「知る」ということの重みと価値を感じたい【アジアンドキュメンタリーズ】江藤宏樹が語る『ブラッド・ブラザー(ノーカット完全版 日本初公開)』
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アジアの優れたドキュメンタリー映像を配信する「アジアンドキュメンタリーズ」。戦争、貧困、環境、人権など、アジアの社会問題に鋭く切り込んだラインナップが特徴だ。その作品の魅力を発信するべく実現した、FLAG!とのコラボレーション企画「映像と本で知るアジアの現実」第5弾。今回は〈関連おすすめ書籍〉の選書を担当する広島 蔦屋書店の文学コンシェルジュ、江藤宏樹さんが『ブラッド・ブラザー(ノーカット完全版 日本初公開)』を視聴。「知る」ことの意味と価値について語ってもらった。
ブラッド・ブラザー(ノーカット完全版 日本初公開)
【作品内容】
発達障害児とされ、幼少のころから常に孤独だった青年ロッキーは、死と隣り合わせのエイズ孤児たちのために、すべてを投げうって、縁もゆかりもないインドへ渡った。それはロッキー自身が、子どもたちから大切なものを得ていたから。孤独の悲しみの深さを知っている者だからこそ、分かち合える思いがあった。
動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」
月額990円(税込)で全作品見放題 / 作品ごとの視聴は495円(税込)
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ドキュメンタリーの魅力に気付いた作品
――この作品を観たきっかけを教えてください。
TBSラジオの番組『アフター6ジャンクション』の中で、アジアンドキュメンタリーの特集があり、『ブラッド・ブラザー』が紹介されました。番組内ですごく絶賛されていて、「ある奇跡が起きる」という言葉が耳に残りました。作品のあらすじは紹介文を読めば分かるのですが、その奇跡とは何なのかがすごく気になったんです。視聴してみたらもう、めちゃくちゃ面白くて……。それ以来ずっと月額見放題会員なのですが、最初に観た『ブラッド・ブラザー』の印象が一番強いです。
――観終えたとき、どんなことを感じましたか?
主人公ロッキーの誠実さが心に残りました。最初は、子どもの相手なんて得意じゃないし、訪れたらすぐに去ってインド観光をしようという思いでいましたよね。でもそこで、自分が子どもたちから必要とされていることに気付く。米国での生活を全て捨てて、子どもたちと一緒にそこで暮らそうと思うところに、彼自身の心の声に素直に従う、すごく誠実な人間性を感じました。
全ては「知る」ことから始まる
――インドのエイズ孤児院で子どもたちの世話をするというあらすじだけを読めば、ものすごく強い志を持って行ったんじゃないかと想像しますよね。
映画の序盤では、いまどきの若者っぽいんですよね。僕もそれが意外でした。エイズ孤児院に行って子どもたちと触れ合って、ロッキーは初めてその子たちのことを知る。彼を変えたのは「知ることの重さ」ではないでしょうか。それを知らなければたぶん、米国に帰ってそれまで通りに普通に暮らしていたと思うんです。
――知ってしまったら、もう戻れなくなった。
「知る」ということは、それぐらい重いことなんでしょうね。ドキュメンタリーを観ることも「知る」ことですから、躊躇してしまう人の気持ちもすごく分かります。だけど僕は、「知る」という行為そのものに価値があると思うんです。『ブラッド・ブラザー』でインドのエイズ孤児院のことを知ったからといって、なにも「インドに行って、子どもたちを助けなければならない」ということはありません。気持ちの中で少しでも、例えば友達の子どもに対して優しくなれたら、それでじゅうぶんだと思うんですよね。
監督も視聴者も、ともに成長していく
――私は作品を観るまで、HIV感染者に対してかなりの誤解や偏見がありました。
僕もすごく偏見がありました。この作品の監督、スティーブも最初は「なんでそんな所に行くんだ」と言っていましたよね。でも、ロッキーを撮り続ける中で次第にスティーブ自身が変わってきて、見ている僕らも彼と同じように何かが変わっていく。単にロッキーの活動を追うのではなく、スティーブの目を通して僕らも一緒に経験している気持ちになれました。
――すごく重いテーマなのに、観終えると爽やかというか……。
そうなんですよ。最後にすごく温かくて爽やかな気持ちになるんですよね。観た後にどんよりとした気持ちになったり、溜め息をついたりするようなものではありませんでした。
――紹介文を読むと、絶対に暗い映画だろうと思っていました。
見事に裏切られましたね。なんだかすごくいい映画を観たなと。この感覚は他の作品では感じられないですね。ロッキーがだんだんと良い顔になっているし、最後に幸せ感がすごく満ちてきて、不思議と心地良くなりますよね。これは本当に観て良かったなって。
もう一つ、ドキュメンタリーのすごいところというか「事実は小説より奇なり」というか……。ロッキーの誠実さが、中盤から後半にかけての奇跡的な出来事を起こしたシーンは、本当に感動しかありませんでした。
リアルだからこその説得力と満足感
――奇跡なんて起こりえないような悲しい世界の中で。
作り物のドラマなら、「あの奇跡はフィクションだからできることでしょ」と思われて、嘘臭くなりますよね。でもこれは、「本当なんだからしょうがないだろ」って。ドキュメンタリーだからこその説得力があるんですよ。
――今までフィクション作品しか見たことがない人向けとしても、すごく良いドキュメンタリー作品なのかなと思います。
映画的な面白さがありますもんね。最後はハッピーエンドですし。フィクションの映画が大好きでドキュメンタリーはあまり観たことがないという人が最初に観るのにちょうど良い、映画ファン的にも満足できる作品だと思います。後味が良いので、みんなに安心して勧められます。途中は結構しんどいかもしれませんが、最後まで見たら絶対に爽やかな気持ちになれますから。
■語り部プロフィール■
江藤宏樹(えとう・ひろき)1975年生まれ。広島市出身。広島 蔦屋書店の文学コンシェルジュとして文芸書コーナーを担当するほか、副店長として店舗運営にも携わる。好きなジャンルはミステリーやSF、ノンフィクション、純文学など。
■今回見たドキュメンタリー映画■
『ブラッド・ブラザー(ノーカット完全版 日本初公開)』
アジアンドキュメンタリーズにて配信中
「ブラッド・ブラザー(ノーカット完全版)」【日本初公開】
2013年製作/インド・アメリカ/作品時間92分
動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」
月額990円(税込)で全作品見放題 / 作品ごとの視聴は495円(税込)
ドキュメンタリーの視聴はクレジットカード決済で、いつでもすぐに視聴できます。
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アジアンドキュメンタリーズとは
株式会社アジアンドキュメンタリーズは、優れたアジアのドキュメンタリーを世界へ配信し、アジアでドキュメンタリー制作者ネットワークの構築をめざす日本の新しい映像配信会社です。配信するコンテンツは、アジア各国で作られたドキュメンタリー映画を中心に、当社オリジナルのコンテンツもラインナップに加えていきます。
テレビでは放送されない、タブーに切り込む作品の数々。
テレビは人々が信頼を寄せる巨大な映像メディアですが、そこには大きなタブーも存在します。当然のことかもしれませんが、広告主や視聴率に悪い影響をもたらすもの、特定の業界から強い反発が予想されるような自らの立場を危うくするテーマをなかなか取り扱いません。しかし私たちは小さな市民メディアとして、テレビが取り上げないドキュメンタリー作品こそ大切にしたいと考えています。
「衝撃」「感動」「覚醒」… 優れたドキュメンタリーがあなたを揺さぶる。
優れたドキュメンタリーは、あなたに驚くほどの衝撃を与えることでしょう。それは今までの人生で築き上げられた価値観が壊れてしまうこともあるほどのものです。また作品によっては深い感動や共感を抱くこともあるでしょう。それが激しい怒りや悲しみ、絶望かもしれません。しかし、私たちが一つのドキュメンタリーと向き合うことで、新しい何かが生まれていきます。ドキュメンタリーは、私たちを奮い立たせるエネルギーを与えてくれます。自らの生き方を問い直すきっかけになるかもしれません。
毎月厳選してお届けする〝特集編成〟と〝オリジナル解説〟
私たちは作品の価値を高めるために、複数の作品を組み合わせて視聴することをお勧めしています。それが特集編成です。またそれぞれの作品について、今見る価値をしっかりお伝えし、過去の作品であっても、そこから得られるものがいかに大きいかをわかりやすく解説いたします。
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<関連おすすめ書籍>
■アジアをもっと知る本■
『あんた、ご飯食うたん? 子どもの心を開く大人の向き合い方』(発刊・発売:カンゼン )
40年にわたり、200人以上の非行少年・少女たちに自宅アパートで無償で食事を提供しつづけた”ばっちゃん”こと中本忠子さんの著書。居場所のない子どもたちに手料理を作り続け、「広島のマザーテレサ」とも呼ばれた中本さんのメッセージが心に響く。
堀行丈治[ぶるぼん企画室]
原稿屋「ぶるぼん企画室」代表。ウェブマガジン「INTERVIEW JAPAN」を運営。読書よりも執筆が、見ることよりも撮ることが好き。仕事の傍らで小説も書いている。第2回庄原文芸大賞・短編小説の部佳作「返納」は、Amazon Kindleで発売中。
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