コラム 2022/03/04

労働者が見せてくれる、生きることや働くことの原点【アジアンドキュメンタリーズ】空鞘稲生神社の禰宜・内田久紀さんが『天国と地獄“悪魔の金”をめぐる物語』を語る

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アジアの優れたドキュメンタリー映像を配信する「アジアンドキュメンタリーズ」。

戦争、貧困、環境、人権など、アジアの社会問題に鋭く切り込んだラインナップが特徴だ。

その作品の魅力を発信するべく実現した、FLAG!とのコラボレーション企画「映像と本で知るアジアの現実」第12弾。

今回は空鞘稲生神社の禰宜・内田久紀さんが『天国と地獄“悪魔の金”をめぐる物語』を視聴。

作品から感じられる家族観や働くことの意味について語ってもらった。

天国と地獄“悪魔の金”をめぐる物語

【作品内容】
むせるほどのガスが立ちこめる、劣悪な環境の硫黄鉱山で働く男たちに密着。
家族の暮らしを守り、支える父親としての思いに迫った作品でもある。
東ジャワ州のカワ・イジェン硫黄鉱山では、作業員が火口付近の硫黄を手作業で採掘し、かごいっぱいに詰めて、担いで山を下りる。

鉱山経営者は「3時間で5ドル稼げる」と胸を張るが、作業員たちは一様に「他に仕事がないからここで働く」と言う。
得意な語学を生かしてガイドを目指すアントと堅実な暮らしを求めるプルノモ、鉱山で働く2人の青年を中心に、さまざまな父親像、祖父像を描いている。
また、彼らを慕い敬う家族の愛情も垣間見えるヒューマニズムにあふれた作品でもある。

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月額990円(税込)で全作品見放題 / 作品ごとの視聴は495円(税込)
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格差社会の中の労働者とその家族

▲空鞘稲生神社の禰宜・内田久紀さん

――この作品を選んだのはなぜですか。

候補が多くて選びきれないほどでしたが、未知のことに興味があったので、日本の映画ではなく海外作品を見たいと思っていました。

まずタイトルが気になって、最終的な決め手は作品パッケージのデザインです。

インドネシアについては何となく発展途上国というイメージを持っていました。

――実際に作品をご覧になって、どんなことが印象に残っていますか。

“家族”ですね。

大都市から山奥の村に嫁いできた奥さんは、どんな心境なのだろうかと気になりました。

国によって結婚観は違うと思うのですが、すぐに嫌になったり離婚を考えたりしないのかなと。

それこそ映像を止めてまで考えました。

都会と山村のギャップや、貧富の格差、環境の違いも、同じ国のこととは思えません。

まるで近代と前世紀が混在しているような感覚です。

労働環境にはさらに驚かされました。

足元が悪い中、70~80キロもの重さの硫黄鉱石を担いで歩いている。

若者はもちろん、孫がいるような高齢者まで働いていることにショックを受けました。

ここで生きること、家族を養うことへの覚悟

――彼らの働き方、暮らし向きの中に何を感じましたか。

勝手な想像ですが「覚悟」を持って生きているのだろうと思いました。

何かに迷っている場面はありません。

彼らにあるのは「その場所でいかにして生きていくのか」という思い。

常に前を向いているように感じました。

仕事や金銭、環境などで人生を選んでいない。

「決めたことはやる」という覚悟が見えるところに共感しました。

――作品中に見られた家族観や家族像に、何か感じるものは。

「自分を犠牲にしても家族のために」という、昔の日本の父親像のような気質を感じました。

今の日本人は裕福というか楽をしているというか……。

公園の横で、昼寝のために停車している営業車をよく見かけます。

そんな人はこの作品にはいません。

生きいくこと、家族を養うことへの必死さを感じました。

映像だから感じられるハングリーさと幸せの原点

――仕事を選り好みする私たちは、生への意識が足りないのかもしれませんね。

日本では、コンビニで働く外国人にもハングリー精神を感じます。

僕らとは仕事に対するスタンスや、お金に対する感覚が違う。

それはスポーツの世界でも感じること。

そこに賭ける意識、これで稼いでやるという意識が、日本人と外国人では違います。

鉱山労働者であっても同じではないでしょうか。

日本人は恵まれすぎているのだと思います。

――その恵まれすぎている我々が、作品から得られることは何でしょうか。

僕は仕事に対する意識が変わりました。

これは活字では分からない、リアルな映像だからこそ感じるものだと思います。

あの劣悪な環境下でも笑って過ごす人たちがいる。

どう見ても我々より苦しい生活なのに笑顔でいられるんです。

自分はもっと頑張らないといけないし、笑っていなければいけないと思う。

自分への甘えを消そうとする材料にもなります。

――“可哀想な人たち”ではなく、彼らの中にも幸せがあるのですね。

幸せの作り方は、環境で変わってきます。

単に大きな家に住めばいいということではありません。

笑っていられることが大切。

僕は作品を見て、子どもの前では笑っていようと思いました。

見ること・見られることが社会を変える

――鉱山が観光地になっていましたね。

観光地になっていてよかったと思います。

誰にも知られないよりも、観光客が見てくれる方がいい。

観光客と触れ合うことが彼らの向上心、刺激にもなっていました。

誰かに注目されると胸を張って仕事ができるものです。

人に見られることが一つの刺激になるのは僕らも同じではないでしょうか。

過酷な環境だからこそ、変えなければならないことでもあります。

観光客が現場で何かを感じ取ってくれれば、見る側にとっても意味があること。

もちろん僕らのように映像で知るだけでも大きいと思います。

もしこの鉱山労働が、誰にも見えないところで行われていたらと思うとぞっとします。

――“見ること・見られること”にも意味があるのですね。

受け止め方は人それぞれですが、いろいろな国の“働く姿”を観た方がいいと思いました。

世の中に仕事は無数にありますが、その一つが今回の映画。

観て、何かを感じ取って、自分の人生に生かしてほしい。

海外に行くことができなくても、いろんな世界を知ることができます。

僕自身も「知ってよかった」と思える作品です。

 

内田久紀(うちだ・ひさのり)
1984年広島生まれ。禰宜として空鞘稲生神社を守る一方で、神社や神道のプロモーション活動の他、境内をイベント会場として提供することにも取り組む。神社を「特別な理由がなくても立ち寄りたい場所」にすることが目標。人との出会いやコミュニケーションを大切にしている。

 

■今回見たドキュメンタリー映画■
『天国と地獄“悪魔の金”をめぐる物語』
アジアンドキュメンタリーズにて配信中


原題:Where Heaven Meets Hell
2011年製作/作品時間80分
撮影地:インドネシア
製作国:アメリカ

動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」
月額990円(税込)で全作品見放題 / 作品ごとの視聴は495円(税込)

ドキュメンタリーの視聴はクレジットカード決済で、いつでもすぐに視聴できます。

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アジアンドキュメンタリーズとは

株式会社アジアンドキュメンタリーズは、優れたアジアのドキュメンタリーを世界へ配信し、アジアでドキュメンタリー制作者ネットワークの構築をめざす日本の新しい映像配信会社です。配信するコンテンツは、アジア各国で作られたドキュメンタリー映画を中心に、当社オリジナルのコンテンツもラインナップに加えていきます。

テレビでは放送されない、タブーに切り込む作品の数々。

テレビは人々が信頼を寄せる巨大な映像メディアですが、そこには大きなタブーも存在します。当然のことかもしれませんが、広告主や視聴率に悪い影響をもたらすもの、特定の業界から強い反発が予想されるような自らの立場を危うくするテーマをなかなか取り扱いません。しかし私たちは小さな市民メディアとして、テレビが取り上げないドキュメンタリー作品こそ大切にしたいと考えています。

「衝撃」「感動」「覚醒」… 優れたドキュメンタリーがあなたを揺さぶる。
優れたドキュメンタリーは、あなたに驚くほどの衝撃を与えることでしょう。それは今までの人生で築き上げられた価値観が壊れてしまうこともあるほどのものです。また作品によっては深い感動や共感を抱くこともあるでしょう。それが激しい怒りや悲しみ、絶望かもしれません。しかし、私たちが一つのドキュメンタリーと向き合うことで、新しい何かが生まれていきます。ドキュメンタリーは、私たちを奮い立たせるエネルギーを与えてくれます。自らの生き方を問い直すきっかけになるかもしれません。

毎月厳選してお届けする〝特集編成〟と〝オリジナル解説〟
私たちは作品の価値を高めるために、複数の作品を組み合わせて視聴することをお勧めしています。それが特集編成です。またそれぞれの作品について、今見る価値をしっかりお伝えし、過去の作品であっても、そこから得られるものがいかに大きいかをわかりやすく解説いたします。

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<関連おすすめ書籍>
■〝環境″をもっと知る本■

『TRANSIT49号 -地球の未来を考える- 美しき消えゆく世界への旅』(発刊:euphoria factory )

 

知る人ぞ知る雑誌『TRANSIST』から、49号をピックアップ。アジアをはじめとする世界が抱える環境破壊を知る入門編として、美しい写真とともに知れることができる1冊です。写真を見ながら「地球って美しいなあ」と感じる一方で、そんな地球を自らの手で破壊していることへの実感がわいてきます。

 


堀行丈治

堀行丈治[ぶるぼん企画室]

原稿屋「ぶるぼん企画室」代表。ウェブマガジン「INTERVIEW JAPAN」を運営。読書よりも執筆が、見ることよりも撮ることが好き。仕事の傍らで小説も書いている。第2回庄原文芸大賞・短編小説の部佳作「返納」は、Amazon Kindleで発売中。

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