
あなたの家庭も年間3万円が万引きされている!? 万引き被害の隠れた数字――万引きGメンの憂鬱 #04【書籍『万引きGメンの憂鬱』より】
- 万引き
- 万引きGメン
- 万引きGメンの憂鬱
- 窃盗
『万引きGメンの憂鬱』は、タイトルのように実際に現場に立つGメンたちのエピソードを盛り込みながら、
万引き犯罪対策の難しさや、やるせなさを紹介しています。
しかし、実はその憂鬱は私たち消費者にも関係があることなのです。
ただ、知らないだけで……。
日本の不明ロス額は約1兆6千億円以上
2021年、日本の刑法犯認知件数は568,104件を数えました。
みなさんはこの中でもっとも多い犯罪は何だかわかりますか?
答えは「自泥」こと自転車泥棒です。
その答えを聞いて「あれ、万引きじゃないんだ?」と思った方も多いかもしれません。
でもちょっと待ってください。
この事実だけ見て「万引きってそんなにあちこちで起こっている犯罪じゃないんだ。万引きより自転車泥棒の方が深刻じゃん」
と決めつけるのは大間違いです。
ここで注目すべきは、この数字が刑法犯罪の〝認知件数〞である点です。
まず自転車泥棒について見てみると、人気のない路地に放置された自転車はカギを壊せば簡単に盗めるものです。
きっと盗んだ方はいつまでも乗り続けるつもりはなく、
用を足せばすぐに放置してしまうのがほとんどなので罪悪感も少なく、
軽い気持ちで犯行に及んでしまうのでしょう。
しかし盗まれた方はそうはいきません。
数万円もする自分の大事な日々の足がなくなってしまったのです。
被害者は盗まれた事実をスルーすることなく、多くの場合、警察に被害届を提出するでしょう。
つまり自転車泥棒は起こった件数が、ほぼそのまま認知件数に反映される犯罪なのです。
一方の万引きの場合はどうでしょう。
万引きは従業員や万引きGメンが万引き犯を取り押さえ、警察に突き出して初めて〝認知件数1件〞がカウントされます。
しかし、それはあくまでも犯人が見つかったケースに限られます。
では見つからなかった万引きはどうなるのでしょう。
何ヶ月に一度の在庫チェックで商品がなくなっていると気付いた時、
お店の従業員は「万引きされた!」と被害を警察に届けるでしょうか?
そして警察も被害届を受理するでしょうか?
そもそもなくなった商品があったとして、それは万引きで失われたのか、ミスでなくなったのか、故意なのか……
いったい誰が判断できるでしょう?
そう考えると、万引きの被害というのは闇なのです。
どれだけ事件が起こったか把握しやすい自転車泥棒に比べ、万引きの発生件数は暗数でありブラックボックスです。
日本における万引きの被害は、泥で澱んだ底なし沼のように正確な実態がつかめないというのが正直なところです。
ただ、これに関しては別の方向から考えることができます。
イギリスのとある調査会社が調べたところ、全世界の年間不明ロス推計額は1,234億ドルと判明しました。
その中で日本の不明ロス額は149億ドル、
日本円に直すと約1兆6千億円以上。
不明ロスの内訳を見ると、万引き66パーセント、
内引き(従業員による不正)12パーセント、サプライヤー (出入り業者)による不正5パーセント……
つまり合計83パーセントが不正ロスだと計算できます(残りは廃棄ロスや発注ミスなど)。
となると日本の不正ロスによる被害額は、1兆6千億円×0・83=約1兆3千億円。
日本には民間の調査機関や調査会社がなく、行政も調査を行っていないのでこの数字を信用するしかないのですが、
それにしても年間の不正ロスが1兆3千億円とは……。
ただ、以前経済産業省の課長が「不正ロス(万引きロス)の被害額はだいたいこの額くらいだろう」と発言していたことがあるので、あながち的外れな数字だとは思えません。
あまりに額が大きいのでピンと来ない方も多いかもしれませんが、
これは1世帯あたりに換算すると約3万円という金額になります。
つまり、日本では万引きによって年間約3万円が1つの家庭の財布から盗まれているのです。
いやいや、損をするのはお店であって、私たち消費者は別に……と思っている方。
では店舗は万引きで生じた損失をどこで補填していると思いますか?
お店の商品価格などに転嫁させて、みなさんの支払いで埋め合わせているのです。
だから万引きは一般の消費者には関係のない、スーパーや保安員だけの話ではないのです。
この国に多数の卑劣な万引き犯が存在することで、あなたの家計から年間3万円もの金額が盗まれていると言えるのです。
これは大きな負担だと思いませんか?
【著者プロフィール】
ひなやすみ・みのる/広島市に生まれる。セキュリティコンサルタント、ロス対策士。1984年、株式会社NICCOの前身日弘商事有限会社を設立。店舗清掃やビルメンテナンス事業を行っていたが、施設警備や保安業務に進出したことを機に万引き犯罪に対峙。そこから店舗の防犯対策やロス対策の研究を進め、独自の防犯システムである「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)※」を完成させる。現在、株式会社NICCO取締役会長を務める。
※「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)」は株式会社NICCOの登録商標。
関連記事
-
コラム
【今日もえんぴつを片手に。】<第3回>2年目校閲者が「気になる」こと
目につく文字がすべて気になる小説を読んでいたら誤植を見つけて、もう私はその後の内容なんて頭に入らなくなってしまいました。世界には文字が溢れています。本を読まなく……
2026.06.05
-
観光・旅・グルメ コラム
取材NGの宿で誓ったこと 秘湯・中村旅館のページに込めた「私の使命」
「たとえ断られても、ここだけは諦められない」今回の『温鉄』において、私たちがどうしても外せなかった場所があります。それは、三江線の代替バスに揺られて辿り着く、……
2026.05.22
-
観光・旅・グルメ コラム
中四国地方の鉄路と湯けむりを綴る『温鉄』 鉄道旅ライターが伝えたかった旅
効率を求める日常から、一歩外へ新刊『温鉄』の企画が動き出したのは、誰もが「移動」を奪われたコロナ禍の真っ只中でした。「大好きな温泉とローカル線を応援したい」とい……
2026.05.15
-
コラム
【今日もえんぴつを片手に。】<第2回>2年目校閲者の10年目上司――「違和感」の先にあるものは?
社内に一人、“判断の基準”がいます「生き字引」という言葉があります。生き字引【いき-じびき】――経験を積み、よく物事を知っている人。先例や規則に精通していて、そ……
2026.05.01