コラム 2023/02/02

薬局の数だけルールがある 新人薬剤師がぶつかる最初の壁【書籍『薬剤師に求められる大切なこと 入門編』より#02】

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これまで個人経営の薬局、中規模薬局、大規模薬局と数々の薬局での勤務経験がある現役の薬剤師、宮本誠二さんが明かす新人薬剤師がぶつかる最初の大きな壁とは? 「薬剤師として働くためのマニュアル」を綴った著書『薬剤師に求められる大切なこと』より、一部抜粋してお届けします。(全3回の2回目)

郷に入っては郷に従え まずはその薬局のやり方を覚えよう

新人薬剤師が犯しがちなミスに、どうしても自分が大学で習ったやり方をそのまま仕事に適用しようとしてしまうことがあります。自分の学んだやり方が唯一無二の正解だ
と思い込んでしまうのです。

新人に必要なのは「まずはその薬局のやり方を知って――分からないことがあれば尋ねて、メモをして、覚えて――それがつつがなく実行できるようになること」です。

学生時代は「薬局の仕事なんてどこも同じだろう」「どの薬局でも教えられたとおりにやっていればそれでいいんだろう」と思いがちです。

しかし、実際の社会では薬局の数だけルールがあります。確かに薬剤師としてやるべき仕事は同じかもしれませんが、そのやり方に対しては臨機応変に変えていくことを心
掛けた方がいいでしょう。

その際に必要なのは「郷に入っては郷に従え」という意識です。

たとえば実務実習で習ってきたことと配属先の薬局で、機械の操作法、全体のシステム、薬の配置、窓口の対応法……など異なることがあったとします。

そんな時、「実務実習先ではこのようにやっていました。どうしてこういうふうにやらないんですか?」または「自分が習ってきたやり方でやらせてください」と伝えたら、そ
こで勤務している人たちはどう思うでしょう? 自分たちがこれまでやってきたやり方を否定されたような感覚になるかもしれません。

しかもあなたは新人です。

「まだ仕事のことを何も知らないくせに……」と、余計な反感を買ってしまうこともあるでしょう。

やはり、ここで大事なのは「郷に入っては郷に従え」の姿勢です。

ひとまずは自分が習ってきたこと、こうした方がいいんじゃないかという意見は飲み込んで、まっさらな気持ちで勤務先のやり方に従いましょう。

「実習先で習ったこととやり方が違うな」と思う部分は、業務のあちこちで発生するものです。

たとえば薬のピッキングに関しても、最初からやっていい薬局もあれば、「集めていいよ」という許可が出ないとやってはいけないところがあります。処方箋の監査にしても
「入社3ヶ月後から」と定められているところもあれば、勤務初日から任せてもらえるところもあります。

薬局によって最もやり方が異なるのは、薬の発注方法でしょう。

• 1日に処方した薬を集計して、欠けたものをすべて確認して、必要なものをその都度補充するやり方
• それぞれの薬に「この数を切ったら発注をかける」という数字が決められていて、それに沿って発注していくやり方(定点発注方式)
•月の初めに1ヶ月分まとめて発注するやり方(週の初めの場合もあり)……

これもどれが正解というわけではないですが、各薬局がそれぞれに合ったやり方を採用しているというのが実情です。

こうしたシステムに加え、月末は発注数を減らしたり、決算時期は在庫金額を減らすために発注を抑えるなど、各薬局でその時期その時期の〝暗黙の了解〞が確立されているものです。

さらに薬局ごとに違うのが、薬の配置の仕方です。

処方箋に書かれた薬を棚からピックアップして、患者さんに調剤するというのが薬剤師の基本的な仕事です。そのためには探している薬が棚のどこにあるか、まずはそれを
正確に覚えなければなりません。

その薬の並べ方に関しても、あいうえお順のところもあれば、薬効順に並べられているところ、先発品とジェネリック薬品を分けているところ……とさまざまです。

これについても「実習で行った薬局と違う……」と思っても、それに対応するしかありません。各薬局は各薬局なりの考えで、より効率がよく、間違いを起こさないための
やり方を採用しているのです。

なので新人薬剤師のみなさんは最初に勤務先の薬の配置を頭に叩き込みましょう。

「数が多くて大変だ……」と思う人もいるかもしれませんが、毎日棚に真剣に向き合っていれば身体が自然に覚えるものです。

それに加えて、自分にノルマを設けて積極的に覚えていく姿勢も大切です。1日2列の薬の配置を覚えていくと決めたら、20日で40列を覚えられます。

勤務先の薬の配置が手にとるように分かるようになること――それは「郷に入っては郷に従え」という薬剤師の心得を最も端的に象徴する作業かもしれません。

もちろん「郷に入っては郷に従え」と言いましたが、いつまでもすべてを我慢しなければならないというわけではありません。

勤務先のやり方でやってみたけど、それでもやっぱり実習先のやり方の方がいいと感じる時は、上司に相談を持ち掛けてみるのもいいでしょう。

ただし、その際はあくまでも〝提案〞という形をとるのが賢明です。従来のやり方を頭ごなしに否定するのではなく、冷静に、論理立てて、前向きな話になるよう心掛けま
しょう。

愚痴や文句を吐き出すのではなく、「こうすればもっと効率が上がると思います。いかがでしょうか」という代替案を用意しておくのも忘れてはなりません。

茶道や武道の世界で〝守破離(しゅはり)〞という言葉があるのをご存じでしょうか?

ひとつの道を究めるには、まずは先人からの教えや型を〝守り〞、次に既存の型を〝破って〞他のやり方を学び、最終的には型から〝離れた〞自分なりの道を見つける――とい
う教えです。

ここでも言っているように、やはりまず大事なのは〝守〞なのです。

先人の教えや型に素直に従い、それを吸収すること。「郷に入っては郷に従え」というのは、つまり「常に謙虚な気持ちを持ち続けなさい」ということに他なりません。

自分はまだ何も知らない新人だから学ぶことだらけだ――そんなふうに謙虚な気持ちを忘れなければ、あなたの薬剤師としての滑り出しはうまく進んでいくでしょう。

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【著者プロフィール】
宮本誠二(みやもと・せいじ)
大阪薬科大学卒業。株式会社MSファーマシーを設立。代表取締役に就任。
<取得資格>
薬日本堂、漢方認定アドバイザー・漢方養生指導士
上海中医薬大学付属日本校入校、国際中医師取得
第1回薬剤師生涯学習達成度試験合格
JPALSレベル6
薬剤師研修センター認定薬剤師、JPALS認定薬剤師
認定実務実習指導薬剤師
大塚製薬、OHTHAS女性のための健康アドバイザー等
健康サポート薬局研修済み
専門分野別学識試験 腎臓病薬物療法 合格
専門分野別学識試験 緩和医療薬学 合格

『薬剤師に求められる大切なこと【入門編】』

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堀友良平

堀友良平[株式会社ザメディアジョンプレス 企画出版編集・FLAG!web編集長]

東京都出身。学研⇒ザメディアジョンプレス。企画出版、SNS、冊子などの編集担当。書籍「古民家カフェ&レストラン広島」などのグルメ観光系や、「川栄李奈、酒都・西条へ」などのエンタメ系なども制作。学研BOMB編集部時にグラビアの深さを知りカメラに夢中

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