広島発の映画『彼女は夢で踊る』DVD&Blu-ray全国発売開始 ロングラン上映となった見どころ「8つのステージ」
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FLAG!webで、映画『彼女は夢で踊る』の取材をしてから早2年。
同作品は口コミで話題となり、順次全国の映画館でロングラン上映となった広島発の映画だ。
【インタビュー】広島㐧一劇場への想いが詰まった映画『彼女は夢で踊る』7・15公開 主演・加藤雅也「踊り子が脱ぐ姿にも、ちゃんと意味はある」
そんな映画『彼女は夢で踊る』Blu-ray・DVD版の発売を記念して、映画の企画当初から本作を見続けてきたライターの清水浩司さんに、8つの見どころを紹介してもらいました。
ステージ1:ストリップは美しい夢である
映画『彼女は夢で踊る』の魅力は、作品の中心に“ストリップ”というモチーフを据えたことである。
一般的には「いかがわしい」「いやらしい」といったイメージで捉えられがちなストリップであるが、実際はそうではない。
踊り子たちが自らの肉体を鍛え上げ、舞いを披露するという研ぎ澄まされた身体表現。
文字通り“裸一貫”のパフォーミングアーツ。
ストリップには女性ファンも数多くいるが、それはストリップというものが実はストイックな美の追求であることを彼女たちが知っているからだろう。
本作はその踊り子たちの演技を、美しいミュージックビデオを見るように堪能できる。
主演の岡村いずみは、英ロックバンド・レディオヘッドの「クリープ」で躍動し、ストリップ界のカリスマ・矢沢ようこは松山千春の名曲「恋」に乗せて切ない恋心を表現する。
まったく異なる2種類の舞いからもストリップの奥深さは伝わってくる。
男の夢と女の夢がステージで交錯して花開く一瞬を、本作でじっくりと味わってほしい。
ステージ2: 失われゆくストリップ文化を記録
ストリップは1970~80年代に隆盛期を迎えたが、バブル崩壊以降は人気が陰り、今や浅草ロック座や渋谷道頓堀劇場など数えるほどしか劇場は残っていない。
実際この映画のモデルとなった「広島㐧一劇場」も2021年5月の閉館により、中国地方からストリップの灯が消えてしまった。
本作はそうした時代と共に失われつつあるストリップ文化を後世に遺そうとする意志にあふれている。
劇場の上階に出演者が宿泊する部屋があり、踊り子は全国の劇場を転々としながら生活するという暮らしぶり。
踊り子の身体がよく見えるよう、劇場には“盆”と呼ばれる回転式舞台や鏡が設置されているというステージの仕組み。
踊り子の舞台を演出する照明係、音響係といった裏方の存在。年季の入ったファンによる、ショーを盛り上げるための“リボン芸”。
警察との丁々発止のやりとり……本作は綿密な取材に基づきストリップの舞台裏まで正確に記録した。
昭和~平成を彩った風俗資料としても貴重な内容だと言えるだろう。
ステージ3:大人のせつないラブ・ファンタジー
『彼女は夢で踊る』はストリップという華やかな世界を舞台にしながら、実はピュアなラブストーリーである。
主人公は閉館が間近に迫った老舗ストリップ劇場の社長・木下(加藤雅也)。
木下は閉館公演のためにやって来たメロディ(岡村いずみ)という踊り子を見て、かつての恋を思い出す。
初めてストリップに出会った時の感動、劇場でのにぎやかな日々、踊り子・サラへの一途な想い……すでに人生の黄昏期にさしかかった木下は、ストリップと歩んできた自らの過去を振り返ると共に、いまだ消えずに残る恋の幻に向き合うことになる――。
本作は老境に立つ木下の現在とみずみずしい青春期、2つの時代を行き来する形で描かれる。
脚本も手掛けた時川英之監督は映画的なトリックで観客を「あっ!」と言わせながらも、ノスタルジックでファンタジックな恋物語を作り上げた。
そのキーワードは本作の題名にもなった『彼女は夢で踊る』――映画を観終えた後、誰もがこの言葉の裏に隠された真の意味にうならされるだろう。
ステージ4:ベテラン、新鋭、本物の踊り子……多彩なキャスト
『彼女は夢で踊る』には日本を代表する名優から期待の新鋭、現役の踊り子たち、撮影舞台となった広島のクセ者たち……など多彩なキャストが集まった。
主演は日本のみならず海外にも活躍の場を広げている加藤雅也。
今回はこれまでとは一味違う場末の枯れたキャラクターを哀愁たっぷりに表現した。
ヒロインは『ジムノペディに乱れる』(2016)で第59回ブルーリボン賞新人賞を受賞した岡村いずみ。
初挑戦となる踊り子役を身体を張った演技で演じきった。
さらに『仮面ライダービルド』(2017~8)で脚光を浴びた犬飼貴丈は作品に新鮮な風を吹かし、カリスマ・ストリッパーとして知られる矢沢ようこは踊り子たちの光と影を深い説得力で体現した。
一方、地元広島からも豪華な出演陣が駆けつけた。
本作の企画者であり、自らも『浮気なストリッパー』(2015)などを監督した横山雄二。
本業は中国放送のアナウンサーであり、“天才・横山”として絶大な人気を誇る彼がスクリーンに爪痕を残す。
その他、松本裕見子、さいねい龍二、末武 太、HIPPY、高尾六平……など広島では顔の知れた面々が大挙出演。
多種多様な個性による演技のアンサンブルは本作でしか見られない貴重なものである。
ステージ5:加藤雅也×時川英之×横山雄二――映画人の絆
本作のなりたちにはひとつのエピソードがある。
2016年12月、加藤雅也が広島を訪れた時、地元タウン誌で横山雄二、時川英之と対談する企画が持ち上がった。
横山と時川は以前から「東京でだけ映画が作られるのはおかしい。地方発信でも映画は作れるはず!」と『ラジオの恋』(2014)などでタッグを組んでいた仲。
出会った3人はすぐに意気投合し、加藤も2人の活動に賛同する。
そんな中で横山の口から出たのが、中国地方唯一のストリップ劇場である広島㐧一劇場が閉館になるという話だった。
その話題に興味を持った加藤は「映画にして残せたらいいね」と返すが、あくまでそれは取材後の酒の席での話。
しかしその後、時川はすぐに脚本執筆にとりかかり、横山も資金集めなどに奔走する。
その結果、なんと本作がクランクインしたのは2017年3月中旬。
映画人たちの熱意により、初対面からわずか3ヶ月で映画制作に突入するという映画よりドラマチックな奇跡が実現したのである。
ステージ6:夜も朝も街も海も――広島の風景に見とれる
映画『彼女は夢で踊る』はすべて広島で撮影されている。
本作は広島という街の美しさを余すことなく映像に収めているが、それは時川監督が地元在住で街のロケーションを知り尽くす一方、東京や海外での生活経験もあり、異邦人としての視点も持ち合せているせいもあるだろう。
まずは本作の主人公といっていい広島㐧一劇場を中心とした、夜の広島。流川、薬研堀といった雑多な歓楽街をキャメラは縫うように闊歩する。
さらに味わい深い下町の横川エリア、広島の象徴ともいえる川のある風景、お好み焼きをヘラで食べる日常……。
そして映画のクライマックスでは、朝日がのぼる瀬戸内海がスクリーンいっぱいに映される。
近年『孤狼の血』(2018)、『ドライブ・マイ・カー』(2021)など話題作のロケ地として脚光を浴びる広島だが、本作ではそうした作品とはまた違うディープな広島が楽しめる。
映画パンフレットにはロケ地マップも付いているので、それを参考に街を散策してみるのも夢の跡を追うデイトリップとして最適かもしれない。
ステージ7:舞台は実在の「広島㐧一劇場」、モデルとなった館主
本作の製作は広島㐧一劇場の閉館にあたり、この建物の記憶とストリップにまつわる思い出を遺しておきたいというところからスタートした。
広島㐧一劇場は1975年に営業を開始。
経営悪化と施設の老朽化からこれまで何度か閉館を宣言したが、そのたびに全国のファンの声によって宣言を撤回、「閉館詐欺」と揶揄されながら営業を続けたところも、そのたくましい生命力を象徴する存在である。
劇中には劇場の内観・外観がふんだんに登場するが、レトロな壁面アートやネオンサイン、生活感にあふれた踊り子たちの部屋、多くの観客たちを迎え入れた客席……など見どころは多い。
中でもステージに出ていく踊り子たちがショーの成功を祈って付けたキスマークが一面を覆う壁面は観る者に忘れがたい印象を残す。
また加藤雅也演じる主人公・木下信太郎も広島㐧一劇場の実際の館主・福尾禎隆をモデルにしたものである。
加藤は福尾を徹底的に研究し、シャイでぶっきらぼうでありながら、実は誰よりも踊り子とストリップに愛情を注ぐ男の姿を創り上げたのだった。
ステージ8:物語の本当の終わり――広島㐧一劇場閉館ドキュメンタリー
閉館詐欺と後ろ指をさされながら幾度の危機を乗り越えてきた広島㐧一劇場が2021年5月20日、本当に閉館する――本作のBlu-ray・DVDの初回特別版には、その模様を収めた『本当のラストダンス~広島㐧一劇場の閉館ドキュメンタリー~』が収録されている。
キャメラを回すのは映画本編と同じく時川英之。
閉館の日に向けてカウントダウンが進む中、社長・福尾の心の葛藤に密着し、その合間に踊り子や劇場の常連客、従業員たちのコメントを挟んでいく。
迎えた最終日、大雨という悪天候にもかかわらず劇場の前には長蛇の列ができ、オーラスを担当するのは映画にも出演した矢沢ようこ。
演目は劇中と同じ松山千春の「恋」で、さらに最後のアナウンスを映画の企画者である横山雄二が務める――。
まさにフィクションとノンフィクションが渾然一体となったラストダンス。
映画館で本編を観たという人も、この併録されたドキュメンタリーを観ることで改めてストリップが魅せてくれた夢と広島㐧一劇場の思い出を深く胸に刻むことができるだろう。
文/清水浩司
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