コラム 2021/09/03

表現活動のパワーを生み出した彼女たちの「誇り」【アジアンドキュメンタリーズ】伊達文香さんが『サーカス・カトマンズ たとえ堕ちたとしても』を語る

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アジアの優れたドキュメンタリー映像を配信する「アジアンドキュメンタリーズ」。戦争、貧困、環境、人権など、アジアの社会問題に鋭く切り込んだラインナップが特徴だ。その作品の魅力を発信するべく実現した、FLAG!とのコラボレーション企画「映像と本で知るアジアの現実」第7弾。

今回はインドをはじめとした途上国の美しい刺繍を世界に届けるブランド “itobanashi(イトバナシ)”の伊達文香さんが『サーカス・カトマンズ たとえ堕ちたとしても』を視聴。人身売買被害を乗り越えて自立してゆく女性たちの強さについて語ってもらった。

サーカス・カトマンズ たとえ堕ちたとしても 【日本初公開】

【作品内容】
毎年、約1万人の女性と子どもが、ネパールからインドへ売られる。このルートは世界的にみても人身売買の数が多い。売買された子どもの行き先の1つがサーカスだ。ほとんどの場合、子どもたちは身体的および性的に虐待を受けるという。インドのサーカスから救出されたネパール人のサラスヴァティーは、8歳でサーカスに連れてこられ、14歳でオーナーの息子と結婚し、双子の男の子を産んだ。彼女は、社会復帰を支援する慈善団体の保護を受けながら、やがて自分と同様にサーカスへ売られ、傷ついた仲間たちと出会い、次第にもう一度サーカスへの思いを募らせていく。ネパールで唯一の、新しいサーカスを結成するのだ。

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その場の空気さえ伝わってくる臨場感

株式会社itobanashi代表取締役の伊達文香さん

――数あるアジアンドキュメンタリーズの作品の中で『サーカス・カトマンズ』を視聴したのはなぜですか。
学生時代に何度かインドを訪ねるうちに知ったのが、人身売買の被害者の女の子たちが売春街でも働いていること。その子たちを保護して教育や縫製の職業訓練を行っている NGO に関わるようになりました。その後、半年くらいインドに留学したのですが、その時も人身売買の被害女性たちを支援する NGO と一緒に、彼女たちが作った商品をプロモーションするためのファッションショーを開催。個人的には人身売買という社会問題はかなり身近と言うか、関心の高いキーワードでした。

――作品の中で、ご自身の経験と合致することはありましたか。
私がインドで出会った人身売買の被害者女性は3分の1くらいがネパール出身でした。最初に女の子たちが救出されるシーンは、その場のにおいや雑踏の雰囲気まで想像できるというか……まるで自分もその場にいるような感覚。空気感が伝わってくる作品だなと思いました。

 

彼女たちの居場所を奪う貧困という問題


――最も心に残ったことは何ですか。
番衝撃的だったのは、インドのサーカス団から救出されて施設に入った主人公のサラスヴァティーが、「サーカスにいた時の方が幸せだった」と言ったこと。私は、自分が出会ってきた人たちの人生の断片しか知らなかったんだと痛感しました。私の関わり方は、保護されて施設にいる女性たちを訪問して、何か一緒にアトラクションをするような、1日だけを切り取ったもの。彼女たちの人生を地続きで考えたときに、人身売買の被害に遭って売り飛ばされたとはいえ、そこでの思い出があることを想像していませんでした。

――居場所がなかった彼女たちが、サーカス団に居場所を見つけていたようにも思えました。
インドのサーカス団のことを「家族みたいだ」と言っていたことにすごく矛盾を感じましたが、本当の家族が迎えに来ても、結局は貧しくて一緒に住めない。どっちが本当に心に寄り添った家族なのかは、分からないなって思いました。
人身売買はもちろん違法だし悪事なのですが、彼女たちが生まれ育った家が、賃貸で子どもは10人以上いて、その中でどんな選択肢があったのか……何て言ったらいいんでしょうか、人身売買されてしまう以外の居場所を作ろうと思った時に、作れる環境だったのかなと思いました。学校に行けていないかもしれませんし、単に「人身売買さえなくなれば彼女たちはハッピーだ」というのは誤解だったと感じました。

 

個の強さがチームになることでスケールアップ


――サーカス団から救出された彼女たちが、またサーカス団を結成しました。その心情はどう理解されますか。
ドキュメンタリーなのにこんなドラマが生まれるのだということにまず感動しました。彼女たちの内側からあふれ出てくる思いとして、「やっぱり自分たちにはサーカスしかない」と。それもインドで演じていたようなものではなく、自分達らしいサーカスをしたいというのがすごく面白く、人間の根源的な強さを感じました。人身売買の被害に遭わないための啓発活動も、自分たちが表現活動を通して人の役に立とうとしているわけです。すごく感銘を受ける部分でした。

――思い出したくないこともたくさんある中で、それでも目標に向かって生きていける。人間的な強さを感じます。
それがまたサーカス・カトマンズというチームになって、さらに強くなっていることが作品中に感じられます。最初はサラスヴァティー一人にフォーカスしていたのが、徐々に男性も含めたチーム全体が見えるようになり、いろいろな人間の強さが見てとれました。
海外公演や地方公演に行くときの映像では、すごくはしゃいでいて楽しそうでした。同世代で出かけるときの若者たちは、サングラスをかけて新品のジーンズをはいて、「キメた」人が多い。インドの日常的なシーンです。この映画はインドやネパールに行ったことがある人にもお薦めです。現地に行かなければ触れられない、彼らの日常はもちろん、真の強さや人間性、苦悩も垣間見えました。

 

感じたことを自分に落とし込むことが大切


――主人公が「字が読めないから行きたい場所にも行けない」と言う場面がありました。伊達さんは教育活動もされていますね。
文字が読めないということは、私たちに置き換えれば目が見えないのと同じくらいのこと。日々目に入ってくるのは情報の多くは活字。それがゼロになるということは、想像を超えた怖さがあります。
しかしこれを「教育って大事だよね」「格差は是正していかないといけないよね」と、普遍的な問題に置き換えた途端に、「自分事じゃなくなる」感覚があって、誰もが辿り着くけれども、誰も解決できない問題になってしまいます。
私はファッションという小さなアクションから、インドの刺繍職人さんたちの暮らしを豊かにしていきたい。アジアだけでも溢れるほどある社会問題のほんの一部にしかアクションを起こせていませんが、この作品を観て「自分は何をするか」が大切。何かに落とし込まないと、変わるものも変わっていかないと、改めて思いました。

――ネパールではサーカス団がネガティブなものと思われていましたが、彼らにとっては大きな誇りになっていました。
かつてインドのサーカス団に売られた女性が「参加したい」と名乗り出たり、高齢の女性たちが「気にせずにやればいい」と応援したりといったシーンは、彼女たちの誇りが周囲に伝播している証拠なのだと思いました。自分たちのことを、まず自分たちで誇りに思って創作活動を続けるという部分は、私自身へのエールやパワーにもなる作品でした。

 

■語り部プロフィール■
伊達文香(だてふみか)
株式会社itobanashi代表取締役。途上国、主にインドの刺繍を扱うファッションブランド゙「itobanashi」を2017年に設立。出身地の奈良県五條市と広島県東広島市を拠点に、インド刺繍生地を使った洋服の製造・販売や雑貨販売を行う。イベントや商業施設のポップアップストアへの出展などでもインド刺繍の魅力を伝えている。

■今回見たドキュメンタリー映画■
『サーカス・カトマンズ たとえ堕ちたとしても 【日本初公開】』
アジアンドキュメンタリーズにて配信中


『サーカス・カトマンズ たとえ堕ちたとしても 【日本初公開】』
2020年製作/作品時間90分/製作国:イギリス/撮影地:ネパール、インド
監督:スカイ・ニール、ケイト・マクラーノン

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アジアンドキュメンタリーズとは

株式会社アジアンドキュメンタリーズは、優れたアジアのドキュメンタリーを世界へ配信し、アジアでドキュメンタリー制作者ネットワークの構築をめざす日本の新しい映像配信会社です。配信するコンテンツは、アジア各国で作られたドキュメンタリー映画を中心に、当社オリジナルのコンテンツもラインナップに加えていきます。

テレビでは放送されない、タブーに切り込む作品の数々。

テレビは人々が信頼を寄せる巨大な映像メディアですが、そこには大きなタブーも存在します。当然のことかもしれませんが、広告主や視聴率に悪い影響をもたらすもの、特定の業界から強い反発が予想されるような自らの立場を危うくするテーマをなかなか取り扱いません。しかし私たちは小さな市民メディアとして、テレビが取り上げないドキュメンタリー作品こそ大切にしたいと考えています。

「衝撃」「感動」「覚醒」… 優れたドキュメンタリーがあなたを揺さぶる。
優れたドキュメンタリーは、あなたに驚くほどの衝撃を与えることでしょう。それは今までの人生で築き上げられた価値観が壊れてしまうこともあるほどのものです。また作品によっては深い感動や共感を抱くこともあるでしょう。それが激しい怒りや悲しみ、絶望かもしれません。しかし、私たちが一つのドキュメンタリーと向き合うことで、新しい何かが生まれていきます。ドキュメンタリーは、私たちを奮い立たせるエネルギーを与えてくれます。自らの生き方を問い直すきっかけになるかもしれません。

毎月厳選してお届けする〝特集編成〟と〝オリジナル解説〟
私たちは作品の価値を高めるために、複数の作品を組み合わせて視聴することをお勧めしています。それが特集編成です。またそれぞれの作品について、今見る価値をしっかりお伝えし、過去の作品であっても、そこから得られるものがいかに大きいかをわかりやすく解説いたします。

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<関連おすすめ書籍>
■アジアをもっと知る本■

 

『少女売買 インドに売られたネパールの少女たち 』(著/長谷川まり子 発刊・発売/光文社 )

年間7千人ものネパール人少女が人身売買され、その半数以上がHIVに感染し、死と向かい合っている……。本書は、被害者たちと共に歩んだ日本人ボランテイア10年間の全記録。第7回新潮ドキュメント賞受賞作品。


堀行丈治

堀行丈治[ぶるぼん企画室]

原稿屋「ぶるぼん企画室」代表。ウェブマガジン「INTERVIEW JAPAN」を運営。読書よりも執筆が、見ることよりも撮ることが好き。仕事の傍らで小説も書いている。第2回庄原文芸大賞・短編小説の部佳作「返納」は、Amazon Kindleで発売中。

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