犯人から逆恨みされる可能性も。危険が伴う覚悟で現場に立つ万引きGメンの本音――万引きGメンの憂鬱 #01【書籍『万引きGメンの憂鬱』より】
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毎日のように万引き・窃盗のニュースを目にすることが後を絶ちません。
なかには、「万引き後に声掛けした女性警備員の顔面を殴る」「追いかけてきた店長を車で引きずり逃走」など、命に危険が及ぶケースも多々あります。
それでも現場に立つ万引きGメンたちですが、犯人との関係性においては事件が解決した後も万引きGメンには憂鬱が付きまといます。
ここでは、万引きGメンの憂鬱を紹介するとともに、万引きの根深い闇を浮き彫りにしていきます。
犯人から逆恨みされるかもしれない恐怖
犯人との関係性においては事件が解決した後も万引きGメンには憂鬱が付きまといます。
それは犯人から逆恨みされるかもしれないという恐怖です。
基本的にGメンは顔バレを防ぐため、一般人に紛れて行動します。
というか保安員は一般人と同じ権限しか持っていないので、もともと一般人でしかないのですが、普段からGメンは裏方でいるのが通常です。
しかし、Gメンは犯人を確保する時は表に出ます。
2人組で行動している場合、声掛けは男性Gメンが担当することが多いものの、保安室で話を聞く時などは女性Gメンも容疑者と対面することになります。
人というのは窮地に追い込まれるとあの手この手を使って逃れようとするものです。
ある者は泣き落としで、ある者は怒鳴ってみせ、ある者犯人から逆恨みされるかもしれない恐怖は認知症のフリをして、ある者は自身がいかに不幸な環境にいるか切々と語ることによって……。
しかし、基本的にそんな手は通用しません。
「はい、じゃあそういう話は警察の人にしてくださいね」
と自動的にパトカーに乗せられるのが今の流れです。
自分が頭を下げて頼んでいるのに、まったく聞く耳を持とうとしないこの女は何なのか?
というか、この女のせいで自分は警察に突き出されてしまうのか?
この女さえいなければ……この女のせいで……。
それは明らかに理不尽な怒りですが、人は行き場のない感情を抱えた時、どこか一ヶ所に矛先を向けようとします。
まったくのとばっちりでしかないのですが、その標的が女性Gメンに向いてしまうことも皆無とは言えません。
実際、前出の万引き事件で犯人を捕まえたGメンは事件の裁判に出廷した際、パーテーションで区切られたスペースで証言をしました。
この事件では犯人が逃走中にGメンにケガを負わせたことで傷害罪も適用されていました。
証言をする際に顔をさらして容疑者の前で話せば、「この女のせいで……」と復讐心を煽ることになるかもしれません。
そうすると出所後〝お礼参り〞に来ないとも限りません。
ここではそうした危険性を防ぐ観点から素性を隠しての証言となったのです。
このGメンは犯人に傷つけられた際に心にも傷を負っていました。
当時の上司はそれに加えて「いつかあの男が仕返しにやって来るかもしれない」という将来全般に及ぶ恐怖心を彼女に抱え込ませることだけは避けたいと思ったといいます。
実際見えない誰かに怯えながら生活を送ることほど不幸なことはありません。
万引きGメンはそうしたリスクと隣り合わせの存在でもあるのです。
さらに万引きGメンが憂鬱を感じるのは、普段の業務が〝職業病〞になってしまうケースが多々あるということです。
万引きGメンという仕事を経験する前はスーパーマーケットでもドラッグストアでも自分の好きな商品を選んで、普通にショッピングを楽しむことができました。
しかし、一度Gメンの世界を経験してしまうと、もう普通には買い物ができなくなります。
夕飯の買い物をしていても不審な人物がいたらそっちをチラリ、セール品を吟味していても不自然なバッグの持ち方をしている客のことが気になって仕方ない……。
万引きGメンが不幸なのは機械のスイッチをオンからオフにするように、休日の日でも〝感度〞をオフにできないことです。
いったん怪しい人物を察知する能力を身に付けたら、そういう人物は自然と視界に入ってきてしまいます。
もしもそういう人物を見つけたなら、たとえ仕事時間外でも、自分の担当の店ではなくとも、自然と後を追ってしまいます。
勝手に〝Gメンの性サガ〞が発動してしまうのです。
だとしたら休日は自分自身を休めるため、なるべく万引き犯のいそうなところに行かなければいいのですが、あいにくスーパーやドラッグストアは彼女たちが毎日行かなければならない場所でもあって……。
万引きGメンという仕事に就いたことで仕事以外の時間も犯罪者のことが気になってしまうし、さらに逆恨みの恐怖にもさらされる……彼女たちに安楽の日はやって来るのでしょうか?
【著者プロフィール】
ひなやすみ・みのる/広島市に生まれる。セキュリティコンサルタント、ロス対策士。1984年、株式会社NICCOの前身日弘商事有限会社を設立。店舗清掃やビルメンテナンス事業を行っていたが、施設警備や保安業務に進出したことを機に万引き犯罪に対峙。そこから店舗の防犯対策やロス対策の研究を進め、独自の防犯システムである「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)※」を完成させる。現在、株式会社NICCO取締役会長を務める。
※「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)」は株式会社NICCOの登録商標。

万引きGメンの憂鬱
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実は、そう簡単に抑止または防止できていないのが実情なんです。
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万引きという犯罪は、万引きGメンを憂鬱にさせるだけではなく、普通に暮らしている私たち一般消費者、ひいては地域社会をも憂鬱にさせているのです。
本書では、そうした万引きの実態を知ってもらいながら、私たちができることを模索するきっかけの一冊となっています。
一人一人が万引き犯罪への関心を高めていくことで、さらなる万引き抑止に繋がれば幸いです。
<著者プロフィール>
日南休 実
広島市に生まれる。1984年、株式会社NICCOを設立。店舗清掃やビルメン テナンス事業を行っていたが、施設警備や保安業務に進出したことを機に万引き犯罪に対峙。そ こから店舗の防犯対策やロス対策の研究を進め、独自の防犯システムである「セキュリティマー チャンダイジング(SMD)※」を完成させる。現在、株式会社NICCO取締役会長を務める。※「セキュリティマーチャンダイジング(SMD)」は株式会社NICCOの商標登録。
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堀友良平[株式会社ザメディアジョンプレス 企画出版編集・FLAG!web編集長]
東京都出身。学研⇒ザメディアジョンプレス。企画出版、SNS、冊子などの編集担当。書籍「古民家カフェ&レストラン広島」などのグルメ観光系や、「川栄李奈、酒都・西条へ」などのエンタメ系なども制作。学研BOMB編集部時にグラビアの深さを知りカメラに夢中
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