店から皮肉も言われる……私の存在意義って。確保ゼロの日の万引きGメンの本音――万引きGメンの憂鬱 #03【書籍『万引きGメンの憂鬱』より】
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やりきれないことの多い万引きGメンですが、もうひとつ憂鬱の対象になってしまうのがお店に対してです。
お店はGメンが万引き犯から守らなければならないクライアント。
どうして守るべき対象に憂鬱にさせられるのか不思議に思う人もいるでしょうが、そんなに簡単に事が運ばないのが現実社会というものです。
ここでは万引きGメンたちの憂鬱エピソードを紹介し、万引きの根深い闇を浮き彫りにします。
確保がなければ私は不必要な存在?
通常、警備会社はスーパーやドラッグストア、ディスカウントストアといった店舗と月に何回、何時から何時までという契約で保安員の派遣を約束します。
Gメンは決められた時間帯にその店に出向き、店内に万引き犯がいないか目を光らせることになります。
その結果として万引き犯の確保がなかった場合……これは指定の時間に店に万引き犯がいなかった、万引きが行われなかったことになり、本来であれば喜ばしいことのはずです。
しかし、万引き犯の確保を仕事にしているGメンにとっては、犯人の検挙がないことで
「自分は仕事をしていないのでは?」「自分ははたして役に立っているのか?」
と不安な気持ちにさせられてしまうのです。
それは彼らを雇っている店側も同じです。店に万引き犯がいないのはいいことなのですが、
「だとしたら結局何もしていないGメンに高い保安費用を払う必要があるのか?」「万引き犯がいないのなら万引きGメンを雇う必要なんてないんじゃないか?」
という気持ちが湧いてきます。
つまり万引き犯の確保がないことにより、万引きGメンの必要性や存在意義が問われるという事態が引き起こされるのです。
それによりGメン側も店側も
「私はここにいる意味があるのかな?」「万引きGメンを雇ってる意味があるのかな?」
と疑心暗鬼な気持ちに陥ってしまうことになります。
一方でGメンの導入によって犯人が検挙された場合――これはGメンを雇った甲斐があったということですし、Gメンもプロとしての面目躍如、お店側も支払った代金の元が取れたということで双方万々歳ということになりがちです。
しかし裏を返せば、それはその店が万引きの巣窟になっているということ。
はたして手放しで喜んでいいのか疑問は残ります。
こうした事態はお店の責任者の性格や考え方に大きく左右されます。
たとえば店長がGメンに対して好意的な気持ちを抱いていない場合、ボウズの日が続くと彼らはGメンにイヤミのひとつでも言ってきます。
あからさまに店での風当たりが強くなり、Gメンは居心地の悪い思いをしなければなりません。
まったく、どうして平和であることでイヤミを言われなければいけないのか。
そして肩身の狭い想いをしなければならないのか……。
当たり前のことですが、万引きGメンは営業職とは違います。
いくら頑張ったところで自力で検挙数を増やすことなどできません。
「週に〇人検挙目標。月に〇人検挙必達!」といったようにノルマを課すことなど不可能ですし、仮に〝獲物ゼロ〞の居心地の悪さに負けて少しでも検挙数を増やそうと欲をかくと、不確かなまま容疑者に声を掛けてしまって誤認逮捕を招きかねません。
やはりどんな状況であってもGメンの基本は安全第一、疑わしきは声を掛けず。そこに確実な万引きが発生すれば捕まえるものの、いなければいないで潔く立ち去ることができなければ仕事は成り立ちません。
こうした事情をしっかり理解してくれる店長に当たると、Gメンは安心して仕事に取り組むことができます。
あるGメンは店側と話していて、店長が「(万引き確保が) ないならない方がいいんだよ」と言ってくれたことでホッとして、思わず「こっちとしてはあった方が助かるんですけどね」と本音を漏らしてしまったといいます(笑)。
すべての店長がこういう人なら問題はありません。
実際万引きGメンの中には一番の仕事のやりがいを
「店長さんに『ありがとう』と言ってもらえること」
と発言する人が数多くいます。
逆に検挙ゼロの日が続き、彼らにうとまれるようだと
「私はこの仕事に向いていないのでは?」「もうこの仕事も潮時では?」
と自分に自信をなくしてしまうといいます。
Gメンにとって店長の反応はそれほど大きな関心事なのです。
ただ、日々周辺店との激しい競争にさらされ、営業ノルマに追われている店長にとっては少しでも経費を削りたいもの。
獲物ゼロでも平然としている(ように見える)Gメンを見ると腹立たしく感じる人もいるのでしょう。
しかし、実際のGメンの内心はそんなに穏やかなものではありません。
何も起こらなかった平和な一日の終わりに
「はたして自分がここにいる意味はあるのか?」「何もしてないけど、これでお金をもらっていいのか?」
と考えさせられてしまうGメンは、存在自体が憂鬱と切り離せないものかもしれません。
【著者プロフィール】
ひなやすみ・みのる/広島市に生まれる。セキュリティコンサルタント、ロス対策士。1984年、株式会社NICCOの前身日弘商事有限会社を設立。店舗清掃やビルメンテナンス事業を行っていたが、施設警備や保安業務に進出したことを機に万引き犯罪に対峙。そこから店舗の防犯対策やロス対策の研究を進め、独自の防犯システムである「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)※」を完成させる。現在、株式会社NICCO取締役会長を務める。
※「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)」は株式会社NICCOの登録商標。
万引きGメンの憂鬱
堀友良平[株式会社ザメディアジョンプレス 企画出版編集・FLAG!web編集長]
東京都出身。学研⇒ザメディアジョンプレス。企画出版、SNS、冊子などの編集担当。書籍「古民家カフェ&レストラン広島」などのグルメ観光系や、「川栄李奈、酒都・西条へ」などのエンタメ系なども制作。学研BOMB編集部時にグラビアの深さを知りカメラに夢中
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