世界はもう一度ビートルズの感動に再会する 映画『イエスタデイ』
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偉大なロックバンド「ビートルズ」
世界中のみんなが忘れていたら?
思いがけず、歌手としての夢を叶えたかのように思えたジャックだが、そうそう理想像にはたどり着かない。エドは「ヘイ、デュード(相棒)にしなよ」と曲タイトルの改変を勧め、マネージャー・デボラ(ケイト・マッキノン)は、ルックスや発言など楽曲以外のアイデンティティをけなし、マーケティング戦略メンバーは従来のアルバムジャケットを全否定する。
本来のビートルズとの乖離を実感し、自分自身が彼らとはかけ離れた存在であることを思い知るのだった。ほかの人が作った曲で夢を叶えたって、それは所詮ほかの人の夢でしかない。そういった葛藤や戸惑いを重ねていくうちに、自分自身が本当になすべきことがなんなのかわかる。そんなジャックの心情の変化や、人生のシーンに絶妙にマッチしたビートルズの楽曲がセンスよく効いている。
世界は感動に再会する
たっぷりのライブシーン
物語は、ジャックの演奏を聴いたエド(エド・シーラン)から、ライブの前座のオファーを受けたことを皮切りに大きく動き出していく。なんと、ジャックがつとめた前座は大盛況! 観衆の感動は瞬く間にSNSで拡散された。それからトントン拍子で事務所が決まり、アルバム化に向けて始動していく。
この映画の醍醐味は、当時、全世界がはじめてビートルズを聴き、心を奪われ、熱狂した、あの高揚感を追体験できるところにあるんじゃないだろうか。もし、今の時代に、ビートルズが存在していれば、こんな風に有名になっていったんじゃないかと、つい心に思い浮かべてしまう。
さらに、監督の強いこだわりから口パクではなく全て実際に演奏しているため、映画の中の観衆のように、私たちもビートルズの楽曲に再熱するライブシーンになっている。
葛藤や戸惑いの中で気づいた
自分だけが成し遂げられること
思いがけず、歌手としての夢を叶えたかのように思えたジャックだが、そうそう理想像にはたどり着かない。エドは「ヘイ、デュード(相棒)にしなよ」と曲タイトルの改変を勧め、マネージャー・デボラ(ケイト・マッキノン)は、ルックスや発言など楽曲以外のアイデンティティをけなし、マーケティング戦略メンバーは従来のアルバムジャケットを全否定する。
本来のビートルズとの乖離を実感し、自分自身が彼らとはかけ離れた存在であることを思い知るのだった。ほかの人が作った曲で夢を叶えたって、それは所詮ほかの人の夢でしかない。そういった葛藤や戸惑いを重ねていくうちに、自分自身が本当になすべきことがなんなのかわかる。そんなジャックの心情の変化や、人生のシーンに絶妙にマッチしたビートルズの楽曲がセンスよく効いている。
さまざまなシーンに散りばめられた
ビートルズへのリスペクト
本作は、ビートルズファンには胸が熱くなる演出や、製作陣のリスペクトが感じられるシーンが多くある。例えば、ジャックの初めての単独ライブは閉館したピア・ホテルでのルーフトップ・コンサートなのだ。ビートルズの歴史をなぞるような演出に、脚本家のビートルズ愛が強く感じられる。さらに、友人にビートルズの「Yesterday」と自曲を比較されたときには、「一緒にするな! 偉大な芸術だぞ」と伝え、家族に「Let It be」の演奏を邪魔されたときには「ダヴィンチがモナリザを書くところだぞ!」と本気で怒る。その姿は、製作陣がジャックを通し、ビートルズに多大なるリスペクトの精神があることを伝えているようだった。
だからこそ、ジャックは一筋縄ではいかないのが、本作の見どころだと思う。ビートルズが起こした奇跡は、あの時代、あの場所、あのメンバーだったからこそ起こすことができたのだと物語っているように感じられたのだ。
それらの奇跡とは別に、ジャックは物語の終盤、世界で唯一自分だけが知る奇跡に出会うことになる。この奇跡は、このレビューを読んでいるあなたにもぜひ出会ってほしい。
映画『イエスタデイ』は、サロンシネマほか、全国でロードショー。
<サロンシネマ 上映スケジュール>
https://johakyu.co.jp/schedule/month.html
<『イエスタデイ』公式HP>
https://yesterdaymovie.jp/
文/芝紗也加
【STORY】
売れないシンガーソングライターのジャックが音楽で有名になるという夢をあきらめた日、12秒間、世界規模で謎の大停電が発生─。
真っ暗闇の中、交通事故に遭ったジャックが、昏睡状態から目を覚ますと…あのビートルズが世の中に存在していない! 世界中で彼らを知っているのはジャックひとりだけ!?
ジャックがビートルズの曲を歌うとライブは大盛況、SNSで大反響、マスコミも大注目! すると、その曲に魅了された超人気ミュージシャン、エド・シーランが突然やって来て、彼のツアーのオープニングアクトを任されることに。エドも嫉妬するほどのパフォーマンスを披露すると、ついにメジャーデビューのオファーが舞い込んでくる。思いがけず夢を叶えたかに見えたジャックだったが─。
<監督>
ダニー・ボイル
<脚本>
リチャード・カーティス
<出演>
ヒメーシュ・パテル リリー・ジェームズ エド・シーラン ケイト・マッキノン ジェームズ・コーデン
【配給】
東宝東和