追い詰められた犯人が見せる、人間の醜さ。本性を目の当たりにした万引きGメンの本音――万引きGメンの憂鬱 #02【書籍『万引きGメンの憂鬱』より】
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万引き犯との接点で、万引きGメンの身に命の危険が及ぶことは前回に書きましたが、犯人との接触はGメンにとって大きな憂鬱をもたらします。
人は窮地に追い詰められてどうしようもなくなった時、その本性が現れます。
それは醜いものであることも少なくなくて……。
ここでは万引きGメンたちの憂鬱エピソードを紹介し、万引きの根深い闇を浮き彫りにします。
人間の極限の姿を目にしてしまう万引きGメン
たとえばあるGメンはひとりの高齢女性を逮捕した際、なぜか説教されたといいます。
女性は夫と一緒に買い物に来ており、妻が万引きをしたことに夫は気付いていませんでした。
Gメンはなるべく夫に悟られないようこっそり女性に声を掛けたのですが、彼女が「なによあなた!」と騒いだため「どうかしたんか?」と夫が出てきて、「実は奥様のカバンの中に精算されていない商品が入っています」と正直に言わざるを得ない状況になってしまいました。
2人そろって保安室に来てもらうことになり、女性にカバンを開けてもらうとやはり未精算の商品が出てきました。
「どしたんや、これ?」
「私、知らん」
女性は夫の前で、追い詰められた犯人が見せる人間の醜さで、あくまでシラを切ろうとします。
すると夫はGメンの方を向くとすごい剣幕でこう吐き捨てました。
「おまえは妻がこれをカバンに入れよるところを見とったんじゃろ? だったらなんでその時に注意せんのか! おまえはわしの妻を犯罪者に仕立てたいんか」
万引きを犯した妻を責めるのではなく、それを止めなかったGメンを責める……あまりに飛躍した発想にGメンがあっけにとられていると、2人は手を取り合って「あなた〜」「おまえ〜」「私を許して〜」「大丈夫じゃ〜、わしがなんとかしたる〜」と保安室で愛の劇場をはじめたといいます。
「全部こいつのせいじゃ」とひとり悪者にされたGメンはたまったものではありません。
また、それと同様にあるGメンは女性を確保した時、「どうして私が商品をカバンに入れた時に声を掛けてくれなかったの! 声を掛けてくれたら私は盗らなかったのに」と本気で詰め寄られたといいます。
現場を見てるなら自分がやる前に止めてくれ。
やるのを見ておいてその後に捕まえるのは、人を犯罪者にしようとする悪意があるとしか思えない――冷静に考えれば明らかにおかしな論理ですが、そう言われたGメンは黙り込むしかありません。
自分は職務として犯罪者を確保しただけなのに、どうしてそんなことを言われなければいけないのか?
まるでこっちが悪者のように扱われなければいけないのか?
……逆ギレして不条理な八つ当たりをしてくる容疑者にGメンの憂鬱は止まりません。
あるGメンは5年近くの勤務の中で、本当に反省していると感じた容疑者はひとりだけだったといいます。
みんな保安室に連れてこられると「許してください。反省してます」と涙ながらに訴えます。
でも大半はミエミエのお芝居。
特に老人の中には「盗った商品を出してください」と言っても「は?」と耳が悪いフリ。
または、「わし、なんも知らん。ここはどこ? なんもわからんわ〜」と突然認知症のフリ。
急に名俳優・名女優になるというか、タチが悪いを通り越してあきれて何も言えなくなるようなケースが多かったそうです。
Gメンを憂鬱にさせる老人の万引きエピソードは挙げるとキリがありません。
あるおばあちゃんを逮捕したらガタガタ震えて泣きはじめました。
「わたしがこんなことやったことが家族に知れたら何と言われるか……わたしゃ、もう自殺せんといけん。ここで死なにゃあいけん……」
ベテランのGメンは老婆の大袈裟なセリフに「またクサいお芝居しちゃって……」とあきれた表情を浮かべていましたが、パッと横を見るとそのクサいお芝居にまんまと引っ掛かって新人Gメンがもらい泣きしているではありませんか!
「あんた、おばあさんの演技にダマされちゃいけんよ!」
Gメンが新人の背中をひっぱたいたのは言うまでもありません。
さらに、おにぎりを万引きしたおじいちゃんを確保すると、「こんな安い年金でどうやって生活すればいいんじゃ!」……そんなことを私に言われても。
国に文句言ってください。
食品を万引きしたおじいちゃんは捕まえたとたん、「ねえちゃん、勘弁してぇや。ここに千円あるけぇ見逃して」……そんなお金いりません。
お金があるなら最初からお金を払って買ってください。
世間には万引きした後でも「お金を払えばいいんでしょ」といった調子で開き直る犯人がたくさんいます。
もちろん後で支払っても罪は罪ですし、そこに反省というのがまるで感じられないところがGメンをひたすら憂鬱にさせます。
ちなみに保安室に連れて行った時、土下座して謝り倒す人は前科や余罪があると思って間違いありません。
富田林署から脱走した樋田淳也容疑者が万引きで逮捕された際、激しく抵抗してGメンが「絶対この男には余罪がある」と確信した話をしましたが、後ろ暗い部分がある人こそ何としてでもその場から逃れようとするものです。
窮鼠猫を噛む――ではないですが人は追いつめられると何をやるかわかりません。
そんな人間の極限の姿を目にしてしまうのも、Gメンの仕事のしんどいところかもしれません。
【著者プロフィール】
ひなやすみ・みのる/広島市に生まれる。セキュリティコンサルタント、ロス対策士。1984年、株式会社NICCOの前身日弘商事有限会社を設立。店舗清掃やビルメンテナンス事業を行っていたが、施設警備や保安業務に進出したことを機に万引き犯罪に対峙。そこから店舗の防犯対策やロス対策の研究を進め、独自の防犯システムである「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)※」を完成させる。現在、株式会社NICCO取締役会長を務める。
※「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)」は株式会社NICCOの登録商標。
万引きGメンの憂鬱
堀友良平[株式会社ザメディアジョンプレス 企画出版編集・FLAG!web編集長]
東京都出身。学研⇒ザメディアジョンプレス。企画出版、SNS、冊子などの編集担当。書籍「古民家カフェ&レストラン広島」などのグルメ観光系や、「川栄李奈、酒都・西条へ」などのエンタメ系なども制作。学研BOMB編集部時にグラビアの深さを知りカメラに夢中
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