路地裏に佇むサブカル色で塗り潰された古書店【横川】
- アンダーグラウンド
- エロ
- サブカル
- 古書店
- 古本
- 広島ニュースタンダード

怪しい店が集う横川で
横川駅から5分ほど歩いた路地裏に、いまでも営業している老舗映画館「横川銀映」がある。昨年11月にリニューアルされ「横川有楽座」と名前を変えた。昭和29年からこの地で映画を上映し続けている、横川や広島の歴史を知る生き証人だ。上映するのは、今も昔も変わらずの「成人向けポルノ映画」一筋。その隣の建物は、これまた横川とともに歴史を刻み続けている、カオスと言う言葉がピッタリと当てはまる「竹田衣料品店」の裏入口。決してキラキラと輝きを放つことはないが、感性の奥底になぜか引っかかる、広島のアンダーグラウンドな老舗たち。
この夏のうだるような暑さの中、その通りで作業をする一人の男性がいた。しばらく「テナント募集」の貼り紙があった、古いビルの1階だ。たくさんのダンボールを運び入れる傍らで、仲間らしき人がペンキで店内の壁を塗っている姿も見えた。窓には『ロマン堂書店』と掲げられている。どうやら古書店が開店するようだ。
中学生のころからコレクト

エロ雑誌はもちろん、それに関するたくさんの書籍も所蔵されている
古書店「ロマン堂書店」は、向井東冥(むかい・とうめい)さんと、その仲間で作られる「エロ本資料館と古書店」。今年の8月1日にオープンし、少しずつその存在を知られつつある小さな店だ。独特な様相の古書店「本と自由」やカレー屋なのにライブを行う「外国」をはじめ、個性的な店が揃う横川の中で、有楽座の並び、まさにという立地。
しかし古書店とは掲げるものの、ロマン堂書店の2/3は向井さんが収集する昭和30年代~のエロ本で埋めつくされ、それらは資料として所蔵されている。
「僕が中学生のころから集め始めた本を置いているんです。エロ関係はコレクターですから売る気はないんですが、他にも興味がたくさんあるので、そういったジャンルの本はお譲りしています」
残りの1/3本棚を覗いてみると、宗教や思想、歴史のほか妖怪やUMAまでさまざまなジャンルの本が並ぶ。向井さんが収集していたエロ本と、興味が湧いて読み漁った本の所蔵場所が無くなってしまったのがきっかけで、古本屋を始めようと思ったらしい。
エロ本とサブカルチャー

中学生だった向井少年が衝撃を受けた雑誌「危ない1号」。ここからコレクターの道が開かれていった
「エロやポルノって聞くだけで、眉をひそめる人もいますけどね。でも僕にとっては興味の対象。昔のエロ雑誌を読み解くと、その街の歴史……たとえば広島にはその昔、どういったポルノ映画館があっただとか。そういったことも、分かってくるんです」
城や戦国武将に興味のある人は、それに関する本や文献を読み、実際に現地に足を運んで城を眺め、歴史ロマンに浸る。向井さんの興味も、それと同等だ。ただジャンルが違うだけで、眉をひそめる必要などあるはずがない。
「昔のエロ雑誌の誌面の半分はエロでしたが、残りの半分は『ドラッグ』や『音楽』、『ファッション』『映画』といったサブカルチャーの誌面が締めていることが多いんです。きっと当時の編集者たちは、エロよりもこっちの誌面に情熱を傾けていたんでしょう」
向井さんが見せてくれた一冊のエロ雑誌をめくると、前半は昭和を存分に感じるヌード写真。ページが進むにつれ『ROCK』『PUNK』『DRUG』『幻覚キノコ』などのワードが、見出しに踊る。エロはもちろん、当時の編集者をはじめ日本の若者が知りたくて仕方なかった情報が詰め込まれている。これら当時のエロ本に出てくるワードやジャンルを、綺麗にしスタイリッシュにしたものがきっと、現在でも続く『POPEYE』を代表とする男性総合誌なのだろう。
ロマン堂書店の今後に注目

ロマン堂書店には、さまざまなジャンルの古書がある。サブカル系の本も
考え方一つ、読み解き方一つで、一冊のエロ雑誌がどんどんと奥深いものになっていく。そんな魅力に魅せられた向井さんとロマン堂書店。8月にはこけら落としイベントとして全国のラブホテルを探訪し「ラブホ探訪」という冊子を執筆されている方を迎えてのトークイベントも開催された。また10月中旬にも「春画」をテーマにしたイベントも開催予定だとか。
さまざまなロマンが溢れ出すロマン堂書店の動向を、FLAG!でも注目していきたい。
店名 | ロマン堂書店 |
住所 | 広島市西区横川町2‐4‐6杉田ビル1F (Googleマップはこちら) |
営業 | だいたい13:00~17:00 |
休み | 不定 |
HP | ロマン堂書店Facebook |
※イベントの詳細などは、上記の「ロマン堂Facebook」にて
<合わせて読みたい「横川」エリアの記事>

石川淑直[株式会社ザメディアジョンプレス 企画出版編集]
広島県出身。『カープ計算ドリル』シリーズや、カープ関連書籍の編集担当。アウトドア・釣り雑誌の編集部を経て帰広。MTB、釣り、DIYとPunk Rock。いちおうFLAG!編集長の肩書はあるが、実際はお茶を淹れたりコピーを取ったりの雑用係
石川淑直の記事一覧関連記事
-
ライフスタイル
尾道にあるワンピース専門店「古着屋 ミミズク」の店主が推す一冊『ミミズクと夜の王』【人生の節目節目で読み返していきたい】
『ミミズクと夜の王』(作:紅玉いづき/発刊:メディアワークス) 自分のことを「ミミズク」と名乗る死にたがりやの女の子と、人間嫌いの夜の王のファンタジー。 ……
2021.01.20
-
ライフスタイル
横川にあるカフェ「CAFÉIZM(カフェイズム)」の店主が推す一冊『いつか伝えられるなら』【大切な人をもっと大切にしたいと思える】
『いつか伝えられるなら』(絵:鉄拳 作:つたえたい、心の手紙/発刊:SB Create) 「ただの検査入院じゃけえ」。そう言って病院に向かった父がほどなく……
2021.01.20
-
ライフスタイル
店名は小説のタイトルをオマージュ! 自分だけの一枚が見つかるヴィンテージワンピース500着のクローゼット【古着屋 ミミズク/尾道市三軒家町】
ワンピースは、いつだって女性にとって特別な一枚だ。 初めてのデートの日、大切な人のお祝いの席、ちょっと背伸びしたレストランに行くとき。 「きちんとした人だな……
2021.01.09
-
ライフスタイル
【2020年のうちに読んでほしい一冊】カリスマ編集長『VOGUE』アナ・ウィンターのドキュメント本『Front Row アナ・ウィンター ファッション界に君臨する女王の記録』
『Front Row アナ・ウィンター ファッション界に君臨する女王の記録』は、ファッション雑誌『VOGUE(ヴォーグ)』のアメリカ版編集長を務めるAnna W……
2020.12.21