時短よりも楽しさ 食事の楽しさを見直す
- おしゃ弁
- お弁当
- アート弁当
- オブアート
- キャラ弁
- 前衛弁当
- 広島
- 旦那弁当
- 東広島

6月1日付の「日経MJ」に、「新型コロナウイルスの感染拡大を機に、食事を自炊でまかなう家庭が増えた」とあった。どんな食材を購入し、どんな食材・メニューを食卓に並べたかをモニター調査して分析する「食MAP」サービスを手掛ける大日本印刷(DNP)傘下のライフマーケティングによれば、自宅で「内食」する比率が2月中旬から上昇しているという。中でも「時短よりも楽しさ」を重視する傾向にあり、食事への意識が変わりつつある。
在宅勤務する人が増え、朝食・昼食・夕食と3食を家族で食べる機会が増えたこともあり、いわゆる「お弁当」を作る機会が減ったことも事実だが、「時短よりも楽しさ」に似た思いで、夫に弁当を作り続けている人がいる。その弁当はCMに使用、雑誌に掲載されたり、ついには個展が開かれるなど注目を集めている。
思いついたらワクワクが止まらない

松浦美喜さんはインタビュー中にご自身の言葉遣いを気にするなど丁寧な人でした
SNS共有サイト「インスタグラム」で「nancy」と名乗る松浦美喜さんは、「どうせ作るなら、楽しく作りたい」との思いで前衛的な弁当を作り、インスタグラムに投稿し続けたところ、あっという間にフォロワーが1万を超え。ウッドワン美術館が注目したことで写真パネル展にまで至った。

インバウンド雑誌「KYOTO JOURNAL」で紹介された「枯山水弁当」
弁当作家への道は、息子さんが社会人となり、いろいろと手が離れたときに知人からインスタグラムを教えてもらい、なんとなく始めた約3年前からだ。「最初は、かっこいい投稿を目指していたんです」と、当初は有名なインスタグラムのインフルエンサーを参考に、松浦さん自身の日常を投稿していたという。
しかし、どうしても続かなくなる。
そんなときに、憧れだったインフルエンサーに会い、どうやって撮影しているかを目の当たりにしたとき、「私じゃとうていできない」と思ったという。と、同時に「身の丈に合った、自分で楽しめることをしなきゃ」と考えついたのが、オットさん(夫のこと)に作る弁当だった。
それからは、自分が好きなキャラクターや絵画などを弁当で表現することに。「オットが喜んでくれるかなと思って! リアクションが薄いときもありますけど(笑)。弁当を毎日作るって大変なことなんです。でも、それを楽しむ方向にシフトしたら、大変どころか模写するもののハードルがあがっていって、自分で自分の首を絞めてます(笑)。でも楽しいので」と、1週間で3つの弁当を作り続け、今までに投稿した弁当写真は約500点を超える。

展示会で使用されているパネル写真
当然だが、細かい作業となるため、弁当作りにかける時間は長いときもある。しかし「思いついたら楽しくて、ワクワクが止まらない興奮状態になる」ようで、前日就寝する前に下ごしらえをしておいて、朝一番に一気に作るというエネルギッシュさ。もともと、広告デザイナーとして働いていたため、何かを生み出す、創造することに楽しさを知っているからこそ、「作る!」となったときのこだわりも強い。「能面弁当」には、その迫力にオットがたじろいだという。

バレンタインデーに作った「能面弁当」。オットへのサプライズは成功
渾身の作は、洋画家・岸田劉生の名作「麗子微笑」(1921年)を模した弁当だ。山口県の美術館で岸田劉生展を開催するにあたり、その弁当をCMで使用したいというオファーがあった。作家ムンクの絵画「叫び」を模倣した弁当は「ムンクのシャケび」、高倉健さんの弁当ではシャケが崩壊してしまいながらも「不器用ですから」とコメントを表現したりと、クスッとできる茶目っ気たっぷりの弁当は見ていて楽しい。

細かいディティールが再現されている「麗子弁当」

松浦さんのサービス精神が詰まった「不器用ですから弁当」
今年楽しみにしていた2月公開予定だった映画「ファンシー」が、コロナ禍の影響を受けて上映が延期したことになり、絶対上映してほしいという祈願と愛情をこめて、出演者の顔を弁当にして投稿したところ、なんと監督からメッセージがきたという。nancyさんの投稿の魅力は、写真のほかにも文章にある。そこから彼女の気さくなキャラクターが垣間見えて、親近感を感じることができるので、思わずファンになってしまうのだろう。
映画「ファンシー」廣田正興監督のフェイスブックに掲載された
投稿している弁当は、もちろんすべて食べられる。「毎日食べるものですから、栄養バランスは気にしています。日によってはサブ弁当も付けて、オットの体調を気遣っています」。楽しいことも大事だが、しっかりと夫への「愛情」がたっぷりと注がれている。
毎回の投稿の文末に添えれている「今日も元気に行ってらっしゃい。」という言葉が、とても愛おしい。
■松浦さん おすすめの本■
フリーランスで広告デザイナーをしている松浦さん。「フリーランスや中小企業の働き方の見本になると思います。処世術や仕事の運び方、心構えをおもしろおかしく書いているけど、実は大真面目な本。読み終えたときには、きっとご自身の今の仕事に結び付くヒントが得られると思います。仕事で悩んでいる方や、自分を見失っている方に、ぜひおすすめした本です。読みやすくてためになる、そんな1冊です」。
■nancyさんイベント情報■
「広島エディオン 蔦屋家電」
▶トークイベント「nancy前衛弁当を語る」【予約優先】
前衛弁当作家nancy こと松浦美喜さんによるトークイベント。
オブラートに食用の炭パウダーや食紅を使い絵を描いてご飯や食材に貼る、オブラートアートの実演も!
7 月12 日(日) ①13:00 ~ ②15:00~
場 所:3 階 イベントスペース
参加費:無料
※展示7月11日(土)~7月20日(月)
「ウッドワン美術館」
▶お弁当インスタグラマーnancyさんの前衛弁当展
3月14日(土)~9月13日(日)
休館日:月曜日(ただし5/4は開館)
■PROFILE■
nancy(ナンシー)さん
広島県江田島市出身。広告デザイナー。息子や夫のために弁当を作り続けて25年。2019年、「人生に勝つ!サンド」弁当で「輝け!くいしん坊映え大賞」の最優秀賞を受賞。インスタグラムのフォロワーは1万人を超える。本名は松浦美喜さん

堀友良平[株式会社ザメディアジョンプレス 企画出版編集・FLAG!web編集長]
東京都出身。学研⇒ザメディアジョンプレス。企画出版、SNS、冊子などの編集担当。書籍「古民家カフェ&レストラン広島」などのグルメ観光系や、「川栄李奈、酒都・西条へ」などのエンタメ系なども制作。学研BOMB編集部時にグラビアの深さを知りカメラに夢中
堀友良平の記事一覧関連記事
-
ライフスタイル
尾道にあるワンピース専門店「古着屋 ミミズク」の店主が推す一冊『ミミズクと夜の王』【人生の節目節目で読み返していきたい】
『ミミズクと夜の王』(作:紅玉いづき/発刊:メディアワークス) 自分のことを「ミミズク」と名乗る死にたがりやの女の子と、人間嫌いの夜の王のファンタジー。 ……
2021.01.20
-
ライフスタイル
横川にあるカフェ「CAFÉIZM(カフェイズム)」の店主が推す一冊『いつか伝えられるなら』【大切な人をもっと大切にしたいと思える】
『いつか伝えられるなら』(絵:鉄拳 作:つたえたい、心の手紙/発刊:SB Create) 「ただの検査入院じゃけえ」。そう言って病院に向かった父がほどなく……
2021.01.20
-
ライフスタイル
店名は小説のタイトルをオマージュ! 自分だけの一枚が見つかるヴィンテージワンピース500着のクローゼット【古着屋 ミミズク/尾道市三軒家町】
ワンピースは、いつだって女性にとって特別な一枚だ。 初めてのデートの日、大切な人のお祝いの席、ちょっと背伸びしたレストランに行くとき。 「きちんとした人だな……
2021.01.09
-
ライフスタイル
【2020年のうちに読んでほしい一冊】カリスマ編集長『VOGUE』アナ・ウィンターのドキュメント本『Front Row アナ・ウィンター ファッション界に君臨する女王の記録』
『Front Row アナ・ウィンター ファッション界に君臨する女王の記録』は、ファッション雑誌『VOGUE(ヴォーグ)』のアメリカ版編集長を務めるAnna W……
2020.12.21