コラム 2021/04/02

観て何かを感じたら、次のアクションに移してほしい【アジアンドキュメンタリーズ】

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アジアの優れたドキュメンタリー映像を配信する「アジアンドキュメンタリーズ」。戦争、貧困、環境、人権など、アジアの社会問題に鋭く切り込んだラインナップが特徴だ。その作品の魅力を発信するべく実現した、FLAG!とのコラボレーション企画第2弾。今回は映画批評家で大学院講師の世良利和さんが、「石川文洋を旅する」を視聴。石川文洋氏と親交のある世良さんならではの視点で、作品をレビューしてもらった。

石川文洋を旅する

【作品内容】
ベトナム戦争の従軍取材で知られる戦場カメラマンの石川文洋さんの軌跡をたどるドキュメンタリー映画です。カメラはベトナムや沖縄を再訪する石川さんを追いながら、石川さんの視点で「ベトナム戦争」の記憶を紐解いていきます。

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石川文洋とベトナム、そして沖縄

今回の視聴者:世良利和さん(大学院講師、映画批評家)

――世良さんは石川文洋さんとのお付き合いがあるとお聞きしました。
20年ほど前から、沖縄の映画史を調べていました。その中で、1934年に作られた沖縄映画の監督、石川文一にたどり着いたんです。どんな人なのか、詳しく知りたいと思い周囲に尋ねましたら、「その人の息子さんがいらっしゃる」と、文洋さんを紹介されたんです。2008年ごろのことです。文洋さんの著書は読んでいましたけど、お会いしたのはその時が初めてでした。取材を重ね、親交を深めていくうちに、岡山に来るときには連絡をいただいたり、著書ができたら送っていただいたりするようになりました。

――作品を観て感じた「文洋さんらしさ」はありますか。
言葉と行動に表裏がない人なんですよね。「人が好さそう」という雰囲気そのままの人で、映像にでてくる柔和なイメージ通りです。しかし、最も文洋さんらしいなと思ったシーンは、制作者からベトナム従軍時代のことを「死に場所を探していたんじゃないですか」と問われて、即座に「それはない」と否定したところです。これは、「生きていてこそ価値がある」という、数多の戦場を経験した人だから言える言葉の重みではないでしょうか。一ノ瀬泰三さんや沢田教一さんの他にも、戦場で亡くなったジャーナリストはたくさんいますから。

――文洋さんの著書を引用したナレーションでも「狙撃された経験もある」と語っていました。
初めて赴いた戦地がベトナムだったことは、文洋さんにとって大きな意味があったのだと思います。平和な農村が、ある日突然戦場となり、農民が犠牲になる。そんなシーンをたくさんカメラに収めていくわけです。結果的に文洋さんは、自身が経験していない沖縄戦を、ベトナムで疑似体験することになったのではないでしょうか。
B52爆撃機が沖縄からベトナムに向けて飛び立ち、ベトナムから帰還した戦車や兵士が沖縄に集う。ベトナムと沖縄は切り離せない関係にあることも、同時に感じさせる作品でした。

 

過去と現在の対比が生み出す「落差」

――1つのドキュメンタリー映画として観たとき、この作品の魅力はどこにあると思いますか。
思想的な立場を押し付けない、嫌みのないドキュメンタリー映画です。報道に規制をかけない、米軍のオープンな姿勢も影響しているかもしれませんし、思いを声高に主張しない文洋さんの性格によるところもあるでしょう。文洋さんがどういう思いなのかは、すべて写真が語っていますから、その背景を探る上でとても分かりやすい作品です。
また、「撮る側の人を撮る」という視点も面白いですね。ジャーナリスト石川文洋の「現在」や「日常」が随所に挿入されていて、それを従軍時代のベトナムの体験と対比することで「落差」のようなものが現れています。

――テーマは重いのですが、ものごとが静かに進んでいく印象を受けました。
破綻のないまとめ方のドキュメンタリーです。また、「結論ありき」といった押しつけがましさを感じることもありませんでした。欲を言えば、文洋さんとサシで勝負するような場面が見たかった。収録のすべてが作品化されるわけではないので断定はできませんが、文洋さんの負の側面に迫るというか、もう少し踏み込んでも良かったのではないかと思います。また、ご家族のことはほとんど描かれていません。決して一人で生きてきたわけではないのですが……。あるいは、文洋さんの沖縄への思いは伝わってきたのですが、沖縄の人たちが文洋さんをどう評価しているのかはあまり描かれていなかった。作品では、対馬丸事件※の回想が同時進行しますが、文洋さんの半生との関連付けができればなお良かったですね。ないものねだりかもしれないですけれど。

 

深掘りする価値のある、石川文洋への入り口

――この作品をきっかけに、石川文洋さんに興味を持つ人も多いと思います。
嫌味のない作品ですので、観る側は受け入れやすいでしょう。文洋さんの足跡はこの作品だけでは紹介しきれない、膨大なものがあります。興味を持った人はここで完結するのではなく、書物でも追いかけてみることを勧めます。図書館には必ず文洋さんの代表作『戦場カメラマン』があります。「ベトナム戦争を知りたければ、まずこれを読め」と言われる本ですので、ぜひ読んでみてください。
このドキュメンタリーは、観る人がそこから何を感じるのか、問題意識をどう開いていくのか、そういったきっかけになる作品だと思います。

※対馬丸事件…1944年、沖縄から疎開児童たちを乗せて九州に向けて運航中の対馬丸が、米軍潜水艦の攻撃を受けて沈没。犠牲者は判明しているだけで1484人。事件発生当時は箝口令が敷かれた。

■語り部プロフィール■
世良利和(せら・としかず)
1957年島根県大社町生まれ。岡山大学大学院非常勤講師。映画批評家。著書に『沖縄劇映画大全』、『その映画に墓はない』、『まあ映画な、岡山じゃ県』(いしいひさいち共著)など。

■今回見たドキュメンタリー映画■
石川文洋を旅する


「石川文洋を旅する」
出演 石川文洋
監督・企画・製作 大宮浩一
撮影 山内大堂、加藤孝信
2014年製作/日本/作品時間109分

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ドキュメンタリーの視聴はクレジットカード決済で、いつでもすぐに視聴できます。

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アジアンドキュメンタリーズとは

株式会社アジアンドキュメンタリーズは、優れたアジアのドキュメンタリーを世界へ配信し、アジアでドキュメンタリー制作者ネットワークの構築をめざす日本の新しい映像配信会社です。配信するコンテンツは、アジア各国で作られたドキュメンタリー映画を中心に、当社オリジナルのコンテンツもラインナップに加えていきます。

テレビでは放送されない、タブーに切り込む作品の数々。

テレビは人々が信頼を寄せる巨大な映像メディアですが、そこには大きなタブーも存在します。当然のことかもしれませんが、広告主や視聴率に悪い影響をもたらすもの、特定の業界から強い反発が予想されるような自らの立場を危うくするテーマをなかなか取り扱いません。しかし私たちは小さな市民メディアとして、テレビが取り上げないドキュメンタリー作品こそ大切にしたいと考えています。

「衝撃」「感動」「覚醒」… 優れたドキュメンタリーがあなたを揺さぶる。
優れたドキュメンタリーは、あなたに驚くほどの衝撃を与えることでしょう。それは今までの人生で築き上げられた価値観が壊れてしまうこともあるほどのものです。また作品によっては深い感動や共感を抱くこともあるでしょう。それが激しい怒りや悲しみ、絶望かもしれません。しかし、私たちが一つのドキュメンタリーと向き合うことで、新しい何かが生まれていきます。ドキュメンタリーは、私たちを奮い立たせるエネルギーを与えてくれます。自らの生き方を問い直すきっかけになるかもしれません。

毎月厳選してお届けする〝特集編成〟と〝オリジナル解説〟
私たちは作品の価値を高めるために、複数の作品を組み合わせて視聴することをお勧めしています。それが特集編成です。またそれぞれの作品について、今見る価値をしっかりお伝えし、過去の作品であっても、そこから得られるものがいかに大きいかをわかりやすく解説いたします。

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<関連おすすめ書籍>
■石川文洋をもっと知る本■

『戦場カメラマン』(著者:石川文洋/発売:ちくま文庫)

銃弾砲弾が飛び交う最前線。死線を越えた写真家の眼前で米兵が頭を撃ち抜かれ、擲弾銃によって解放軍兵士が吹き飛んだ。米ソ冷戦を背景にしたベトナムの悲惨な戦場、自国民を大虐殺したカンボジア。祖国を守るため、自由を得るため、差別や貧困から脱するため、戦う兵士、破壊される農村民。戦争ドキュメントの最高峰。

 


堀行丈治

堀行丈治[ぶるぼん企画室]

原稿屋「ぶるぼん企画室」代表。ウェブマガジン「INTERVIEW JAPAN」を運営。読書よりも執筆が、見ることよりも撮ることが好き。仕事の傍らで小説も書いている。第2回庄原文芸大賞・短編小説の部佳作「返納」は、Amazon Kindleで発売中。

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