コラム 2021/11/05

日常に寄り添い、生き方に迫る、原爆映画の新境地【アジアンドキュメンタリーズ】広島フィルム・コミッションの西崎智子さんが『太陽が落ちた日 【日本初配信】』を語る

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アジアの優れたドキュメンタリー映像を配信する「アジアンドキュメンタリーズ」。

戦争、貧困、環境、人権など、アジアの社会問題に鋭く切り込んだラインナップが特徴だ。

その作品の魅力を発信するべく実現した、FLAG!とのコラボレーション企画「映像と本で知るアジアの現実」第9弾。

今回は広島を舞台にした映画やドラマなどのロケーション撮影をサポートする広島フィルム・コミッションの西崎智子さんが、自身も撮影協力した『太陽が落ちた日』を視聴。

原爆投下後から現在まで内部被曝と向き合いながら生きる人々のストーリーについて語ってもらった。

太陽が落ちた日 【日本初配信】

【作品内容】
広島赤十字病院の若き内科医だった監督の祖父は、原爆投下のその日から被爆者の治療にあたっていた。しかし彼は、生涯を通じて決して自らの体験を語る事はなかった。しかし監督が彼の足跡を辿っていくうち、同じような体験をした看護師と医師にめぐり会う。監督は彼らと出会い、取材を重ねながら、少しずつ祖父に近づいていく。そして、2011年3月11日、福島の原発事故によって、監督の探索の旅は新たな局面を迎えることになる。

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8.6から3.11へ 終わらない歴史がある

広島フィルム・コミッションの西崎智子さん

――原爆関連の映画はたくさんありますが、他の作品と大きく違う点がありますか。
この作品は、東日本大震災が起きるまでは、「自身の家族を原爆とのつながりで描こう」と監督のアヤ・ドメーニグさんが当初予定していた“過去への旅”のような作品になるはずだったと思うのですが、3.11でがらりと変わりました。

そこに触れないわけにはいかなくなったのでしょう。

――福島の原発事故が起きて作品の軸が大きく動きました。
主人公の一人、当時広島で軍医だった肥田先生は、戦後ずっと内部被爆について研究されていました。

しかし内部被曝というものは解明しづらく、長らく“存在しないもの”として扱われてきました。

福島の事故をきっかけに、注目を浴びることになったのです。

もう一人の主人公、内田さんが原爆の体験を語っているとき、子どもが「広島の原爆の除染はどのようにされたのか」と質問するシーンはとても衝撃を受けました。

当時は誰も放射能の存在を知らない状況で、除染が行われるはずもありません。

福島でも表面を切り取れば安全なのかといえば、それは疑問に思っています。

あの子たちがそう信じているとしたら、「核と人間の共存が可能」というのが常識になってしまいます。

 

作家の執念が呼び覚ます次なるアクション

――そういった現代の世界で描かれているということも、見る者にとって分かりやすいですね。
本当に地続きなのだと思わされますし、今の問題だとも感じます。

平和記念式典のシーンがありますが、「この時何台カメラを使ってるの?」と驚きました。

アヤさんのおばあちゃんは家のテレビで式典を見ている。

肥田先生は陸軍病院の式典に出席し、内田さんは遠路はるばるバスに乗って広島に来る。

すごくいい視点でした。

潤沢に予算があるわけではないし、スタッフの数も限られていますから、普通はどこかであきらめると思うんですよ。

それを全部追っています。

――監督の「残さなければ」という執念を感じますね。
ドキュメンタリーは作家の方が「原爆のことを伝えよう」という強い意志を持って来られます。

一方で、お仕事のオファーがあったから広島に来たという人でも、広島の現実に触れたことで関心を寄せてくれる方がいます。

これもまた、映画製作をサポートしていてうれしくなる瞬間です。

アヤさんがこの映画を完成させて、そこで終わりにしなかったことにすごく感激しました。

この後に、福島で映画を作ったんですよ。

この作品で福島から来た親子と出会い、その後、福島の取材をしているとは聞いていましたが、それも完成させている。

それこそが大事というか、経験をいかに自分事にして、そこで何をするのかという答えを、アヤさんは見せてくれました。

――ドキュメンタリー作品は、作り手も視聴者も“覚醒”して、次のアクションが生まれやすいものなのかなと感じます。
座っていられないような、突き動かす力がドキュメンタリーにはありますよね。

だから好きなのだろうなと思います。

 

人物像にフォーカス 新しい形の原爆映画


――1つの映像作品として観るときに、どこに着目すると面白さが増すと思いますか。
アヤさんのパーソナルストーリーというか、彼女のおばあちゃんの存在。

特に使命感を持って原爆を伝えるような人ではありませんが、逆にそれがいい。

アヤさんは「なぜ自分の気持ちを出さないのか」と疑問をぶつけますが、結局最後まで出さない。

アヤさんは優しく寄り添いながらも、映画の最後では、おばあちゃんが病気で髪が抜け動けなくなっているところまで映している。

まさにドキュメンタリーですよね。

おばあちゃんをきれいな髪形にしてニコニコ笑った状態では終わらせない。

そういうところに作家魂を感じます。

――テーマが原爆となると、先入観がこう……。
分かってる、分かってる! みたいなのですよね。あると思います。

――実際に観るとまるっきり違う世界といいますか、これまで見た原爆映画とは視点がまるで異なりますし、主人公の生き方にフォーカスしていますね。
そうなんです。

登場人物の魅力や生き方に迫った作品です。

8月6日その日のことではなく、そのあとどう生きたのか。

内田さんは、家でゴロゴロしていても誰も怒らない高齢者。

だけど自身の体験から「戦争はダメなんだ」と訴え続け、肥田先生も亡くなるまで「自分以外に知っている人はいない」と語り続けられました。

――背負った者の宿命、使命感のようなものを感じていらっしゃったのでしょうか。
それを実際に体験して背負う人は、もうほとんどいません。

例えばドキュメンタリーを見て、という疑似体験から次に背負う人が出てきてほしいですし、出てこないと未来がないと思います。

 

■語り部プロフィール■
西崎智子(にしざきともこ)
香川県生まれ。神戸市外国語大卒業。専門学校講師などを経て、2003年から広島フィルム・コミッションの専任職員。主な支援作品(映画)に『父と暮せば』『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』『孤狼の血』『ドライブ・マイ・カー』など。AFCI(国際フィルム・コミッショナーズ協会)認定の国際フィルム・コミッショナー。

■今回見たドキュメンタリー映画■
『太陽が落ちた日 【日本初配信】』
アジアンドキュメンタリーズにて配信中


『太陽が落ちた日 【日本初配信】』
監督:アヤ・ドメーニグ
2015年製作/日本/作品時間78分

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ドキュメンタリーの視聴はクレジットカード決済で、いつでもすぐに視聴できます。

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アジアンドキュメンタリーズとは

株式会社アジアンドキュメンタリーズは、優れたアジアのドキュメンタリーを世界へ配信し、アジアでドキュメンタリー制作者ネットワークの構築をめざす日本の新しい映像配信会社です。配信するコンテンツは、アジア各国で作られたドキュメンタリー映画を中心に、当社オリジナルのコンテンツもラインナップに加えていきます。

テレビでは放送されない、タブーに切り込む作品の数々。

テレビは人々が信頼を寄せる巨大な映像メディアですが、そこには大きなタブーも存在します。当然のことかもしれませんが、広告主や視聴率に悪い影響をもたらすもの、特定の業界から強い反発が予想されるような自らの立場を危うくするテーマをなかなか取り扱いません。しかし私たちは小さな市民メディアとして、テレビが取り上げないドキュメンタリー作品こそ大切にしたいと考えています。

「衝撃」「感動」「覚醒」… 優れたドキュメンタリーがあなたを揺さぶる。
優れたドキュメンタリーは、あなたに驚くほどの衝撃を与えることでしょう。それは今までの人生で築き上げられた価値観が壊れてしまうこともあるほどのものです。また作品によっては深い感動や共感を抱くこともあるでしょう。それが激しい怒りや悲しみ、絶望かもしれません。しかし、私たちが一つのドキュメンタリーと向き合うことで、新しい何かが生まれていきます。ドキュメンタリーは、私たちを奮い立たせるエネルギーを与えてくれます。自らの生き方を問い直すきっかけになるかもしれません。

毎月厳選してお届けする〝特集編成〟と〝オリジナル解説〟
私たちは作品の価値を高めるために、複数の作品を組み合わせて視聴することをお勧めしています。それが特集編成です。またそれぞれの作品について、今見る価値をしっかりお伝えし、過去の作品であっても、そこから得られるものがいかに大きいかをわかりやすく解説いたします。

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<関連おすすめ書籍>
■〝ヒロシマ″をもっと知る本■

『ヒロシマの空白 被爆75年の』(著/中国新聞社報道センターヒロシマ平和メディアセンター 発刊/中国新聞社)

記録にない死者、消えた街並み……。広島への原爆投下から75年、被害の実態が未解明となっている背景を探り、取材や写真収集を通じて「ヒロシマの空白」を埋める試み。2019年11月からの『中国新聞』連載を再構成した一冊。


堀行丈治

堀行丈治[ぶるぼん企画室]

原稿屋「ぶるぼん企画室」代表。ウェブマガジン「INTERVIEW JAPAN」を運営。読書よりも執筆が、見ることよりも撮ることが好き。仕事の傍らで小説も書いている。第2回庄原文芸大賞・短編小説の部佳作「返納」は、Amazon Kindleで発売中。

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