言葉に責任があることを今一度考えたい 信念を貫ける「強さ」こそがジャーナリズム【アジアンドキュメンタリーズ】
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アジアの優れたドキュメンタリー映像を配信する「アジアンドキュメンタリーズ」。戦争、貧困、環境、人権など、アジアの社会問題に鋭く切り込んだラインナップが特徴だ。その作品の魅力を発信するべく、FLAG!とのコラボレーションが実現した。第1回はFLAG!編集長の堀友良平が、「我らはジャーナリスト 報道の不自由な国イラン」を視聴。イランのジャーナリズムについて語る。
我らはジャーナリスト 報道の不自由な国イラン 【日本初公開】
【作品内容】
イラン人ジャーナリストたちが、口々に証言する。「イランでのジャーナリズムは、牢の中のジャーナリズム」。「イランでのジャーナリズムは、狼と踊るようなもの」。「イランでのジャーナリズムは、猫から逃げる鼠」。「イランでのジャーナリズムは、地雷原での散歩」。「俺たちは剃刀の刃を渡る」。イランでの報道の仕事が、いかに危険で理不尽なものであるかを彼らの言葉が物語っている。当作品は、メディア規制が厳しいイランの「現実」を映像で紡いでいきます。
動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」
月額990円(税込)で全作品見放題 / 作品ごとの視聴は495円(税込)
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政権寄りのメディアさえ粛清される国家が今も
――作品を見終えての気持ちは?
いち視聴者として見て「すごいな」と……。何かと比較することが難しい作品でした。
率直に感じたのは、国は体制を主導する人たちのものでしかないということ。体制が脆い国家は特に。日本では、いろいろと政権を批判できますよね。そういう意味では体制的に強い国家なのでしょう。
作品にもあった2008年、2009年の大統領選挙の顛末が、まさにそうなんだろうなと……。独裁国家という言い方がいいのかどうか分からないのですが、国民は何を信じて生きていけばいいんだろうかと思いました。
衝撃的だったのは、30~40ある新聞が軒並み発禁になったことです。政権派の新聞すら批判記事を書いたら発禁になりました。権力者が恐れていたのは言論の自由による国民の力なのかなと。だから検閲をかけていた。そんな国家が今も続いているんですね。
同作はジャーナリストの視点なので、言論や表現の自由を支持する人にフォーカスしていますを描いていますが、旧体制に幸せを感じている人もいたんですよね。だから、この作品を見るとイランを「なんて不自由な国だ」と思ってしまいがちですが、外国から見た我々がイランという国の良し悪しを一概に判断はできないと思います。そういう意味で、何かと比較するのは難しい作品だなと感じました。
――圧力や恐怖心などに負けず、自分たちの報道を続ける彼らから学んだことは?
みんなイランという国を愛しているんだと感じました。国外で暮らしていてもみんな口々に「帰りたい」と言い、今のイランの状況を嘆いている。それは愛国心があればこその思い。投獄中の人も、イランをこんな国にしたくないという思いで耐えています。そこが一つの軸ではないでしょうか。
祖国を良くしたいとか守りたいとか、そういう思いで正しいことを「正しい」、間違っていることは「間違っている」と批評することがジャーナリズムだとしたら、僕にはなかなかできません。それを貫ける強さは、たぶん祖国への思い。僕は、恥ずかしながらそこが希薄だと自覚しています。「日本を良くするために……」という壮大な思いが、そこまで強くないんですよ。ジャーナリズムって強いなと思います。
ジャーナリズムの原点を感じた、彼らの愛国心
――登場するジャーナリストはみな、投獄されたか国を追い出されたかでした。
投獄されても信念を貫くところはジャーナリストなのだなと。「ジャーナリズムとは何なのか」という映像でした。報道されていないだけで、こういう国は他にもあるんだろうと思います。作品を見たからこそ気づくことですが、僕たちは幸せですよ。
――圧力や恐怖心などに負けず、自分たちの報道を続ける彼らから学んだことは?
みんなイランという国を愛しているんだと感じました。国外移住や逃亡せざるを得なかった人たちが口々に「帰りたい」と言い、今のイランの状況を嘆いている。それは愛国心があればこその思い。投獄中の人も、イランをこんな国にしたくないという思いで耐えています。そこが一つの軸ではないでしょうか。
祖国を良くしたいという思いで、正しいことを「正しい」、間違っていることは「間違っている」と批評することがジャーナリズムだとしたら、僕にはなかなかできません。それを貫ける強さは、たぶん祖国への思い。僕はそこが希薄だと思うんです。ジャーナリズムって強いなと思います。
書ける幸せ、言える幸せ、自由を意識できる作品
――作品の一番の見どころは?
印象的だったのは最初のナレーションと最後のナレーション。同じ言葉なのに、重さが全く違いました。ここまでのことが起きたら書きたくなるのが普通だけど、書けないという状況。日本でも戦時中に検閲がありましたが、その時代に生きた新聞記者と似たような思いなのかなと……。
市民生活には触れていませんでしたが、イランという国の報道についてはよく分かりました。作品を観た後にいろいろと調べてみたんですが、去年の12月にもジャーナリストが処刑されましたから、今も弾圧が続いているんですよね。イランではフェイズブックやツイッターが禁止されていて、唯一許されているソーシャルネットワークメディア(SNS)「Instagram」でさえ、10代の少女が欧米の音楽に合わせて踊る動画を投稿したただけで拘束されている。日本では信じられない事実です。
――ドキュメンタリーだからこそ伝わってきたものがありますか?
表現で社会を変えるという意味において、映画監督や舞台作家もジャーナリストだと思っていますが、映像のリアリティーはドキュメンタリーならではのものですね。衝撃の映像ばかりでした。登場人物が役者ではなく当人であることの生々しさ。撮る側のバイタリティーや信念にも感動しました。撮影者のジャーナリズムも伝わってきました。
――イランの現実を知ったことで、堀友さん自身に何か影響はありますか
平和な国でこうして仕事ができているのも、ちゃんとした国家があるからです。日常生活で「表現や言論の自由」を意識したことは、あまりありません。余程のことでない限りは「これを書いたら投獄される」ということもなく、すごく恵まれた環境にいると気づきました。
日本でも、言論や表現の自由をめぐって賛否がありますが、イランではそれ以前の話。我々は自由が保障されている中で言い合っていますから、比較すらできませんね。賛否両論の議論が自由にできるということは、幸せな証拠なんです。SNSが普及する中で、改めて「言葉」の重みということを、今一度考えたくなる作品でもあります。
■今回見たドキュメンタリー映画■
我らはジャーナリスト 報道の不自由な国イラン 【日本初公開】
「我らはジャーナリスト 報道の不自由な国イラン」
監督:アフマド・ファラハニ
2014年製作/イラン/作品時間85分
動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」
月額990円(税込)で全作品見放題 / 作品ごとの視聴は495円(税込)
ドキュメンタリーの視聴はクレジットカード決済で、いつでもすぐに視聴できます。
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アジアンドキュメンタリーズとは
株式会社アジアンドキュメンタリーズは、優れたアジアのドキュメンタリーを世界へ配信し、アジアでドキュメンタリー制作者ネットワークの構築をめざす日本の新しい映像配信会社です。配信するコンテンツは、アジア各国で作られたドキュメンタリー映画を中心に、当社オリジナルのコンテンツもラインナップに加えていきます。
テレビでは放送されない、タブーに切り込む作品の数々。
テレビは人々が信頼を寄せる巨大な映像メディアですが、そこには大きなタブーも存在します。当然のことかもしれませんが、広告主や視聴率に悪い影響をもたらすもの、特定の業界から強い反発が予想されるような自らの立場を危うくするテーマをなかなか取り扱いません。しかし私たちは小さな市民メディアとして、テレビが取り上げないドキュメンタリー作品こそ大切にしたいと考えています。
「衝撃」「感動」「覚醒」… 優れたドキュメンタリーがあなたを揺さぶる。
優れたドキュメンタリーは、あなたに驚くほどの衝撃を与えることでしょう。それは今までの人生で築き上げられた価値観が壊れてしまうこともあるほどのものです。また作品によっては深い感動や共感を抱くこともあるでしょう。それが激しい怒りや悲しみ、絶望かもしれません。しかし、私たちが一つのドキュメンタリーと向き合うことで、新しい何かが生まれていきます。ドキュメンタリーは、私たちを奮い立たせるエネルギーを与えてくれます。自らの生き方を問い直すきっかけになるかもしれません。
毎月厳選してお届けする〝特集編成〟と〝オリジナル解説〟
私たちは作品の価値を高めるために、複数の作品を組み合わせて視聴することをお勧めしています。それが特集編成です。またそれぞれの作品について、今見る価値をしっかりお伝えし、過去の作品であっても、そこから得られるものがいかに大きいかをわかりやすく解説いたします。
<動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」>
■語り部プロフィール■
堀友良平(ほりとも・りょうへい)
東京都出身。学研を経てザメディアジョンへ。企画出版、web、SNS、冊子などを編集。
■報道規制の怖さを知る本■
『日没』(著者:桐野夏生/発売:岩波書店)
国家によって言論や表現の自由が規制された近未来の世界を描く小説です。「表現の自由」が奪われる恐怖。そして「権力」によってそれが規制された時には、すでに取り返しがつかないという怖さ。本書はフィクションですが、現実の出来事を書いているのではないかと思うようなリアリティがあります。読みおえたとき、改めて「ジャーナリズム」の大切さを考えさせられる作品です。
<本を選んだ人>
広島T-SITE 広島 蔦屋書店 文芸コンシェルジュ
江藤 宏樹(えとう・ひろき)さん
堀行丈治[ぶるぼん企画室]
原稿屋「ぶるぼん企画室」代表。ウェブマガジン「INTERVIEW JAPAN」を運営。読書よりも執筆が、見ることよりも撮ることが好き。仕事の傍らで小説も書いている。第2回庄原文芸大賞・短編小説の部佳作「返納」は、Amazon Kindleで発売中。
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