、高校を出たら就職しました。で、交際相手と付き合っていることを『まだ子どものくせに』とお義母さんから反対されて、僕はもう働いていたし、『じゃ、結婚するよ!』と結婚して、19の頃に長男が生まれました。『若い親じゃけぇ』と周りからも言われたくなかったし、子どもには必要以上にきちんと大事なことを伝えようという強い思いもあったし。将来、社会に出て行けるように、自分が『大事』だと思うことは徹底的に息子たちへ伝えてきたつもりですよ」
――僕がこのお店で堂面先輩に時々お会いして感じていたのは、そんな風にずっと筋が一本通っているイメージです。その確固たる芯のようなものができたのは、どういうきっかけで。幼少期や部活などの影響もあるんでしょうか?
「やっぱり『親になったから』っていうのが大きいですね。それまでも、ちゃんと当たり前ことは当たり前にやってましたよ、もちろん。ただ、僕が社会に出て行ったときに、例えば『挨拶する』『靴をそろえる』『自分のものを片付ける』とか、今まで当たり前だと思ってやっていたことが、周りには特異に見える。『おまえ、なんでそんなに几帳面なんや』とか。それは僕の親も、大事なことを当然のように教えてくれていたからでしょうね」
「強さ」というのは……礼儀であったり、先生や先輩を敬う気持ち
――ちなみに部活についてなんですが、堂面先輩は小学校でサッカー、中学では野球をされていたそうで。Dさんもサンフレユースや、社会人サッカーをするぐらいサッカーに打ち込んでおられたようなので、そのあたり受け継がれてますね。
「受け継がれるというか……『やりたい』と言うことは、兄弟三人ともやらせました。小学校で長男が『サッカーをやりたい』って言い出して、次男らも続いてサッカーを始めました。『やりたいなら、やれ。その代わり、やるって決めたことは、とことんやれよ』と。勉強もそうだけど、部活などを親からやらせたことは、あまりないですね。ただ、少林寺だけは、やらせました。見学に行って、練習風景や先生の教え方を見て、ここに入れたいなと思ったんです。」
――「礼儀正しさ」などが学べるからですか?
「それもあるし、自分らの波長に合ったんですね。決して、ケンカするために道場に入れたんじゃない。例えば、悪さをしている子がいて注意しようと思ったら、何もできないのに注意はできないじゃないですか。相手が向かってきたときに自分が受けられないと。『正しいことを正しいと言おう』と思ったら、言えるだけのものが自分にないと。僕自身も筋があるけど、子どもたちも自分たちの筋を作っていってほしいと思うし、正しいと思ったことは『正しい』と言えてほしい。もちろん、社会に出たらウソもありゃぁ、組織のしがらみもあって『本当はこうすべきだけど、それを曲げないといけない』ってことも当然あると思う。それでも『これが正しいんだ』っていう筋道はわかってないとダメって僕は思う。子どもや学生の頃において何が正しいかっていうのは、『いじめられてる子を見たら助けに行けること』であってほしいな、と思う。『あの子がいじめられてるけど自分に被害が及ばなければいい』、少なくともそういう子にはなってほしくなかった」
――そのためには最低限、“強さ”がいるってことですね。
「“強さ”っていうのは、ただ殴る蹴るだけの話じゃないと思う。礼儀であったり、先生や先輩を敬う気持ちであったりってことも含まれていて。一年先輩は、先輩。それは、他の部活に入っても、何においても一緒だと思うんですよ。そういう体制が、少林寺の道場はすごく良かった。『この人について行こう』『この人みたいになりたい』っていう憧れがあることが重要。うちの子は三人とも『あの人みたいになりたい』って、そういう先輩をいっぱい見てますよ」
――確かに! ご子息のDさんは地元の先輩・後輩のつながりが今も強くて、うらやましいです。
「そう、会社以外のいろんな先輩・後輩の付き合いがあるってことは、決してマイナスなことはないと思う。そういう上下関係や礼儀を重んじる厳しさの中で育ってきたら、ものすごく先輩を慕うし、ものすごく後輩をかわいがる。単に甘やかすんではなく、厳しさを持ってかわいがる。今の子たちは、ぜひそういう経験をしてほしいと思うんです。甘やかすことが悪いとは言わない。ただ、一歩社会に出たら、社会人になるわけだし、その子が自分で生きていくわけじゃないですか。一生親が子どもを見ていけるわけじゃなくて。だから、僕の場合はビシッと伝えた分、息子たちが社会に出たら、子育ては終わり。もう口は出しません。いつまでも親は親だから、ずっと見守ってはいるけど、こっちから呼びつけて、ああだ、こうだと意見は言わない。息子たちから何か報告や相談をされたら言いますけど」
――息子さんお三方も30代半ばに差し掛かって、今後どう進むか、楽しみですよね。
「今後、三人とも自分らで『正しいと思うこと』を決めていくわけじゃし、そこはもう親の範疇ではないから。
でも、自分らが『大事』だと思うことを子どもに伝えるために、『大事な部分はブレずに自分らもちゃんとやっている』、そういう背中は常に見せたいな、と思うね。」
――どっかに「いつかは自分を超えてくれよ」っていう想いはあるんですか?
「超え……させないと思う。」
――あははは! 超えさせないんですか?
「それは、何をもって超えたというかだから。例えば、ものすごく金持ちになったからといって偉いわけでもない」
――なるほど……それは、そうですね。
「そういう、金があるかということじゃなくて『自分の大事なことは、何なんか』ということを、ずーっとあの子らも大切にし続けていってほしい。僕らもずっと、いまだにそうだから。いろんなことがあって人生だから。分岐点っていっぱいあると思う。その都度の選択は本人らに任せているけど、『その選択が間違えではなかった』ということを、あの子らが僕らに対して見せてほしいね。いろいろあっても、軸だけはブレないように」
緊張と笑いの会話がいい具合に仕上がっていって、宴もたけなわ。
残ったビールを飲み干して、先輩に挨拶をして出る。
堂面先輩と奥さんが店の外に出てくれて、見送りをしていただきました。
いやー浴びました。先輩からの教えという名のちょっと強い風。けれど、これって向かっていけば前に進みにくい向かい風ですけど、風と同じ方向を向けば、しっかりと背中を押してくれてる追い風。
堂面先輩のそばで、なに言っているか分からないけど、先輩と話す奥さんにも優しい強さを感じる。
堂面先輩の強さは、周りを強くする風だなと。
■パイセンのこの1冊■
「三びきのこぶた」(イギリス童話 訳:瀬田貞二 画:山田三郎/福音館書店)
そんな堂面先輩にこのコラムで紹介するおすすめの本を再度聞いてみると、本は読んでおらん!とのこと。
気持ちの良いお返事! そこで、息子さんに家族での思い出の本とかってあります?って聞いてみると、「さんぴきのこぶた」とのこと。
堂面先輩に話を聞いたあの夜や、まっすぐな子育てを行ってきたあの頃を思い出すと同時に、さんぴきのこぶたを読んでいる堂面先輩を思い浮かべ、それを聞いている三人の息子さんが思い浮かぶ。
照れくさくていえなかった堂面先輩の包み込むような優しさの一面を、息子さんが教えてくれた絵本のタイトルから感じました。
写真/Y
※3月に更新
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