ライフスタイル 2020/09/08

【マハ本店/横川】本好きが集まるコミュニケーションの場に 店主のセンスとこだわりが光るファン待望の古本屋

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横川に新しく古本屋がオープンしたとの情報。しかも広島の古本業界では知る人ぞ知る、ファン待望の店舗だというのだ。横川をホームグラウンドとする本が大好きなFLAG!編集部、じっとしていられるわけもなく早速訪ねてきました!

一冊から始まるコミュニケーション

住所を頼りにたどり着いた場所は、JR横川駅から北へ5分ほど歩いた三篠小学校北門のすぐそば。立て看板に気づかなければ通り過ぎてしまいそうな、というか一度通り過ぎてしまったほど一見小さな店構えだ。

店頭に100円均一のワゴンを設置。ショーウインドウには目を引く写真集が並べられている

女性が描かれた入り口のポスターには『アート・サブカルの小さな古本屋 マハ本店』の文字。個性的な店名にワクワクしながら中に入ると、想像したよりも奥行きのある空間が広がっていた。
両サイドの棚やテーブルの上には、ビジュアルもタイトルもキャッチ―な本が所狭しとディスプレイされている。あれこれ手に取って見ていると、奥から「こんにちは」とハンチング帽をかぶるおしゃれな男性が声をかけてくれた。男性は店主の岩滝和志さん。朗らかな声に安心し、いろいろと尋ねてみた。

岩滝さんはこれまで、他の書店の一角を借りて販売を行う、いわゆる“ヤドカリ書店”として『マハ本店』を営んできたそう。今回初めて実店舗を構え、8月20日にオープンした。気になっていた店名は大好きな画家・ゴヤの代表作『着衣のマハ』『裸のマハ』から。「『マハ』はスペイン語で『粋な女』という意味。それもかっこいいでしょ!」と開いた画集に描かれているのは、先ほどのポスターと同じ絵だ。

入口扉の店内側に貼られた『裸のマハ』のポスター。外側は『着衣のマハ』

古本を扱うようになったのは、今から10年ほど前。きっかけは当時全国ではやっていた、一箱分の本を路上で売る「一箱古本市」でのある出会いだった。
「本は昔から好きなんだけど、初めて自分の本を一箱古本市に出した時に若い女性がフランス文学の本を手に取ってくれて、思い切って声を掛けると『明日パリに行く』ということで話が盛り上がって。これはすごいことですよ。だって全く知らない若い女性におじさんが急に声を掛けたら、普通なら変態でしょ(笑)。だけどそこでは、たった一冊の本でコミュニケーションが成り立った。本当に感動してね」
そう声を弾ませ目を細める姿に、当時の興奮が伝わってくる。きっとそれは新刊ではなく古本だからこそ生まれたコミュニケーション。自分が愛読しセレクトした本から新たな出会いが広がるなんて、確かに素敵だ。

店主の岩滝和志さん。「マハ岩ちゃん」の名前でブログ更新中

その後は複数の書店でワンフロアをシェアしたり、イベント出店をしたり、広島市内のいくつかの古本屋でのヤドカリ書店をしながら、”一冊から始まるコミュニケーション”を楽しんでいたそう。セレクトの面白さからファンも増え、岩滝さん自身も店舗を構えたいという気持ちが募っていくが、当時は会社勤めだったことや年齢的なこともあり躊躇していた。今回念願の店舗をオープンした理由については「定年を過ぎてもうあまり儲けなくてもいいから、お金よりもコミュニケーションの場を作りたいと思って。もちろん売れると嬉しいけどね」と笑う。

必要としている人が必ずいる

自身が海外の美術館めぐりを趣味にしているほどアート好きということで、販売する2500~3000冊の本はアート関係がメイン。あとはサブカル系の「面白くて変なもの」。確かに見る限り、人気ランキングの上位に入るような流行の小説などはなさそうだ。「売れる・売れない」ではなく「自分が好きなもの、読んでもらいたいもの」がセレクトの基準。岩滝さんの感性に引っかかったもののみが並ぶ。だから、いくら人気の時代小説があるから買い取ってほしいと言われても「うちでは必要としていないので〇〇に行った方がいいですよ」と断るし、需要が少ない=いわゆる売れない本でも面白ければ置いているのだ。

店内ではソフトドリンクの注文が可能。また企画棚も設け、この時期のテーマは実物の作品の美しさに魅せられたという『みんなの好きなフェルメール』

例えば歴史ある美術雑誌『美術手帖』は「これだけ並べている店はなかなかないと思う」と充実の品揃えだが、他であまり見ないのは売れないからだろうとの分析だ。「必要としている人は必ずいるから」の言葉が力強く、求めている人にとってはお宝を見つけるような気分だろう。さらに、そのこだわりによって「厳選された本」というプレミアム感と安心感を与えてくれている。この日はオープンからまだ1週間ほどだったが「もう美術系の学生さんが何人かリピートしてくれて、色々コミュニケーションを取っていますよ」と嬉しそうに話してくれた。

また「横川」という場所も「新しいお店がどんどんできて、ますます面白くなっているエリア。アンダーグラウンドを含めて、今から文化的なものを発祥するのは横川ではないかと勝手に期待をしている」と開店の大きな要因だったそうだ。
そんな横川の町には現在、駅から徒歩5分圏内に4軒の古本屋がある。激戦区とも呼べそうだが、それについては「激戦ではなく、みんなが一緒に盛り上がろうとしている」ときっぱり。新刊がメインではなくそれぞれに特徴があるため、蔵書がかぶってもわずかで競争にはならない。逆にお互いの店に立ち寄って本を買ったり、情報交換をしたり、繋がりは強いのだそうだ。自分の色を出しながら、こうしたお店同士の繋がりを持てることも、古本屋を営む方たちの楽しみの一つなのかもしれない。ちなみに岩滝さんは以前から、その4軒のひとつ『古本と珈琲 楢』さんで、さまざまな趣味を持つ人たちが集まって語り合う「夜間無名塾」というイベントを不定期で主催している。

知人から委託されているというレトロな雑貨も販売

最後にFLAG!編集部も痛感している本離れと、本の魅力について改めて尋ねてみた。
「僕の周りは本好きばかりだから本離れが進んでいるとは思わないけど、紙離れというのはあるかも……」と目の前の一冊を持ち上げ、「やっぱり手に取ったときの重量感、におい、めくるときの紙の感触、装丁……。もうね、『コレ』としか言いようがないのよ。ネットじゃ分からなくて手に取るから分かるものがあるでしょ。あと紙だからこそ出合えた作品もある。この楽しさをまだ感じていない人に伝えることができると嬉しいね」。私たちも、そうですよね!と同じ思いを確認して「また来ます」と店を後にした。

「横川は面白い」。同じ町で働く私たちにとってもこの言葉は何だか嬉しい。町内会や商店街の皆さんの力も大きいと思うが、この町に集まり、個々のお店を持たれる皆さんの思いも横川を面白くしていると感じる。今回仲間入りしたこのマハ本店も、これから本を一つのきっかけにどんどん人が集まって、横川カルチャー発信の重要な拠点となるのだろう。面白いものに出合いたい人、また、まるで噺家さんのように軽快な口調で次々と本やアートなどの魅力を語ってくれる岩滝さんとの会話を楽しみたい人は、一度訪れてその魅力を確認してほしい。

■おすすめの本■
『古本乙女 日々是口実(ふるほんおとめ ひびこれこうじつ)』(著者:カラサキ・アユミ/発刊:皓星社 )

古本屋や古本市が大好きな著者がまとめた、古本好きあるあるの4コマコミックエッセイです。これを読んだらほとんどの古本好きが「そうそう」とうなずくはず。例えば、他人とぶつかって普通だったら「ごめんなさい」というところを、古本市だとなぜか目を見合わせ黙ってお辞儀をする。デートをしていても新しい古本屋を見つけたら、ちょっとトイレ行ってくると言って20分したら両手に本を持って帰るとかね。ほんとにそうなんですよ。とにかくあるある。「そうだよね、それでいいよね」と自分を納得させる内容が満載の本。笑えるけど・・・苦笑いです。

店名 アート・サブカルの小さな古本屋   マハ本店
住所 広島県広島市西区三篠1-8-1-103
営業時間 12:00~19:00
定休日 不定
お問い合わせ先 082-576-3963
ブログ マハ岩ちゃんのブログ

https://ameblo.jp/iwachanhonten/

(取材/衛藤潮理、文/Kco)

紹介したお店はこちら


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